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apple blossom

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 図書館からの帰り道。
 レポートはおおむね順調だった。
 バジルが意外と真面目で手際が良く、しかもペアなのにアンディの手出しを嫌がるものだから、アンディのすることはほとんどなかった。
 ただ言われることを紙に書いただけだ。
 終わる頃には眠くなっていたくらい。
 それに、図書館で別れてもよかったのに、『また迷子になったら困るだろ』と一緒に駅まで戻るやさしさまで見せてくれた。
(不気味だ……)
 いつも嫌がらせしてくる相手の親切さに失礼ながらそう思う。
 何か裏があるんじゃないのかとか。
 まあ、今のところは何の問題もなし。
 また迷子になったら本当に困るので、バジルの隣をくっついて歩く。
 歩きながらぼんやり辺りを見ていると、めずらしい店を発見。
 クレープ屋のようだが、少し普通のクレープと違う。
 簡単に言えばクレープをカップに入れた物。
 生クリームに包まれた果物やゼリーの入ったクレープの上にアイスが乗ったもの。
(こんな食べ物があるのか……)
 興味を持って見ていると、それに気づいたらしいバジルが、ジロリと目をくれて尋ねる。
「食べたいのか?」
「え、いや……別に」
 首を横に振ったのに、バジルは重ねて尋ねてくる。
「食べるのか? 食べないのか? どっちだ」
「……食べる」
 じゃあ、と答える。
 バジルが止める間もなく店に向かって歩いていく。
「ひとつくれ」
 店員に言って財布からお金を出すバジルにアンディは慌てる。
「ちょっ、バジルッ……」
「俺がおごる」
 カップを手渡されて、『ええ……』とアンディはたじろぐ。
(バジルがボクにおごる……?)
 不気味だ。
 800円、という、学生にはわりと高めの値段。
「お金、大丈夫なの?」
「あ? 俺はおまえと違って金持ちの養子になったからな」
「ああ、そう」
 それなら……と遠慮なくカップについたスプーンをアイスの中に突っ込み、口に運ぶ。
 甘くて冷たくておいしい。
「アンディ、こっち来い」
「ん」
 ぐいと引っ張られて道の端のベンチに連れていかれる。
 素直に腰を下ろして、その横に立つバジルを見上げる。
「……座らないの?」
「そんな汚いベンチに座れるか」
 人にすすめておいて……とアンディは唖然とする。
(……まあいいや、アイスが溶ける、食べよう)
 パクパクと食べながら、先ほどの発言を考える。
「バジルをもらってくれるなんて、心やさしい里親だよね」
 考えていることが思わず口から漏れる。
 とたん、バジルが目をつり上げて怒鳴る。
「もらってくれる!? 俺は猫の子じゃねぇぞ、アンディ!! てめぇ!!」
 アンディはその声の大きさに顔をしかめる。
「うるさいな。人が見てるじゃないか」
「おまえはとうとうもらい手が見つからなかったな」
 仕返しのようにバジルが嫌味ったらしく言う。
「まあ」
 アンディはただいま孤児院を出て学校の寮で生活中。
 でも、同室はウォルターだし、食堂までついたありがたい寮だし、とくに不満はない。
 もとから望むことが少ないし。
 親が欲しいと思ったことはない。っていうか、よくわからない。
 一言だけで黙りこんだアンディに、バジルが唐突に言う。
「俺がもらってやろうか」
 アンディは目を見開いて隣に立つバジルを見上げる。
「……え? 何それ。どういう冗談? ……ってか、どういう意味で?」
「カラダ」
 ぼそりと吐き出された言葉に、アンディはぶほっとふき出す。げほっげほっとむせる。
「『カラダ』って……!!」
 そのままの意味にとらえていいのか。いや、よくない。絶対に違う……ハズ。
「『カラダ』って……?」
 おそるおそる一応確認する。
 バジルの表情は先ほどから変わらず、真顔だった。
「だから体だよ。どうせ外側だけじゃないか。俺の養父母だって俺の外側だけしか見ちゃいない。親といっても形だけだ。恋人だって同じことだろ」
「えーと……」
 アンディは混乱した頭で必死に考える。
「……なんか、かわいそうだね、バジルって」
 急に手に握りしめたカップが冷たくなった気がする。
 高そうないい服を着て、自由になる金と家があるが、それだけ。
 アンディは残りのクレープを無言で片付ける。
 バジルは平然として……むしろ楽しそうに……言い放つ。
「おまえの外側はわりと気に入ってるし」
「いやいや、ちょっと待て」
 平気で言うバジルに、アンディは片手をあげて遮る。
「冗談だよね?」
「……」
「何故黙る?」
 大きな目が何か物言いたげにアンディの頭を見下ろす。
 答えがないのでもういいやとアンディは空になったカップを手に立ち上がる。