二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

窓辺の乙女

INDEX|2ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

小鷹自身が修理したとはいえ町外れの小屋に住まわせてもらっている上に、食事もほとんど星奈の側から提供されている。つまり体のよい居候で、その上彼女は小鷹の力を使おうともしない。小さな町どころか、屋敷からもほとんど出たことのない星奈にとっては旅の話が十分な報酬だと小鷹は言うが、そのことも夜空には気に入らない。
「小鷹はあいつを信用しすぎなんだ。いつ後ろから刺されるか私はいつもひやひやしているんだぞ」
「俺を殺してたところで得にならないだろう。それにここにももうひと月だ、すこしは信頼してやらないと、逆にお互い居心地が悪くなる」
「お互い、か……」
そんな言い合いをしているうちに待たしていたステラに急かされ、普段着のチュニックの上から毛織の外衣をかけた夜空は小鷹が作業を手伝う代わりに近くの農家から借りているロバではなく、彼女の引いてきた鹿毛の老馬に乗せられた。四半時もしないうちに到着し、そのまま星奈の居室に通される。
扉はやはり開け放されていており、ステラが形式的にノックをすると、窓辺に立っていた星奈が振り向いた。
「あ、」
とこちらを見るなり、小さく声を上げる。
「夜空、だけ?」
「お前が小鷹抜きで来いと言ったんだろう」
思わず眉を顰めた夜空に星奈はめずらしく言い返すでもなく肩を震わせた。視線を再び窓の外にやり、
「そ、そうだったわね!ええと、ステラは何か飲み物を持ってきてちょうだい」
「かしこまりました」
「夜空は座って、そこに」
背の高い侍女が一礼し、音もなく部屋から去っていったあと、ほんとうにふたりきりになったことに居心地の悪さを覚えながらも夜空は言われるがまま見慣れたスツールに腰かけた。星奈自身は窓辺に立ったまま動こうともせずに黙りこんでおり、部屋の中を重い沈黙が包む。
季節は既に冬に近づきつつあったが、暖炉にはまだ薪が入っていない。やがて夜空がこらえきれずに小さくくしゃみをすると、はっと我に返った星奈がこちらを見つめ、なぜか頬を赤らめた。
「……なんだ、気色悪い」
「なんだとはなによ?!あたしはただ、そろそろ寒くなってきたわねって思って」
「顔を赤らめる必要はないだろう」
「へっ?!」
慌ててはたはたと両手で頬のあたりを扇ぎはじめる星奈を、夜空は不気味半分不思議半分で眺めた。悪い方向に呼び出しを怪しむ気分は既に遠ざかってしまい、小鷹が信頼したいと思う気持ちを忌々しくもすこしだけ理解した。この間抜け顔では、疑うほうが馬鹿馬鹿しく思えてくる。
それでも気まずい時間をなるべく早く終わらすべく自分から声をかけた。
「おい」
「な、なによ」
一言目から台詞を噛むのは癖になっているらしい。
「まさか天気の話をするためだけに私を呼び出したんじゃないだろうな」
「そんなわけないでしょう?!」
「なら早く本題に入れ」
「ううー……ステラはまだなのかしら」
その言葉を待っていたかのように再びノックの音がした。盆に裏返しで載せられていたふたつのコップが配られ、濁った金色の液体が順に注がれる。ステラは一礼をすると今度も音を立てずに去った。どうあってもふたりきりにするつもりらしい。星奈が唇をつけるのを見守ってから自分も一口試したところ、かすかに発泡するシードルだった。
やがてコップを置いた星奈がようやく窓際から離れベッドに近づく。そこで夜空ははじめてシーツの上に布の包みが置かれていることに気づいた。両手で抱え上げた星奈は、そっと夜空の膝の上に包みをおろした。
「それ、やる、わ」
「?」
「これから冷えるから。……開けてみなさいよ。とんまね」
色の薄い唇を尖らせて吐き捨てるものだから言い返すのも馬鹿らしく、夜空は蝶結びの麻紐を解き荒い布を取り除いた。
途端に小鷹の声が脳裏に蘇った。
『それより夜空、お前ちゃんと驚いたふりをしろよ』
(ああ、)
やわらかな感触の、緑の編み地。
まだ拗ねたような表情をしたままの星奈が髪を指に巻き付けながら甲高い声で言い訳めいた台詞を続けている。
「あんたのその足、まだよくないんでしょう。小鷹が言ってたわ、足が完治するまではいるって。冬の間、ここは雪で埋もれるわよ。で、春にはどろどろになる。だから道がよくなるまでは発てないに決まってるわ。その足は、きっとまだよくないでしょうし……うん、だから、冷やしちゃよくないと思って。ここは冬、冷えるんだから。ねえ、夜空、聞いてる?このあたしからの贈り物なのよ。なんなら礼のひとつでも言ってみせなさいよ」
「……ああ、驚いた」
「それはお礼じゃないわよ!」
「いや、」
喉が乾いて上手く話し出せない。コップを手にとり、けれど口は付けずに握ったまま見上げると、眉尻を下げた星奈が緊張した面持ちで前のめり気味の上半身をこちらに向け、夜空をじっと見つめた。
窓はいま、ちょうど星奈の後ろにあった。肩にこぼれた髪がやわらかな――弱々しい太陽に照らされて、輪郭をほとんど光に溶かしている。
篭絡、と夜空はなんとか口に出した。篭絡。
「え?」
「篭絡、するつもりか」
星奈が息を止めたのが手に取るように分かる距離の近さだった。空色の目のなか、自分の影を見据えたまま、夜空は淡々と、
「おめでとう、小鷹はお前を信頼しきっているぞ。だが私はそうはいかない。こんなものをもらったところで……気持ちは動かない。もとよりお前とごっこ遊びをするつもりもない」
「ッあんた、なんてこと言うのよ」
「当たり前のことだ。ああ、ものに罪はないからな。もったいないし、これはもらっておく」
二本の指でつまみ上げた編み目の向こうに、ぐちゃぐちゃに乱れた表情を隠した。
「それとも、ありがとう、と言えば満足か?」


「それはお前がよくない」
開口一番、小鷹はそう言った。
夜空は目を細めてこの友人というにはどうにも相応しくない男を見つめた。口を噤んだまま視線を集中させ続けていると、やがて小鷹のほうから目が泳ぎはじめる。
「……だって、そうだろ」
「なら小鷹、お前、私の立場になったつもりで考えてみろ」
「は?」
「いままで顔を突き合わせるたびにお互い気まずい思いをしていた相手からいきなり手作りの贈り物をもらったんだ。お前、どう思う」
「どうって、そんなのどうしたらいいのか見当も……って、夜空、お前まさか」
「弱みを見せるよりは攻撃に出たほうがましだろう?」
ふたりで取る夕食は、夜空にとって一日のうちでももっとも安らげる時間である。朝は農家の手伝いやらなにやらで早くから出かることの多い小鷹となかなか一緒になれないし、日中の彼はしばしば星奈の話し相手を務めなければならない。それで、ふたりこうして向い合ってゆっくりできる夕食を、夜空はなによりもの楽しみにしていた。
支度をするのは夜空である。旅から旅への途中は小鷹が手際よく用意してくれるし、力の行使への報酬としての滞在において食事は提供されるものである。だから、夜空がきちんと料理をするようになったのはこの町に辿りついてからのことだった。材料も調味料も、作られる料理も質素なものだが、慎重に作業を進めるぶん味は悪くないと小鷹からも評価をもらった。いまのところの目標は調理にかかる時間を短縮することだ。
作品名:窓辺の乙女 作家名:しもてぃ