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星のひらめき

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けれどどんな彼に熱く説かれても、やはりロシアは納得がいかなかった。
そもそも空にロシアのほしいものは無い。空にひまわりは咲かないし、月にうさぎはいない。星には誰もいやしない。
星は、このまっくらいしずか夜を照らせやしないのに――。
手に入ったところでなんだと言うの、ロシアの小さな呟きは雪に混じり、消えた。

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いったい何時まで走るつもりなのか。そろそろ飽きてきた上に、尻も痛い。だいたい、北部なんてどこもまったいらなんだから景色も同じ、星も同じだ。
あんまりに退屈だからか、昔の事を(つい最近とも言えるが)思い出してしまった。空に行くという夢想を抱いた、"彼"に興味がわいた時の事を。
「ねえ、アメリカ君が空に行きたいって思ったはドイツ君家の"彼"がいたから?」
「切っ掛けはね。彼はアメリカは宇宙を支配すると約束した、その時の高揚!忘れられないね!それからずっと俺は宇宙に魅せられてるんだ」
知ってるよ、胸中で頷く。
「あの時は楽しかったよな!」
「正気じゃない、って言われても文句は言えないよ、その台詞」
でも、気持ちはわからなくもない。あの時、総ての人の心が宇宙へと向いていたあの戦争でない戦い。ロシアの気持ちは確かにずっと空のかなたに、闇の中を夢想し存在していた。
そして、アメリカもそこにいた。
アメリカしか、いなかった。
あの時の一進一退、牽制、熱狂そして犠牲。それらがあったからロシアは今ここにいて、"彼女"の上、いや、下でこうして、アメリカの鼻唄を聞いている。


 何度も、何度も空に使いを送り続けた彼が次に空に送るのは、つぶらな目をした"彼女"だった。
ロシアが彼女とはじめてあった時、彼女は利発そうな目でこちらをじっと見つめていた。そしてロシアが噛みつかれないかと恐る恐るさしだした手を、怯えないでいいのよ、とでも言うようにそっとなめたあの柔らかい舌をまだ覚えている。
その時から何度もロシアは彼女に会いに行くようになった。
チーフデザイナーには
「そう言えば貴方は従順なものが好きでしたね。まったくもって我々らしい!
……いや、貴方にとって私たちは犬ですかね?ああ、失礼しました同志ロシア。彼女は今はゲージの中ですよ」
ジョークにもならない言葉をかけられつつも彼女と遊ぶのがロシアの唯一の楽しみだった。
棒を投げれば嬉しそうに飛んでいった彼女、海辺で一緒に遊んだ彼女。楽しかった。
 その日は雪がちらつきはじめ、凍てつくまでではないが、もうじきに"彼"が来るだろう時だった。できるだけ来てほしくないとどんなにロシアが願っていても、彼は来てしまう。はあ、と白い吐息をつき彼女を抱えて薄暗い空を見上げた。柔らかい雪が頬に当たっては溶ける。星は見えない、当たり前だ。
だけれど、彼が言っていたように星はいまも雪の裏で煌めいているのだろう。
一等に輝く星はその命を燃やすところだと聞く。もうすぐ腕のなかで震える可愛い彼女は空へといく。あの暗闇、あんなにも暗くて冷たくすべてが死に絶えた所。
 本当は初めから、産まれたときからロシアは空の向こうの虚無を知っていたのかもしれない。
国として生まれた最初あの時に見た一等に青白く輝くシリウス。大いなるその輝きの下では小さなロシアがさらに小さく思えて、目を逸らした事を忘れた振りをしていた。
星の閃き、その孤独なるほろびの輝き。
彼女は、そこで死ぬ。たった一人で。
――その孤独に愕然とした。
ロシアは彼女をぎゅっと抱きしめ
「僕はきみに何て……」
頬に伝う雫をなめた彼女の舌は柔らかいままだった。


「ついたぞ!」
がくっと慣性の法則に従いシートベルトをしていなかった体が前のめりになる。急ブレーキに、野郎、と思いつつやっと目的地についたようだ。何度目かもわからないため息を吐く。
「もっと上品な運転してよね、無理な注文だと思うけど」
「無茶と思うなら言わなけりゃいいじゃないか。君、頭大丈夫かい?」
「少なくとも、君よりはね」

さて、ここはどこだろう。ロシアほどではないがアメリカの土地は広い。(しかも使える土地が多いのが勘にさわる)北西部とあたりをつけたが看板も建物もないただっ広いこの平野がどこの州の何市かは、検討のつけようがなかった。見渡す限りの荒野、むき出しの岩たちが星影に照され、吹き抜ける乾いた風がロシアの髪を揺らした。
「ずいぶんと時間がかかったわりには普通のところだね。もっといい場所かと1ミクロン程には期待したのに」
「絶好の星見じゃないか!……まあ、本当はどこだってよかったんだけどね。ただ、あそこはだめだったんだ。」
コブラの後ろにある荷物をあさりながらアメリカが答えた。顔は見えないが、多分、今、彼の顔は笑っていない。
「で、そのために僕は何時間も尻が痛い思いをしたわけ?」
「ははは!ドライブは楽しかっただろ!ほら、これ」
そう言ってアメリカが渡したのはポットだった。
「随分と準備がいいんだね」
確か会議後すぐに連れ去れた筈だと呆れたロシアに、アメリカはマグを引っ張りだしつつ言った。
「会議の休憩中にメイドに頼んだよ、あ、俺は多めに入れてくれよ」
ふーんと流し、受け取ったマグに液体を注ぐ。案の定中身はコーヒーで、ロシアは顔をしかめた。
コーヒーは嫌いではないが、やはり紅茶の方が好きだし、何より、アメリカの隣でアメリカンコーヒーを一緒に飲むのは、なんとなく、しりの辺りが落ち着かない。長時間のドライブのせいだろうが。
アメリカはロシアの葛藤など知りもせず、美味しそうにあの薄いコーヒーに口をつける。が、湯気のせいで眼鏡が雲って、慌ててアメリカは首を引っ込めた。その様はハムスターのそれにによく似て、ロシアがすこし笑うと、ぶすっと頬を膨らませ拗ねる様子はますます、ハムスターの頬袋のようだった。
「共通点はいやしいところかなー」
「はぁ?」

コーヒーも冷めてきた頃にアメリカがふいと空を仰いだ。ロシアもつられ見上げる。
荒涼たる野のなにも遮るものがない夜空は視界のどこまでもが星にジャックされ、重苦しいほどの莊厳さをもってロシアに襲いかかってきているようで。神々の庭のごとき星空と、あの一等に明るい星はシリウス。ああ、オリオン星団も見える。マゼラン雲、プロキオン、クリムゾン・スター。
それからはただ、二人して空を見上げていた。

カノープスが地平に落ちる頃、アメリカがポツリといった。
「人は、また宇宙にいかなくちゃだめなんだ」
断言、だった。どうして、とロシアは聞かない。ただ、滅びと再生の星々をアメリカは畏れた事などないのだろうとは思った。
「君はあの虚空が"君"になったら、どうなると思う?」
そう、空を指すロシアをアメリカはきょとんとした顔で見つめると、その指を辿り顔をあげた。
あの孤独と虚無を内臓する事の畏れなど、彼が知るはずもないと思うとロシアは少しの寒さを感じた。

「そうだなぁ!」
勢いよく返事をしたアメリカはガバッと舞い上がりボンネットの上に仁王立ちになった。コブラがミシッと悲しい音をたてたことなど気にせず、ブロードウェイの役者のごとく高々と腕を広げたアメリカの後ろには無数のライト。それは、まさに彼のための舞台だった。
作品名:星のひらめき 作家名:高橋 結子