Secret Operations
数秒すると、はる夫君を引き上げるのに成功した。窓の外を見てみると、さっきまではる夫君がいた場所にゾンビが群がっていた。――――――意外と危ない状況だったかもしれないな。そう考えていると、安雄君が言い放つ。
「おい、この状況は一体何なんだ!? 出木杉! お前なら何か知ってるんじゃないか?」
安雄君がそう言った。勿論、僕は全て知っている。この状況は、『ナムオアダフモ機関』が『T-ウィルス』をススキヶ原に散布した所為だと。しかし、本当の事を言う訳にはいかない。少なくとも、のび太君達と合流するまでは。
「……僕にも解らないよ。こんな状況は、今までどんな国でも起きていない。」
――――――適当にそう応えた。すると、安雄君が頭(こうべ)を垂れながら言う。
「………そりゃそうだよな。ごめんな、叫んだりして。」
………そう言われると、申し訳ない気持ちになる。こうなったのは、僕の責任でもある。例え、世界の為とはいえ、やりにくいな。
「!! 出木杉! お前あんなの持ってたのか!?」
はる夫君がいきなりそう言った。はる夫君の視線を追っていくと、さっき使ったスナイパーライフルがあった。―――――――――――――――――――――しまった。完全に忘れていた。なんとかして誤魔化さないと。
「………さっき、警察の人と会って、その銃火器をもらったんだ。身を守る物が無いと危ないって言われてね。」
……言い訳としては少々苦しいが、誤魔化し切れるだろうか。
「…そうか、なら解るな。その警察の人からどんな武器をもらったんだ?」
安雄君がそう言った。どうやら、この言い訳は通用したようだ。僕は安雄君とはる夫君に、持っている銃火器を殆ど見せた。それは、『コルトM79』と『ベレッタM92FS』、『レミントンM870MCS』、『SVD』だった。それを見たはる夫君は、まじまじと見つめ、やがて口を開いた。
「一口に銃と言っても、いろいろあるんだなぁ〜。」
…そうか、はる夫君達は、銃の種類すら知らなかったっけ。そう思いながらも、僕は任務内容を思い出していた。
――――――――――――僕の任務は、11時30分にススキヶ原に到着するのび太君達の為に、のび太君の家の周囲にいるゾンビを殲滅する事だ。今の所は特にする事は無いが、常にのび太君の家を監視していなければならない。なんとかして、僕一人になる状況を作らなくては駄目だな。………………差し当たり、小学校に避難させるか。確かこの辺では、小学校が避難場所になっていた筈。地元の警察が、ゾンビやB.C.W.を殲滅できる程の戦力は持っていないと思うけれど、流石に3時間位は持ちこたえられるだろう。今の所は、安雄君とはる夫君を小学校に避難させるか。
「いつまでも此処に篭城しても何も解決しない。確か小学校に警官隊がいた筈だから、一旦そこに避難しよう。これからの事は、それから考えればいい。」
僕は安雄君とはる夫君の二人にそう言い放った。すると、はる夫君が叫ぶ。
「小学校に警察がいるのか!? なら早く行こうぜ!!」
はる夫君はそう叫びながら立ち上がったが、安雄君が口を開いた。
「その意見には賛成だけど、あのゾンビみたいな奴らに襲われたらどうするんだよ?」
安雄君がそう言うと、僕はゆっくりと答える。そうする事で、パニックになる確率が低くなるからだ。
「さっき、窓からゾンビ共の動きを見ていたけれど、力は些か強いようだ。只、動き自体は遅いらしいね。だから、ゾンビの脇を擦り抜けるように走れば掴まらない筈。危ない場所では、ゾンビの足を銃撃すれば、大丈夫な筈だ。」
僕がそう言うと、安雄君は少し安心しているように見えた。
―――――そういえば安雄君はお化け嫌いだったな。竦み上がって、腰を抜かさなきゃいいけど…。
僕がそう思っていると、はる夫君は傍にあった、『ベレッタM92FS』を拾い、口を開いた。
「なら、早く行こう。こんな所いつまでもいられない。」
……はる夫君はやたら焦っているように見えるな。まぁそれもそうか。僕だって、ゾンビ共の餌になるのは御免だ。
――――――しかし、一つ気になる事があるな。
そう思った僕は、はる夫君に尋ねた。
「はる夫君、銃の使い方は判るのかい?」
僕がそう尋ねると、はる夫君は黙ってしまった。どうやら判っていなかったようだ。
「意気込むのもいいけれど、慌てれば足元を掬われるよ。銃の使い方を簡単に教えるよ。」
僕はそう言いながら、拳銃(ハンドガン)の使い方を教えた。とは言っても、引き金の引き方と照準器の使い方、マガジン交換の仕方くらいの、必要最低限の事しか教えなかった。動くなら、なるべく早い方がいい。
暫く教えると、はる夫君は拳銃(ハンドガン)の使い方をある程度解ったようだ。安雄君には、『コルトM79』の使い方を教えた。擲弾発射器(グレネードランチャー)は扱うのが難しいと言ったが、安雄君は、「これがいい。」と言って聴かなかった。確かに威力は高いが、照準の仕方が他の小火器と違う為、僕には扱いにくい。しかし安雄君は、それでもいいと言った。
それから十数分後、安雄君とはる夫君に、銃火器の使い方の教授が終わった。時計を見ると、8時30分を回っていた。僕は、ある程度の銃火器とボウイナイフを用意すると、安雄君とはる夫君に言う。
「よし、準備も終わった事だし、早速、小学校に向かおう。」
僕はそう言いながら、窓から外を覗き込んだ。窓の下には数体のゾンビがいた。僕は、『FN ファイブセブン』を構えると、真下のゾンビの頭部目掛けて発砲した。2発程外れたが、その他の弾丸は、ゾンビの脳幹を撃ち抜いた。更に、周囲のゾンビも、『SVD』で射殺すると、ワイヤーを降ろして、ワイヤーを伝い、地面に着地した。安雄君とはる夫君もそれに続いた。二人は着地すると、はる夫君は『ベレッタM92FS』を構え、安雄君は『コルトM79』を構えた。素人にしては中々様になっている。
「で、小学校には、最短距離で行けばいいのか?」
安雄君がそう尋ねた。
「…取り敢えずは最短距離でいいだろう。ゾンビがいたら、何か作戦を立てよう。」
僕はそう答えた。無駄に歩き回って体力を消耗するよりも、少々危険を冒しても、最短距離を進む方が得策だと考えたからだ。それに、のび太君の家から小学校に向かうなら、直線距離自体が長いから、どちらの方法を取っても大差はないが、僕の家から小学校は近いから、最短距離を進んで行く方がいい。
「行くなら迅速に行動しよう。」
僕は、二人にそう言うと、『FN ファイブセブン』を腰の辺りに落とし、小走りで小学校に向かった。途中、ゾンビが数体いたが、微々たるもので、すぐに始末出来た。小学校までもうすぐという所ではる夫君が叫んだ。
「! うわぁ! 奴らだ!!!」
安雄君と共に後ろを振り向くと、10体近くのゾンビが大挙してこちらに向かってきていた。
「安雄君、いよいよ君の出番だな。使い方はさっき教えた通りだ。」
作品名:Secret Operations 作家名:MONDOERA