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はろ☆どき
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novelistID. 27279
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桜舞う、夢に舞う

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花が咲き始めると、昼間でも夜遅くでも時間を見つけては訪れる場所がある。
街の外れにある公園の奥の奥。あまりわざわざ踏み入れる者もいないような小路の先に、ぽつりと抜けたように開けた空間があった。
そこにはまるで鎮座しているかのように、どっしりとした幹に枝が広く低く張り出した桜の大木が一本立っていた。

春先には見事な桜吹雪を舞い散らせるその空間は自分のお気に入りの場所で、ロイとの秘密の場所だった。花の頃には二人でよく眺めにきたそこは、今は自分一人が訪れる場所だ。
何か物思いに耽るようなことがあると、花の時期に限らず人気のないここに来てはぼんやりと木を眺めていた。
いや、何かではない。彼のことを考える時、自然とここに足を向けているのだという事にほんとは気づいていた。


******


そろそろあちこちで桜が満開だという声を聞くようになった。
今日は遅くはなったが店が開いている時間に仕事をあがれたので、買い物をして帰ろうと帰路につく。
外では暖かいが少し風が吹いていた。
この分では週末辺りが散り時だろうかと思いながら街中を歩いていたら、ついと桜の花びらが目の前を横切る。

ゆるく風に乗ってふんわりと飛んでゆくそれを思わず目で追っていると、通りの向こうまで飛んでレストランらしき扉の前ではらりと落ちた。
高級そうな店だなとなんとなしに見ていたら、ふいに扉が開いて綺麗な女性と…ロイが出てきた。
突然のことに息が止まりそうなる。
二人で食事をしていたのだろう。
車でも待っているのかそのまま立って談笑している様子だった。
品のいい知的な感じの女性は正に花が咲いたように華やかで、ロイと並んで立つ姿はとても違和感がなかった。

彼女はロイを見上げて笑っていて、ロイも彼女に笑いかけていて。
ただそれだけのことに心が耐えることができない。
いたたまれず目を逸らそうとした瞬間にロイがこちらを見たような気がしたが、構わずその場を逃げるように立ち去った。
仕事がらみなのかもしれない。ああ見えてあの女性は情報屋なのかもしれない。
いやそうでなかったとしてなんだというんだ。

自分にないものを羨んだってしょうがない。そうなりたいと思っているわけでもない。
なのにこの胸の痛みはなんなのだろう。
あの場にふさわしい全てを持っているのは、彼の隣にいるべきなのは彼女のような人であって自分じゃない。
今まで何度もそう言い聞かせるように思ってきたが、その度に感情が削がれていくような気がした。
いっそ感情なんて全部剥がれ落ちてしまえばいいのに。いつまでも彼を想ってしまうのをやめられないこの脆弱な心と共に。


気づいたら、咲き誇る桜の大木の前に立っていた。


******


また自分はここに来てしまったのか。
―桜の木の下には・・・
頭の中にふいに言葉が甦る。
そうだ、ここでロイと桜の話をして。
そしてここで初めて・・・

「初めて君にキスをしたのはここだったな」
はっと振り返るとそこには・・・闇を纏った愛しい男が立っていた。
「なんで・・・」
はらはらと舞う花びらの中に彼がいるのが現実のものと思えなくて。夢を見ているような心地で言葉もろくに出すことができなかった。


作品名:桜舞う、夢に舞う 作家名:はろ☆どき