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へなちょこマ王とじょおうさま 「11、私、家出します!」

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 金銭的な問題もあったし、なによりもっとも安心できる家から数日でも離れることが信じられなかったのだ。特に行きたいと思う場所もなかったし、家でのんびりしていた方が母も私も好きだったので、出かけること自体あまりした記憶がない。
 だから、こんな時にどうしたらいいのかがわからない。一体、どこへ向かえばいいのだろうか?
 …あ、そうか!こんな時のために、塙和は使令を連れて行けと言ったのか!
 思考が怪しくなる。でも、それが普通に思えてしまうほど、自分がどういう行動をとったらいいのかがわからない。

「芥笞、私はどこへ行けばいいのだろうか?」
 翠篁宮でもあまり離れることのない使令に問うてみる。少し間をあけて、彼は答えた。彼の見た目は老いた虎のようだが、実際の彼や、彼の声は若々しさに満ちている、そのギャップが面白い。
「主上のお心のままに。」
「思いつかなかっただけだろう。」
「…」
「…出奔しろという長宰の意に応えてこうして出て来たはいいが、結局どうしたらいいんだろう?それがわからないと、意味がないんじゃないかと思う…私、間違ってる?」
「出てきてしまっては、今さら帰るわけにもいかぬ。他国の情勢を見聞致しては?」
「それはいつもニースがやってくれるけど。たまには自分の目で見てみる、…他国を知れば、どんな品が売れるかもわかる。アイディアも浮かぶ!市場調査だね!」
 この分野の話を振れば、主上の眼の色が変わる。…至極、扱いやすい。
 後で芥笞にそう言われた。
 憲章に手綱でまずは虚海を挟んで隣国の舜に行くよう示した。ようやくハッキリとした道を示したことに、憲章は大きく首を振って呆れとともに了承を伝えてこれまでよりも多くの風を受けて駆けだす。峨城が、強くなってきた風あたりに耐え切れなくなって飛び立った。隣を並走してついてくる。
 騶虞は1日で1国を駆ける最高の騎獣である。性格も勇猛で忠誠心に厚く、戦場に連れて行くならばこれ以上の騎獣はないとさえ言われる。しかも可愛い。
 私は憲章の背で揺られながら、上空高くあまり人がおらず、人の目が届かないのをいいことに、大きくあくびをした。とても気持ちよかったが、峨城はしっかりと見ていたらしく、渋い声で「慎みをお持ちください」と諭して来た。いつもは塙和と一緒になって「もっと奔放になってはいかが」とか言って来る癖に、忙しい奴だ。そうは思っても、苦笑するだけにとどめる。

 下を見れば、民が笑顔で農作業に精を出している。距離があるのか、詳しい歌詞を聞き取ることはできなかったが、歌を歌う声も聞こえた。
 首を回すが、どこを見ても緑豊かな土地が広がる。農村らしき民家も、古代中国の住宅のような形の物がしっかりと建っているのが見えた。
 書簡の上では確認していたが、こうして自分の目で改めて民の、自国の復興を確認するのもいいかもしれない。国の中枢で責任ある立場の者として長宰、塙和たちの言葉はいかがなものかと思っていたが、これを確認させてくれるために言っていたのだと思えば、ありがたみを感じた。
 以降は、これを趣味にしてみようか。
 はたして、塙和たちがこんな考えを私が抱くようになると思っていたかまでは、私にはわからない。けれど、彼らはこれ以降、私を翠篁宮に留めさせることに優秀な頭脳を駆使し、自分たちの言葉を悔いることになる…かどうかは、まだわからない。度は越さないように気を付けよう。

 気がつけば、下は農村を抜け、港町まで来ていた。
「主上、ここからは船で舜に向かいます。」
 妖魔は人間の移動手段にも詳しいのだろうか?と思うが、口にはしない。きっと、詳しいのか、塙和から教えられたかのどちらかだと思うから。
 しかし、ここで大切なことに気がついた。お金はある程度持って来た、というか持たせられた。だから不自由はしないだろうと思う。けれど、これは民から税として上がって来た金なのだ、それを簡単に使ってもいいのだろうか。と思うが、金の需要と供給としてはいいのだろう。でも、純粋に民の仕事には興味がある。
 私は私が王であり、贅沢をするだけの責任を負っていることを知っているし、それを果たしているだけの自信がある。
 根っからの働き者だったのか、私は市井で働いてみたくて仕方がなかった。影からはため息が聞こえる。
 さて、どこで働こうか。
 人気のない場所で憲章から降りて、憲章を空で待つように、人から姿が見えない場所にいるようにと思っていたが、私には使令たちもいるし、これからは民と同じ交通手段で旅をするのだ。 
手綱を放し、
「憲章は翠篁宮に、先に帰ってて。お土産買って来るからね!」と言いながら頭を撫でると、気持ち良さそうに媚びる猫のような鳴き声を発して私の手に顔をすりよせて来た。やっぱり可愛い。
 手を振りながら別れる。歩きだした私の後ろから憲章の飛び立つ音が聞こえた。入れ替わるようにして、峨城が肩に戻って来る。
 峨城は見た目ただのオウムにしか見えないから、外に出ていても大丈夫なのだ。
 肩に乗った峨城を撫でながら足を進める。

 港なら、結構仕事ありそうだよね。知りもしないのに想像だけで思う。
 しかし事実、積荷の運搬や船員をターゲットにした店なども多く出ていて仕事は多そうだった。その中の一店、小さいけれど手の込んだ装飾品を扱う店に狙いを定める。
 あまり売れていないのか、暗い表情の店主のおじさんに声をかける。幸いこう言う時、私は人見知りしない性質でためらうことも、しり込みすることもしない。しかし、時々しり込みしない、まっすぐな視線がつらいと、諸官をはじめ禁軍の将軍たちにも言われてしまうことがあった。
「こんにちは!」笑顔でのあいさつに、
「…客かい?」
 胡散臭いものを見るように、店主のおじさんは私を見る。
 豊かな巧国にあって、これほどまで暗い表情はなかなか見られない。それほどおじさんの顔は暗く、淀んでいた。
「おじさん、難民?品物、売れてないの?」
「…繊細なことをずばずば遠慮なくハッキリと言う娘さんだな…。そうだ、俺は舜からの難民だ。一昨年巧国に来て援助を受けたが、なかなか職が決まらん。こうして舜でもやった装飾の店を、屋台を作って出してはいるが、難民の小汚い屋台で売っている品物だからか、なかなか売れん。」
 舜では結構な店を持っていた。巧でも磨いてきた腕を使って生きたいがうまくいかない。国からの援助は今年で終わるから、商売が軌道に乗ってくれれば…。
 おじさんはそう言って、自嘲気味に寂しそうに笑った。
 巧国も治世500年を過ぎ、豊かな国の筆頭となって久しく、それに比例するように王の沈んだ他国から難民が流れ込んでくることが増えた。それに伴い、私は難民救済の法を作り、申請より3年間の寝食と金銭を保障する法案を定め、それを国中に広めた。
 巧国の民として職を見つけて暮らすもよし、新たな王が立つのを待って故郷に帰るもよし、そのために路銀を稼ぐ道を3年で見つけろ。そういうことだ。

 懐に手を入れて、商品ではないのか、このレベルの物が売れないのか?と疑ってしまう、というか目を奪われる美しい細工が施された櫛を取り出した。