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出会い(チェシャ猫と帽子屋 編)

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それ以来、アリスは城に行くとは言わなくなった。だが危険なのは城のメンバーではない。知る限りに於いて、ペーター=ホワイトはあまり城から出歩かないし、危険度で言えばかなり低い方だ。問題は帽子屋ファミリーだろう。頭が痛いのが、其処のメンバーと一番親しく付き合いがあるのが自分だと言う事だ。闇雲に斧を振り回す双子も、三秒と待たず銃を乱射する三月ウサギも、アリスから見れば危険この上ない存在だ。
園内以外は一人では出歩かないことを約束させ、余り人目に付くような外出はしない。君子危うきに近寄らずだ。
それでも時々、退屈そうにしているのを見かねて一緒に出かけることもある。アリスの一番のお気に入りは、森の中の小さな池だった。水中に咲く白い小さな花を殊の外気に入ったらしく、数回足を運んでいる。
今日も一緒に出かける筈だったのだが、彼女は慣れた道だから大丈夫だと言って先に出かけたのだった。

いつの間にか、アリスの笑顔を見たいと願うようになり。嫌われたくないと思っている自分に気付く。ほんの小さな怪我にすら気付いて手当てしてくれる存在を、大事にしたい、害する物から守りたいと、自然に思うようになっていた。そうして、彼女にも自分と同じ気持ちになってくれることを望む気持ちも芽生えていた。




何度目かの場所。いつもの様に静かな鏡面の水面。その水の中に沈む白い花。
アリスは声をかけるかどうかで悩んでいた。
木の根元にただ寝ているのか、倒れているのか判断の付かない男が一人。少々派手だが仕立ての良い服を着ており、こんなところで昼寝を貪る様な階級とも思えない。声をかけるのを戸惑っていたのはもう一つ、寝顔から判断するに、自分の少し前の想い人と似ているからだ。似ているという表現は的確ではないかもしれない。まさかとは思うが、本人だったらどうしようという期待と不安を抱かせるくらいにそっくりなのだ。

「あの~、大丈夫ですか?」

小さい声で話しかける。反応が無いので、もう一度、もう少し大きな声をかける。それから、そっと額に触れてみた。

―― 熱い!

尋常では無いほどの熱さ。声をかけながら肩を揺する。男は薄っすらと目を開けるが直ぐに閉じてしまった。これは早急に手当てが必要なのではと思うが、こんな森の中で通りかかる人も期待できず、さりとて自分が人を呼びに行くには地理に不案内過ぎた。
どうしたら良い? 何が出来る? 
自分や妹が熱が高い時、姉は如何していたか・・・
アリスは、急いで持っていた籠の中からレモネードの入った容器を出すとコップに注ぐ。

「ねえ、起きてください。」

声をかけながら身体を起こそうとするが、脱力した男の身体は重くてどうにも出来ない。アリスはコップと男の顔を見て途方に暮れた。




「アリス~」

木の根元で、此方に背を向けて座っている姿に声をかける。アリスは振り向くと唇に人差し指を立てて、静かにというジェスチャーをした。ボリスは背後から彼女を覗き込んだ途端、総毛立つ。アリスの膝枕で眠る男は帽子屋ファミリーを統べるブラッド=デュプレではないか。この状況が読めない。混乱する。この二人はいつの間にこんなに親しくなったのだろうかと。まさか、自分が遊園地のお得意さんの接待中に口説かれた? 盲点だった。今までは危ない武器を振り回す連中から遠ざけることしか頭に無かったが、一瞬で幅広い妄想が駆け巡る。だが直ぐにそれは杞憂だとわかった。

「ボリス、この人のこと知ってる?」

此方を見上げながら聞くアリスは、真っ直ぐにボリスの金色の瞳を見ている。

「帽子屋さんだろ? なんで此処で眠ってるの?」

機械的に答えながら表情を探る。

「よかった、知り合いなのね。家、近くかな。凄く熱が高いの。でも私じゃ何も出来なくて。水を飲ませるくらいしか・・」

アリスは簡単に今までの状況説明をした。高熱で呼び掛けても返事が無い事。ボリスを待つ間に、少しづつ持っていたレモネードを飲ませた事。具合が悪い事を早く家族に知らせたいこと。
そこまで聞いてボリスは内心ほっとする。知り合いではないが、看病していたということか。ボリスの小さな怪我ですら看過出来ないアリスなら、それは自然な行動なのだろう。それでも膝枕とは、心中穏やかではないが、仕方ない。

「それじゃ、俺が帽子屋屋敷に行って人を呼んで来るから、アリスは遊園地に戻って。」

「そんな、具合が悪い人を放って帰れないわ。」

「それじゃ、俺達が戻ってくる声が聞こえたら直ぐに隠れて。いいね。この人も、連れてくる仲間もマフィアの連中だから気をつけて。」

ボリスが走り去った後、膝の上で眠る男を見る。ボリスの声が聞こえた時に思わずナプキンで隠してしまった、強く握られた手。そっと離そうと試みるが、なかなか難しい。時間が区切られてしまった今、焦る。

(お願い、放して。)

指を一本づつ引き剥がそうとしたが、反対に強く握り込まれてしまった。意識も無いのに、如何してこんなにも縋る様に手を握ってくるのか解らない。一瞬意識が戻っているのかとも思ったが、そうではないらしい。もたもたしているうちに、ボリス達が戻って来てしまう。
一旦諦めると、周囲に散乱したコップやティーポット、ナプキン等を籠に放り込む。片手での作業でこれもやり辛いが何とか片付いた。
さて、この手をどうやって離すかと思案しているうちに、アリスはその大きな手に懐かしさを覚える。初対面の男の手に懐かしさも変な話だが、それだけ似ているということだ。以前、こんな風に力強く握っていて欲しいと思った手と、どうしても重なってしまう。勿論別人だとは百も承知で、手を重ねた。
そう、勉強を見てもらった時も、ダンスを踊った時も、いつも何度も目の前にあった手。想いが離れてしまった時、手も離れてしまった。アリスは放したくなかった手なのに、相手から別れを告げられた。いつの間にか重ねた手に力が篭っている。後、どの位の時間が残っているのかわからないが、手袋を取って直接手を握りたいと思った。無理だろうか。
アリスは片手で手袋を脱がせようと必死になる。自分でも何をやっているのかと思うほど滑稽な事だ。それでも、今を逃せばもう二度とこの手を握ることは叶わない気がする。どうしてもしてみたかったことがある。今なら・・・

「お願い、手を放して・・」

思わず声に出る。一瞬緩む力。アリスは驚きながらも素早く手を抜くと両手で手袋を取った。改めて繋ぐ手。自分と相手の指と指を交互に絡ませる。男の熱く熱を孕む手は、脱力して先程のように強く握り返してはこない。再度男の顔を覗き込む。意識が戻っているのではと不安になったからだ。良く見知っている横顔。不思議な感じだ。
自覚していたよりも想いを残していることに、今更のように気付く。それは苦しいだけの想いなのに、どうして記憶を掘り返すようなことをするのだろう。馬鹿な自分の行いと、込み上げるにがい思い出に、思わず手を離す。それから急ぎ男を元の地面に寝かせようとして動きが止まる。少し考えて、ポケットからハンカチを取り出すと、広げてエプロンと男の顔の間に差し込む。そっと膝を抜いて男を元の地面に寝かせた。