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ワルプルギスの夜を越え  2・羊小屋の子ども達

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スープを持って間仕切りの部屋に入ってきたロミーにハンスは顔を見ないように俯いたままで言った。
外の喧噪は聞こえていたが体を起こして様子を伺うという気力はなかったようでベッドに座った状態。手元には自分で作った歯車のバレル模型が並べてありパズルのように組んで置いてある
黒い髪のせいで色の白い肌が余計に浮かび上がって見える、日焼け仕事はしたことのない顔は元気のないままロミーに語る

「カリヨンは音が全てだよ、ずれてるなんて許せないと思わない?」
バレルと繋ぎの木片を差し引きする動作をロミーに見せるが、感心という反応は薄い
「そんなこといってもあっち(私)にはわかんないよ。壊れてるのならば直しに来るし…そういうのは教父様や鍛冶職人の仕事しょ?」
両手で木造りの器を持ったロミーは頬を膨らませて

「ハンスが心配しなくても年越しの祭りの前には直しに来るよ。この町の名物なんだからさー」

自分を見ようとしない相手の姿を気にせずロミーは真横を陣取ってスプーンを手渡す。
小屋の中、簡単に間仕切りした中でもっとも釜戸の壁に面した部屋がヨハンナとハンス姉弟の場所。釜戸に近い事で冬の中ではこの部屋が二番目に暖かい。
一番は火だねを絶やさないように炉の前で、シグリが寝ている場所だが近すぎて火にあぶられ髪を燃やすほどに狭い場所である事を考えれば、ハンスのいる場所はエラお手製ベッドもある一等地のような部屋だ。
手渡されたスープを抱えたままハンスは小さな声で

「姉さんは…教会の仕事にいったんだよね。ぼく…今日は具合もいいし薪割りをやろうかと」
「それはあっちがやるからいいの」

一緒じゃないと口を付けないぞという脅迫をロミーは目でする。
ハンスは眉をしかめ目を曇らす。ベッドに入ったままの虚弱な自分を恨めしいと

「ぼくだけここでのんびりしてるなんて嫌なんだよ…」
ハンスの窮屈な思い。弱い体故に姉達の助けになれない辛さはいつものように吐露されるが、ロミーはそのたびにハンスの手を掴む

「春までに治せばいいんだよ。冬の間はあっちが世話てしあげるから、余計な事考えないで体を良くする事だけ考えて…ねっ。ヨハンナだってそう願ってるんだから」
「姉さんを助けたいんだ。ぼくは男だから…だれよりも役にたちたいんだ」
「わかってるよ、ハンス。来年はバリバリ働いてもらうからさー、今は食べて元気になる!」

いつもの励まし、スープだけという朝の時間が過ぎていく。





「それがね、食えもしない卵だったらしいのよ」

教会前から広がる大通りは城塞の区画からすると何重にも折れた道として作られている。
その中で外園をなぞるようにうねった大通りは町の中の大街道といっても良い。
ここは周りに何もない土地だった。だから四方を見渡せるように大きく円形に縄張りを行った円形城塞の小型判だ。
外から見る分にはただの円なのだが、中身の方はかなり凝ったつくりになっている。
大きく三重の輪を作った石壁と、間に区切りの入った建物群。
小道は壁を挟んだ迷路のように造られているため、外から来た人では町の中で迷子なるのは日常的な光景としてみられるほどだ。
町のほぼ中央、円の中心からクロスロードの形式で道が組まれているのは教会と庁舎が並ぶ最深部の一重のみで、その石壁も分厚く普段は硬い鉄扉の向こう側の世界である。
教会と地位在る者、そこに使える者達にしか出入りの許されない区画はいつもの静かな朝を迎えている。
二重の側は半々で商人や職人達が店と家を連ねている。
静かな中心部より外枠のこちらは街道の町のメインストリートだった。
石壁の間を縫って、お日様が最初に届く場所である二の曲輪の広場に市場は建ったている。
ここが外の世界と町の住人にとっての玄関口であり商いの盛んな場所でもある。
その一角に年寄り達が籐の網籠を売る出店がある。
何せ年寄りばかりの店だ、長く教会など庁舎に使えた侍女の多くが店を持っておりそこの手伝いにエラとシグリはやって来ていた。

「んでんで?その卵泥棒はどーなったんで?」

朝から噂話をしていた老婆達の間にチャッカリ入り込んだエラは首をフンフンと上げ下げしながら話題に噛み付いていた。
その後ろではシグリが懸命に荷運びをしているが、知らん顔でだ。

「はぁああ、そりゃ神様の裁きにあって狼に食われちまったらしいよ」

市場の片隅で切り株のイスに腰掛けた老婆は指差して

「東の方に抜ける道の前にさ、橋あるだろ。あそこに行くずっと手前の小道で馬車ごとすっころんじまったらしくって、そこを狼に襲われてバラバラになってたらしいよぉ」

老婆の話から門番達の動きを目で追うエラ

「7日ぐらい前の雨降ったじゃん、あの後荷馬車で山越えをやったんかい」
「そうよ、雨の後の泥濘で輪っぱ掬われてこけちまったらしいよ」

何の前触れもない日だった。
日中は晴れていたのに本格的な夜に入る一歩手前で大雨が降った日が7日前にあった。
翌日羊が帰って来る日だったのに、帰っては来なかった。
日が過ぎたことで3日前からアルマが心配だと夜な夜な城壁の方を見に行っていた時の事を思い出す。

「雨ふって…山がぬかるんでるところを食えもしない卵もってどこいくつもりだったのさ?って食えねえ卵ってなんだよ?」

店先のテーブルに体を引っかけていたエラ最大の疑問はそこだった。
卵泥棒は許されざる重罪だ。ここ何年か周辺地域には大なり小なりの干ばつが続いており卵は取れにくくなっている。卵を産む鶏を先に食べてしまわないと生きられない土地だってあるぐらいだ。その事を考えるに卵は貴重だが、食べられないなら何が貴重なのかわからない。
エラの素朴な疑問の前で座っていた老婆は鼻で笑う。
となりに立っていた茶色の外套の老婆も歯の抜けた口を広げて笑うと

「おやおや物知りのエラでもしらないものがあんだねぇ」
空気の抜ける音を響かせる笑い声で
「あれだよ、ブルボン*1のクルチザンヌ*2が集めてる置物の卵だよ。エラじゃそんな女には成れないからわかりっこねーやなぁ」
歯がないぶん笑いも言葉もどこか漏れて掛けているような物言いに、エラは顔を歪めて

「なんだ寵姫さん達の宝石か、卵まで置物にするなんてとんだ酔狂だぜ」
「それでも、そいつが無くなったって持ち主のお嬢様は息が止まっちまったぐらいに貴重なんだってよぉ」
「バカげてるぜー」

素っ気ない返事で、やれやれと手を挙げると

「どっかで一儲けしようと考えてたバカ野郎なんだな。食える方がよほどに貴重なのにねー」
「本当だよ。食べられないものなんてあっても飢えちまうだけだよ」
同意と頷く老婆達の前、エラの背中ではシグリがすっころんでいた。
運悪く町の商家のバカ息子の前で

「なにやってんだ、………とんまのシグリ!!」
籐籠と乗せていた荷物ごと転んだシグリは顔を打ち付けたのか鼻を真っ赤にした顔で

「あは〜〜〜ごめん〜〜〜」
罵られるままに謝るが、相手の方は籠を蹴飛ばして
「朝からとんまの癖にフラフラ出歩いてんじゃねーよ。頭弱いんだったら隅っこで壁伝って歩け!!」
ぶつかったわけではないが足下に籠をぶちまけられたことで喚く相手に

「ごめんってぇ〜〜〜ごめん〜〜〜」