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apple blossom

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 『誰がなるか』……そう言った。
 ウォルターに『迷子になんなよ』と言われて。
 アンディはぽかんとして街中で立ち尽くす。
「あれ……?」
 おかしいな、と首をひねる。
(そろそろ着くはずなんだけど。っていうか通り過ぎた?)
 いっこうに待ち合わせ場所にたどり着かない。
 降りた駅は合っているはずだ。
 そして、駅を出てすぐの銅像の前が待ち合わせ場所……。
 ところが、今いる場所からは、もはや駅さえ見えない。
「ここ、どこ……?」
 迷子になんて自分がなった。
 きょろきょろと辺りを見回す。
 駅の方に戻りたいが、方向がちっともわからない。右に行けばいいのか、左に行けばいいのか。
 もう待ち合わせ時間はとっくに過ぎている。
 きっとバジルはイライラしている。
 なんとか戻らないと。
 とりあえず歩き出そうとした時、携帯電話が鳴った。
「あ」
 そういえば電話というものがあった。
 バジルには今日の約束をした時点で抜け目なく番号を訊き出されていた。
『アンディ!! てめぇ今どこにいやがる!?』
 出るなり遠慮のない大声が耳をつんざく。
「あー……」
(怒ってる、怒ってる……)
 当たり前だけど相手はチョー不機嫌そうだ。
「……いや、ちょっと待ち合わせ場所がわかりにくくて……」
『これ以上ないほどわかりやすいだろーが!! おまえはバカか!?』
 返ってきた怒鳴り声に、『おお』とケータイを耳から離す。
 これは迷子になったとは言いづらい。
『あとどれくらいで着くんだ!?』
「は?」
『遅刻だろ!!』
「いや……」
 遅刻は遅刻なんだけど、と前置きして、おそるおそるケータイの向こうにむかって言う。
「……なんか、迷子になったみたいで……」
『はあ!?』
 ものすごい怒声に、バジルの周囲にいる人は大変だろうな、とかのん気に思う。
 驚き呆れかえったようでバジルの声が少し低く静かになる。
『今どこにいるんだ?』
「えっと……」
 それがわかれば苦労はない。
 辺りを見回すが、目印になるようなものが何もない。遠くに駅の近くにあったデパートや高いビルが見えるが、名前まではわからない。遠すぎる。
 近くには……。
「なんか、喫茶店と花屋と本屋がある。……あ、あれはリサイクルショップかな。あとは……」
『片っ端から店の名前を言え。ネットで検索する』
「……うん」
 なるべく目立つ店から名前を言っていく。
 電話が切れて少し。
 すぐにまた鳴って、出るとバジルが『わかった』と言う。
『今から迎えに行く。そこを絶対に動くなよ。動いたら見つけた時、殺すぞ。今なら半殺しで勘弁してやる』
「え、逃げろってこと? それ、逃げろってことだよね?」
 物騒な発言とその険悪な声に、驚いて尋ねる。
『逃げても殺す。いいか、今から行くからな!! 絶対にそこを動くなよ!!』
 ブツッと電話が切れる。
「うわ、すっごく逃げたい……」
 ケータイをパタンと閉じてポケットにしまいながら、あんまり怒りが激しいようだったら逃げよう、と心に決めた。