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伝説の裏舞台! 炎を呼び覚ませ!

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「さがしもん、まだ見つかってへんやろ。手伝うって約束したんや、関係なくない」
「探し、もの……」
「せや。ここにあるんか? 探しもん」
おうむ返しに呟いた小鬼に頷いてヒデアキが訊ねる。

さがしもの、さがしていたものの、気配は。

「……いる。この闇の向こうに。分かる」

しっかりと、小鬼の萌葱色の瞳が輝きを増してヒデアキを見据える。

「ヒデアキ。手伝ってほしい」

力強く見上げてくる萌葱の瞳に頷いて、からりとヒデアキが笑う。

「最初っからそう言うとるやろ、鈍いタコやな、ほんま」

くるり、と前を向いてケルベロモンを見据えるヒデアキの瞳にも、もう怯えは無い。

獣が哄笑を孕んだ唸りを上げる。
「弱体化したちっぽけなデジモンと人間一人でなにができる気だ?」
あざ笑う声にヒデアキは臆することもなくにっと挑発的な笑みを返して、クロスローダーを取り出した。

「誰が一人やって? ――リロード・ドーベルモン!」

かざした紫色のクロスローダーから光が迸り、しなやかな四肢を持った狩猟犬のような形のデジモンが出現する。
「貴様……」
「ヒデアキ……?」
ついと目を細めたケルベロモンと目を見張った小鬼にヒデアキはにいと勝気な笑みを浮かべる。

「さあ、デジモンハントや」

「行くで、ドーベルモン!」
「バウッ!」
澄んだ青い瞳をきっとケルベロモンへ向け、次の瞬間、細い四肢の瞬発力でもってドーベルモンは一跳びにケルベロモンへと躍り掛かる。
「ガアッ!」
鋭い咆哮と共にケルベロモンはドーベルモンの牙を避け、ドーベルモンよりも大きな身体を利用して前脚の一振りでドーベルモンを投げ飛ばす。
「ドーベルモン!」
堪らず声を張り上げたヒデアキに応えるがごとくにドーベルモンはずざっと着地した。
ヒデアキの方を見遣ってバウッ、と吼えるその姿に無事を見て取ったヒデアキは再びケルベロモンに向かっていく相棒の姿を見ながら、小鬼に向かって口を開く。

「なにぼさっとしてんねん。今の内や、あの犬公は俺達に任せてさがしもん見つけて来い」

その言葉に小鬼はハッとしたようにヒデアキを見、それから闇の向こうに目をやって軽く頷いた。

「頼む」
「頼まれた!」

お互いの眼も見ずにそれだけの会話を交わして、小鬼は求める気配を頼りに闇の中へ駈け出した。
駆けていく小鬼の姿をちらりと見送って、ヒデアキはぐっとクロスローダーを握る手に力を込めた。

「さあ、ドーベルモン、男の見せ所やで!」
「オオンッ!」

ケルベロモンは体は大きいが、それ故にドーベルモン程速くはない。
負けて、たまるか。


咆哮、骨と骨、肉と肉がぶつかる鈍い音。
そういったものを後ろに聞きながら、闇の中を小鬼は駆けていた。

ここに、この先に、いる!

ぬめるような闇を掻き分けて走って、その先に、小鬼はやっと探し続けていたものを見つけた。

何かが欠けたような焦燥感と、切れ切れの記憶。
それを埋めるのは。

闇の中、眠るように目を閉じて、一人の子供がふわふわと浮かんでいた。

赤銅の髪、閉じた瞳の奥の緋色の瞳。


「拓也」


俺の、半身。


「拓也」

一度目は唇から自然と零れて、二度目はしっかりと意志を持って。
紡がれた響きに、少年――拓也が、そっと目を開けた。
「拓也」
ふらついた視線を声の元に辿り着かせた拓也と目が合って、どちらともなく口を開く。

「また、逢えた」

一瞬だけ二人してくしゃりと顔を歪めて、けれど二人の視線はすぐに闇の向こうへと注がれた。
姿も色彩も違えど、その瞳に宿った灯火は全く同じにきらきらと輝く。

「戦えるか?」
「お前が、いれば」
「そうだな」

拓也によく似て、けれど拓也より低い声が頷く。

拓也が闇の向こうから視線を戻した先にはもう小鬼のなりをした小さなデジモンはおらず、陽炎のように立つ闘士が、炎の瞳で拓也を見詰めていた。

「俺達は、一つだ」

いつのまにか拓也の手に握られていたデジヴァイスが目映い光を放つ。
光の最中、二人どちらからともなく歩み寄って、存在ごと重なる。
熱い。熱い。鼓動ごと重なって、どちらでもなく、どちらでもある声が喉をつく。


「――スピリット・エヴォリューション!!」


闇を、紅い光が貫いた。


翳した左手に光が集まってデジコードの輪を成す。
右手に握ったデジヴァイスがそれを読み取って拓也の表層を、否存在ごと、炎の甲冑を纏った闘士のそれへと作り変えていく。
二人は、一人に。
魂の火を、重ねて炎に。


「――アグニモン!!」



紅の炎を纏って、炎の闘士がそこに立っていた。



闇を切り裂く光に、今まさに床に叩きつけたドーベルモンを踏み潰さんとしていたケルベロモンは瞠目した。
「何だ、この炎の波動は!!」
「! ドーベルモン、今や!」
「バウッ!!」
意識を逸らせた一瞬の好奇を見逃さず、ドーベルモンの牙がケルベロモンの喉を襲う。
「ガアッ!!」
不意打ちの反撃に仰け反ったケルベロモンの下からドーベルモンは素早く抜け出し、一跳びでヒデアキの元へ舞い戻る。
「ようやったドーベルモン!」
「貴様…!」
にいっと笑むヒデアキに、思わぬ攻撃を喰らったケルベロモンのぎらついた瞳が向けられる。
「許さん、許さんぞおおおおああっ!!!」
大きな四肢が闇を蹴り、その闇ごと纏うようにして今までにないスピードで襲い掛かる。
「くっ、ドーベルモン!」
避けろ、と指示を出す暇も、無かった。

紅が、視界を染める。


「――サラマンダーブレイク!」


鮮やかな紅の炎が、炎を纏った人型のデジモンが、強烈な蹴りでもって、決して小さいとは言えないケルベロモンの身体を吹き飛ばした。

「貴様、その姿は……!」
倒れ伏したケルベロモンが身を起こしながら呻く。

「おのれ、アグニモン!」
吐き捨てるような咆哮にもアグニモンは頓着しない。

「今一度、お前の因縁を焼き切ってやる」
「やってみろぉ! ヘルファイア!」
緑色の炎の渦がアグニモンを襲う。
アグニモンの身を隠す程に大きく燃え上がる禍々しい炎にヒデアキが「アグニモン!」と叫ぶが、その必要はなかった。

「お前の炎に焼かれるアグニモンではないと、言った筈だ!」

冷徹なまでの断罪を吐いて、アグニモンの体が再び炎を纏う。

「サラマンダーブレイク!」
「ガアアアアアッ!!」

炎を纏った強烈なまでの蹴りがケルベロモンを貫き、デジコードが露わになる。

「俺は、俺はぁぁあああっ!!」

冴えた蒼い瞳でひたと黒い獣を見詰め、アグニモンがデジヴァイスを構える。

「穢れた悪の魂を、このデジヴァイスが浄化する。――デジコード・スキャン!」

じりじりと火花を散らして、ケルベロモンの纏っていたデジコードがアグニモンのデジヴァイスにスキャンされていく。
最後に残ったデジタマは、きらきらと輝く軌跡を描きながらどこかへ飛んで行った。