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アリス振り回される(後編)

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それから深い溜息を吐くと、再び先程のように後ろからアリスを抱き締めるように横になった。

時々耳や首筋に唇を押し当てる男の熱い息がかかる。

「アリス、どうしたら君の心を手に入れられるんだ。」

苦しそうに絞り出された声はアリスに尋ねる為に発せられたものではなく、抑え切れない想いが零れてしまった独白の様に聞こえた。その声を聞きながら、再び眠りに落ちてゆく。




☆ 6.アリス、さようならの前に



結局、すっきりと目が覚めたのは次の時間帯になってからだった。
身体を起こすと大きく伸びをする。扇情的な色のビスチェを見て甦る記憶。何も思い出したくない。頭を左右に振ってベッドから下りる。着替えが用意されていて、脱がされたドレスは何処にも見当たらない。
アリスは浴室で熱いお湯に浸かりながら、結局連れ戻されてしまったこの帽子屋屋敷に今後も滞在するのかどうか考えている。どちらにするにしてもこの世界での残された時間はかなり少なくなっているはずだ。今更面倒事を増やしたいわけではないので、そういう意味では突拍子も無い事をしてくるブラッドの出方次第と言う事になる。未だ帰る方法すら見つけていないアリスには、本当に元の世界に戻れるのかと言う不安もあった。

いつものエプロンドレスに身を包み鏡の前に立つと、舞踏会で紅いドレスとマスケラを着けた自分とが同一人物とは思えない。きっと誰も気付いてはいない筈。例えば、あれは私、と言っても信じてもらえないだろう。本当に一夜限りの夢のようなシンデレラ的体験だった。ビバルディには感謝している。もしも、元の世界に帰っても此方での記憶が保持されるならば、本当に一生の宝物にしたいくらいだ。
だが、マスケラを落としてしまった後の事は思い出したくない。薔薇園での事も、この客室での事も、思い出すとどうして良いかわからなくなってしまうのだ。ブラッドのすることに一々反応する事は馬鹿げているのだが、心臓が早鐘の如く打ち続ける事をどうにも出来ずにいる。

初めて使った客室を出ると、ダイニングへ向かう。
この辺りから見る景色は、いつも見慣れた庭とは違って見える。単に見る角度が違うだけなのだが新鮮に映る。窓外の青い空と降り注ぐ陽光を見ていると、ハートの城に居たことが夢のように思えてくる。これまでも、これからもこの屋敷に住むという錯覚すら感じた。

(違う。此処は私の世界じゃない。)

擦れ違う屋敷のスタッフ達からは、お帰りなさいと何度も声をかけられた。そうか、自分は此処に居ることが当たり前の人間だという認識を持ってくれているのかと実感する。こんな事でもなければ気付きもしなかったことだろう。そして何故だろう、この世界の人達と別れて、元の世界へ帰る選択をしようとしているのに嬉しいと思うのだ。
此方の世界に慣れてしまうと、此方の住人の方が優しくて温かいと思うのだ。未だ受け入れられない価値観が山ほどあるこの世界が、元の世界より温かく感じるとは不思議なことだが。
ダイニングでサンドイッチを作ってもらうとポットに入れた紅茶を持って外に出る。もう直ぐ見られなくなるこの世界を少しでも記憶するために。

庭の木陰の屋敷全体が見渡せる所を陣取って食事を摂る。身体的には久々の食事になるはずだ。ゆっくりと咀嚼しながら、帽子屋屋敷に来てからの様々なことを思い返してゆく。双子が目の前を駆けて行き、ブラッドとエリオットが何か難しい顔で話をしながら連れ立って出かけて行く。メイド達が洗濯物を干しながら、楽しげに談笑している。そんな幻影が目の前に次々に現れ消えてゆく。
出会いがあれば別れがある。解っていた筈なのに。想いを残すような関係性は築きたくないと思っていた筈なのに。いつの間にかこんなに親しくなって、お互いが顔を合わせることを当然だと思うようになっていた。そうして、次も会えると勝手に思い込んでゆく。

(そんな保証は何処にも無いはずなのに。)

アリスは食事を終えると、庭を一周する為に歩き出す。
重い気分を吐き出すために、はあぁぁぁ~、と大きく溜息を吐いた。
アリスは眉を顰め、周囲を見回す。今、自分の溜息とは別の大きな溜息が聞こえたような気がしたからだ。
(気のせい?)
再び歩き出そうとした時、またしても溜息が聞こえてきた。
よくよく見れば、少し離れた草むらからエリオットのブーツの一部が見えている。近づいてみると、地面に寝転んだ大きな身体があった。いつもの元気が無い。耳も萎れている。

「エリオット?」

「んあ? アリスか~、いつ戻ったんだ? はぁぁ~」

「どうかしたの? 具合でも悪い?」

「ああ、胸が苦しいんだ。」

側にしゃがみ込み、エリオットの顔色を見る。

「大丈夫? 心臓が苦しいの?病気?」

「そんなんじゃねぇ。病気じゃねえ・・」

そう言いながら、エリオットの手がアリスの髪に伸びる。金色の長い髪の一部を掬うと見つめた。

「はぁぁぁ~、これって呪いだよな。」

「はあ?何を言っているの?」

全く話が見えない。寝転んでいたエリオットは重そうに上体を起こすと話し始めた。

「舞踏会の夜、俺たちさ、ブラッドに言われて城ん中であんたを探してたんだよ。それがさ、あの糞宰相のヤローが城のドレスコードをアリスにしててさ、メイドは皆あんたにそっくりに変装してやがるからやり辛くってな。しかも舞踏会のドレスコードが女性は仮面だったしな。もうお手上げ状態でさ。そん時だよ、一人で階段下りてきた赤いドレスの見たことも無い良い女が居てさ。俺、ダンス申し込んだんだけどな、口も利いてくんねーの。」

ここまで聞いてアリスは恥ずかしさの余り、耳を塞ぎたくなった。だが、エリオットは話し続ける。

「そんでさ、こっち見てにやっと笑って俺の胸に扇子を押し付けてさ、あれってぜってー何かの呪いだと思うんだよな。それから身体の具合がおかしくてさ。飯も食えねーし、俺ってもう長くないかも・・」

アリスは後半噴き出しそうになりながら、それは気のせいだと慰める。当の本人が言っているのだから間違いないのだが、エリオットは信じない。

「あんたも見たら、あれは魔女だって判ると思うぜ。もう妖しさとか綺麗さが人間離れしてんだって! 俺達の尾行も撒くしよ。行き止まりでパッと消えちまったんだぜ?」

そこまで言われると、褒めてもらっている気はしない。微妙な気分だ。

「エリオット、呪いなんてあるわけ無いじゃない。ほら、元気出して!」

「いや、呪いは俺だけじゃねぇ。あいつらも。」

そこまで言うと、エリオットは両手で自分の頭を押さえ、ああ~と言いながら再び地面に寝転ぶ。アリスはエリオットの不調は呪われたと言う思い込みから来ているだけなら心配ないだろうと、紅茶の残ったポットを持って屋敷内に戻った。ダイニングへ行くとキッチンに居る菓子職人に声をかける。

「ねえ、久々にお茶菓子作りたいんだけど、お勧めのレシピお願いします。」

快諾してくれた職人にスコーンのレシピを教えてもらい、小麦粉とバターを切り混ぜながら近くに居たメイドに話しかける。

「何だかエリオットが変だったのよね・・」

この話には数人のメイドが直ぐに乗ってきた。