Secret Operations
僕はそう言うと、ナーシャの事について考え始めた。ナーシャは僕がある組織に入った時に割り当てられたパートナーだった。そして今回はナムオアダフモ機関に潜入調査をする任務を与えられた。今回は運よく『ススキヶ原T-ウィルス散布及びB.C.W.(ビークゥ)戦闘データ算出実験』に参加する事ができ、T-ウィルス及びB.C.W.のデータを採取する事が出来る。ナムオアダフモ機関を告発する為には、それは好都合なんだけど、ナーシャはどうも性格が掴みにくい。仕事仲間だから仕方なく一緒に仕事をしているけれど、仲が良いとは云えない。……のび太君はこんな時どうするんだろうか? いや、こんな事を考えていてもしょうがない。それになんでそこでのび太君が出てくるんだ? 僕も心の何処かでのび太君を頼りにしているのか? その点は否定はしないが、少し期待し過ぎている節があるな。気を付けないと。
ふと僕は相談室にある時計を見た。時計の針は既に11時を差していた。あと30分程でのび太君達がススキヶ原に到着する。もちろん、自分たちの町が地獄になっているとは知らずに。しかし、僕がのび太君達と合流する訳にはいかない。あと30分で研究所に移動する経路を確保しなければ難しいかもしれない。
「おい、全員聞け!」
山本さんが全員に聞こえる声で言った。その直後に僕を含めるほとんどの人は山本さんの方を向いた。
「これより3階の制圧を行う。先程とは違い、最初に北舎の方を制圧する。拠点にするのは理科室とする。難しいようなら、他の場所をあたってみてくれ。で、制圧に向かう人員だが、出木杉と安雄とナーシャに行ってもらう」
山本さんがそう言ったが、僕はその言葉に疑問を持ち、山本さんに質問した。
「ちょっといいですか? どうして僕とナーシャさんと安雄君の組み合わせで行くんですか?」
僕がそう訊くと、山本さんは答えた。
「俺達はこれから作戦内容の立て直しをしたい。救助のヘリとの連絡をする必要もあるからな。だから、俺達以外で戦闘能力がありそうなお前達に頼んだんだ」
山本さんがそう答えた後、僕は山本さんに救助のヘリの事について訊いた。
「……解りました。……それで、救助のヘリとの連絡とは?」
僕がそう訊くと、山本さんは少し間を空けてから答えた。
「……実は救助のヘリとの連絡が取れてなかったんだ。これから何回か呼びかけてみるが、それでもだめなら別ルートを探すしかないな」
山本さんがそう言った瞬間、はる夫君は言う。
「え、じゃあ助けは来ないの?」
はる夫君がそう言うと、山本さんは淡々と答えた。
「可能性としてはそれも考えられる。もしそうなったら、裏の山を登山する事も覚悟しておいた方がいいだろう」
やはり、そう簡単に救助は来ないか。恐らくナムオアダフモ機関がいろいろ手をまわしているんだろう。政府を話をつけて、ここの地下研究所に中性子爆弾を仕掛けるくらいだからな。救助が来ないと仮定すると、彼等は裏の芒野山に向かうだろう。その時に彼等を『裏里』に留め、その間に僕達が研究所に向かうようにすればいいかもしれない。
「登山って、それでちゃんと助かるの?」
はる夫君がそう訊くと、山本さんははる夫君の方を見ずに答えた。
「少なくとも市街地を行くよりはな。ただ、助かるかどうかは微妙だな。」
山本さんがそう言うと、はる夫君はそれ以上は何も言わなかった。もう、彼の不安感はピークに達しているだろうな。もともと精神が強い方では無かったし。早く作戦が終われば、彼等をここから脱出させる事も可能だ。迅速に行動するべきだな。
「じゃあ、僕達はそろそろ3階に向かいます」
「ああ。あまり深追いはするなよ。北舎だけでいい。理科室が拠点として使えなさそうなら、そのまま戻ってきてもいい。解ったな?」
山本さんがそう言うと、僕は山本さんに肯定の意を示した。
その後、僕と安雄君とナーシャは相談室から出て、北舎の東側階段から3階に上がった。隊列は僕と安雄を先頭に、ナーシャを後方に配置する形式をとった。行動する人数は3人なので、部屋の中を制圧する際には、1人が部屋の外を警戒し、残りの2人で部屋の中を調べるという方法が使える。基本的にこの方法で安全確保の作業を進めていく事になる。
僕達3人は慎重に階段を上がっていった。すると踊り場にゾンビが2体程いるのが確認出来た。僕と安雄君は、ほぼ同時に発砲した。2つの弾丸は2体のゾンビに1発ずつ当たり、ゾンビはよろけた。続けてゾンビに弾丸を撃ち込むと、ゾンビは音も無く倒れた。踊り場に倒れたゾンビを避けながら進み、3階まで到達した。3階にはそれ程ゾンビはいなく、制圧は大して難しくないように思えた。ゾンビを射殺すると、理科室に向かった。理科室の扉をゆっくりと開けると中にはゾンビも誰もいなかった。
「理科室には奴等はいないようだね。廊下にいた奴等も大した数じゃなかったし、この分だったら、拠点として使えるかもしれない」
僕がそう言うと、安雄君が答える。
「そうだな、ここなら大丈夫そうだ」
こんなに簡単にいくとは思わなかったが、容易に済むなら好都合だ。無駄な戦闘をしなくて済む。
「そうだ、俺はここにいるから、出木杉とナーシャさんは3階の他の場所に行っててくれ」
安雄君がそう言ったが、僕は安雄君の意見には反対だった。いくらこの理科室が広いとはいえ、B.C.W.が入ってきたら、安雄君一人では対処できないかもしれない。
僕は安雄君を止めようとしたが、僕よりも早く安雄君に言った人物がいた。
「駄目よ。一人になるのは危ないわ。下にいる皆を呼んできてからにしましょう」
そう言ったのはナーシャだった。安雄君は最初はナーシャの言っている事に反抗していたが、やがて妥協し、下の階の皆を呼んでくる事になった。ナーシャは普段はいい意味でも悪い意味でもさっぱりした性格であり、あまり人に干渉しない人だ。この場合でも、安雄君の言う通りに安雄君をここにおいて、僕とナーシャで別の場所を調べる方法でもいい筈だ。恐らくナーシャは、さっきの事で慎重になっているんだろう。
それから僕達は2階の相談室に向かい、安藤さん達を呼んできた。暫くすると、理科室に6人全員が集まった。安藤さんは、理科室の机に銃火器や弾薬類を置いていった。その間に山本さんは全員に話し掛けた。
「では、これから3階の安全確保を行う。俺とナーシャは南舎の方に向かい、安藤と安雄は北舎に向かってもらう。出木杉とはる夫はこの理科室に残ってもらう。それでいいな?」
山本さんがそう言ったが、誰も反論する人はいなかった。その後、僕とはる夫君は理科室に残る事になった。
「なぁ、出木杉。のび太達は何処に行ったと思う?」
いきなりはる夫君からそう話し掛けられたので、僕は驚きつつも、はる夫君の質問に答えた。
「そうだね。さっきから全然見ないし、大事になっていなければいいけど」
「ジャイアンやスネ夫は大丈夫だけど、のび太は鈍いから心配だな。あの怪物にやられてなきゃいいけど」
「……とにかく今は、安全な場所に移動する事だけを考えよう。僕達みたいな子供がしゃしゃり出て解決するような問題じゃなさそうだし」
作品名:Secret Operations 作家名:MONDOERA