満たされた腹を知らず
「だから俺な、飯食ってる時には『美味いか?』ってロマに聞くねん。ロマは喋れんようになってもうたから。起きた時は『おはよう』言うて、寝る前にもな、『おやすみ』って言うんよ」
少し長い沈黙が落ちた。
「……で? 仮にお前の支配が完全になったからこうなったんだとして、揺らいだらどうなるんだ? もう一度ロマーノが生まれるのか?」
フランスは悪巧みを思い付いた時のように嫌な感じに頬を歪めて笑って言った。
「多分そうやろな〜。俺ロマのおとんになるんかなあ……」
「腹にいるんなら母親だろ。まあお前なら産めそうだよな」
「……」
根は生真面目なプロイセンはフランスの軽口で笑うことができない。渋い顔をして無言でもそもそと菓子を食んでいた。
「フランスもそう思うー?」
スペインは自分でもそう思っていたらしくにこにこと笑った。
「でも分からへんねん」
「何が?」
「ロマが戻ってきてほしいかどうかってこと」
スペインは当然ロマーノの帰還を望むものだと思っていた二人は思わず二の句を継げなかった。スペインはそれを続きを促されているのだととって再び話し出した。
「もっかいロマができたら、そりゃあできることもいっぱいあるけど、でも離れられるようになってまうやろ。ずうーっとこのまんまなら、俺ら、ずっと一緒におれるやん」
二人は二つ。はじめにそう言い出したのは誰だったのか。それでもスペインがロマーノに注ぐ愛情は嘘ではない。だからこその発言なのだろうか。
「だから迷っとるんよ〜」
困ったように笑うスペインに冗談の気配は欠片も無い。ついでに言うなら、普段あれだけ好きだ好きだと騒いでいるヴェネチアーノへの配慮もゼロだ。
フランスとプロイセンは今度こそ二人揃って無言になった。
作品名:満たされた腹を知らず 作家名:あかり