ideal
別れを告げた。
好きで好きでたまらなかった。
好き過ぎて辛かった。
大丈夫だと思ってた。
こんなカタチの愛があるって思い込んだ。
おれは島に着くたびに、女とヤるために降りるあいつを見送る。
「今日は帰らねぇ」そんな言葉を何度聞いただろう。
その前の晩、おれとヤっているくせに、おれでは足りない。
所詮、この関係はこの船の上だけ。
溢れそうな愛を注ぐ器はここには無い。
本当に好きだったんだ。
本当に本当に大好きだったんだ。
ゾロ・・・・・・・・
お前はおれを抱くとき、少しでも感情が揺れたか?
もうおれは心の声が聞こえない。
以前のようにただ好きでいられない。
この瞳で見たモノ、この身体が感じたモノ。
それしか信じられない。
それでも、お前はきっと悪くないんだ。
少なからずそれがお前のカタチで、そこに愛が無くても、それがお前だから。
こうして苦しんでいるのはおれが多くを望むから。
手の届かないそれを望んでしまったから。
見ないようにしてきた現実が、今見えるようになった。
ゾロ。
おれは温かい愛を知ったんだ。
「お前なぁ、ゾロと付き合ってたんじゃなかったのかよ、」
「ちゃんと別れたからいーじゃねぇか。」
「だけどよぉ、付き合うことになったから別れたんだろ?」
「・・・まぁな。」
「順番逆じゃねーかよ、」
昼食の後、ゾロが早くに食べ終え部屋に戻っていった。
あの色々あった島から出航して1週間になる。エースは4日前に旅立った。
そして、皆にエースと付き合うことになったと告げた。
ゾロとの関係が知られてた以上、下手に軽い冗談でも言われるのはしんどかった。
だから打ち明けることにしたのだが、皆の顔は予想通り驚いてた。
「おれが浮気したんだ。」
「・・・・・・。」
「サンジくんは悪くないわ。」
「・・・・・・ナミさん、」
「ゾロが悪い。」
「そうね、」
「おっおい、お前らなんか知ってんのか!!!?」
「女は鋭いのよ。」
そう言った後、この先は何も言わないわと言うかのように黙って紅茶を口にする。
ウソップは何も理解出来ずに、サンジへ振り返るが困ったように微笑まれてしまった。
その表情にこれ以上は聞いちゃいけないと感じた。
「なぁ、サンジ。お前いつからエースのこと好きだったんだ?」
「・・・・・・・・ぁ・・」
「好きなんだろ?」
「・・・そう・・だな、おれがあの島に居た時からだ。」
「ニシシシッなんかおれまで照れるな。」
ルフィのまっすぐな問いにサンジは少し困惑してしまった。
確かに、エースのことは好きだった。
それでもまだ本来なら恋人になるほどでは無い。
あんなことが無ければエースの想いのためにも断っている。
卑怯でズルイということはサンジが誰よりも理解していた。
「・・・なぁ・・・・聞いてもいいか?」
「・・・いいぞチョッパー。なんだ?」
「・・・・・ゾロはフラれちゃったのか?」
「「「「・・・・・・。」」」」
チョッパーの心優しい質問にクルー達は黙ってしまった。
その沈黙をサンジは震える声で破った。
「おれが・・・フラれたんだよ。」
「・・・・ごめ・・んサンジ・・」
「いや、いいんだ。おれが悪いから、おれがフラれて当然なんだ。」
「・・・・・でもサンジ・・辛そうだぞ?」
「・・っ・・・・・悪ぃ、そろそろ洗濯物干さねぇとな。とりあえず、報告は以上だ。」
「「「「・・・・・・・。」」」」
サンジは煙草に火をつけると出て行ってしまった。
サンジを傷つけてしまったのだろうかとオロオロするチョッパーの頭をナミが撫でた。
するとサンジを避けるように入れ違いにゾロに戻ってきた。
きまずそうな顔する面々に気づきながらも、棚の酒に手を伸ばす。
「ちょっとゾロ、あんた勝手に!!」
「るせぇ。」
「ちゃんとサンジくんに断んなさい。」
「関係ねぇな。」
「・・・・・・・・なによ。」
「・・ぁあ?」
「・・・・・あんたが悪いんじゃないっっっっ!!!!!!!」
「・・・・なんだと?」
「あんたが・・・あんたが苦しめてきた結果よ。
満足でしょう?あんなことをしてきたんだから、当たり前じゃない。」
「・・・てめぇに何がわかんだっっ!!!!!」
ゾロが手にしていた酒瓶を思い切り叩き割った。
飛んだ破片でゾロの手に幾つかの赤い筋が出来た。
「・・・・・・ゾッゾロ!!!」
「おっおい落ち着けって。」
「おいゾロ。何した?」