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出会い(チェシャ猫と帽子屋 編)

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膝の上から男の熱と重さが無くなり、ほんのひと時の、昔の男との邂逅は終わりを告げる。

「さようなら、先生。」

男の前に膝を突くと、そう別れを告げた。




寝かせた男の顔が見える位置の茂みに身を隠し、ボリスが来るのを待つ。待つというのは長く感じるものだ。茂みに隠れてどの位経ったのだろう。心配で一度様子を見に戻ろうとしたところで、木々の間で動く影を見つけた。緊張する。
あっという間に目の前に現れたマフィアの仲間。先頭にボリス。それに続いて見るからに子供二人と、大きな体格の男が一人。子供? 自分より年少と思われる子供達が、見たことも無いような大きな斧を持っていた。思わず両手で口を押さえる。
大きな身体に不似合いのウサギ耳の男が、横たわる男の身体を軽々と肩に担ぎ上げ去ってゆく。一度此方を振り返った。気付かれたのかと身構えるが、そのまま去って行った。

自分以外誰も居なくなった森の中。それでも暫くは怖くて身動きが取れ無い。マフィアの部下のイメージで、黒いスーツの男達でも来るのかと勝手に何処かで思っていた。それが覆されたのは別にいい。だが、子供の持つ斧に異様な恐怖を感じた。それ以上は想像したくないような無残な光景が、アリスの頭の中で抽象化されて繰り広げられる。
気付けば、城での発砲された後のような恐怖と震えを感じていた。今回は何かされたわけではない。遠目で短時間構成員を見ただけだ。やっと帽子屋と言う名前とマフィアという意味がはっきり繋がった気がした。時計塔のユリウスの説明でも、ボリスの気をつけてと言う言葉も、何処かで帽子屋という職人や商売人のイメージと重なっていた気がする。今、それがはっきりと切り離され、自分の知らない裏世界の住人達なのだと思い知らされたのだ。
見知っている顔だったことと、とても具合の悪そうな様子に思わず出来る事は無いかと手を出してしまったが、もう二度と関わり合いにはならないだろう。なりたくもない。こんな事なら、ボリスと行動を共にするのだったと、今更のように後悔した。


あれからボリスは何だかぼんやりしていることが多いとアリスは思う。何か言いかけて止めたり此方をじっと見詰めてきたり。でも視線が合うと逸らされてしまう。相談したいことがあったのだが、とてもそんな雰囲気ではない。
改めて、何か困った事があった時の相談相手すらも居ない此方の世界に自分の居場所は無い様に感じた。




ブラッドが全快したので双子が遊園地に招待状なる物を持ってやって来た。お茶会のお誘いを兼ねて遊びに来いという事だ。まあ、エリオットが全快祝いの言い出し役で、双子は最近足が遠のいている友人を招待しろとでも騒いだのだろう。一応、命の恩人ということになっている。

「猫君、私が倒れていた時に何か飲ませてくれただろう? 目覚めたら口の中がやたら甘くてね。」

真っ直ぐにボリスの目を見ながら尋ねてくる。気だるげな声の調子はいつものことだ。

「あ?えっとレモネードだったかな~? 遊園地で売ってるのたまたま持ってたんだよね~」

複雑な気持ちだ。アリスが自分の為に手作りしてくれたレモネードを、結局一滴も飲んでいない。

「意識の朦朧とした私に、どうやって飲ませてくれたんだ?」

何故かにやにやと笑いながら再度問いかけてくる。質問の意図が解らないが、適当に返事をする。

「ああ、えっと口移しで・・?」

何処かぼんやりとしながら、とんでもない事を口に出すボリスに、一緒にテーブルを囲んでいた他の三人が紅茶を噴いた。
ブラッドの杖が瞬時にマシンガンに変わると、ボリスを狙う。

「そうか、それは大変感謝するよ、命の恩人君。これは私からのほんのお礼の気持ちだ、受け取ってくれ。」

「嘘、うそ! 冗談だって!! コップで飲ませたんだ。帽子屋さんを抱え起こしてさ。」

ボリスは慌てて訂正する。今のは本気で撃つ気だった。背中に冷や汗が流れる。とても命の恩人に対する態度とは思えない。他の事に気を取られ、危うく命を落とすところだった。
最近の気掛かりといえば、まさに今のやり取りそのままだ。アリスはどうやってボスにレモネードを飲ませたのか。そればかりが頭の中をグルグルと回る。けれど、とても本人には聞けない。
ボリスはちらりとブラッドを見る。先程の騒ぎは何処吹く風で、澄まして紅茶を飲んでいる。その口元が気になって仕方がないのだ。はぁ~と深く溜息を吐く。双子とエリオットは、不思議そうにボリスを見た。




小さな池は、今日も静かに水を湛え、水中に白い花を咲かせている。
だがアリスは其方には見向きもせずにしゃがみ込むと、一心に草の上に目を凝らす。木の根元を中心に、手の平を草の上に這わせて小瓶を探す。あの小瓶が無いと元の世界に帰れないのでは、と不安が募って此処数回の食事も殆ど喉を通らないし、睡眠も満足には取れていない。気付いた時に直ぐ探しに来たのだが、見つけられなかった。それでも諦めきれずにもう一度探しに来た。
此方の世界に来て、小瓶の中の液体が少しづつ増えることに気付いてからは、眠る前に小瓶を見る事が習慣になっていた。それだけが異世界に放り込まれた自分の不安を鎮める唯一の方法だったのだ。そうすることに何かの意味があるのかと問われれば、わからないとしか言えない。それでも、その儀式が無くなってからは不安が募る一方であることを思えば、精神安定の助けにはなっていたようだ。
もしも見つからなければ、ペーター=ホワイトに会いに行って確かめなければならない。不眠の為か、最近ナイトメアは姿を現さないからだ。
小瓶を紛失した時点でゲーム失格等のルールがあったなら、ここを抜け出す希望は既に絶たれたことになる。

「お嬢さんがお探しの品は、この小瓶かな?」

この世界に来る前から聞き覚えのある声が、頭の上から降ってきた。見上げた先に、昔の想い人の顔がある。一瞬で血の気が引く。ついこの前の恐怖が甦る。不運にもその男の手にあるものは、アリスの小瓶だ。目の高さに差し出された手の平に載る小瓶に思わず手が伸びる。だが小瓶は男の手に握り込まれ、隠されてしまう。表情が固まるのが自分でも判った。逃げようにも身体が強張ってしまっている。

「やっと会えたね。君が私を助けてくれたんだろう?お嬢さん。」

マフィアのボスは片膝を地に着けて腰を落とすと、アリスに顔を近づける。

「いいえ、私は何も知りません。誤解です。」

振り絞る声が震えていた。まだ、僅かにではあるけれど想いを残している男の顔が近づいてきて、心拍が跳ね上がる。でもこれは恐怖の為だ。

「恥ずかしがらなくていい。この可愛い唇でレモネードを飲ませてくれたのかな?」

アリスの顎に手をかけ、親指で唇を一周する様に触れながら更に顔を近づけてきた。やはり似てはいるが全くの別人だ。人を射竦めるような眼光も、怪しい表情も、自分の知っているあの人にはないものだ。今も決して脅すような物言いはされていない。気だるげなゆっくりとした口調なのだが、それでも何かしら怖いと感じさせるようなものを放っている。

「違います! そんな事してません。」