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Brightest Sword

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 だから、今はこの悪魔の案に乗っているフリを続けなければならない。
 薄笑いを浮かべたままのメフィストに、ニヤリと笑って見せると、「んじゃ、帰るわ」と席を立つ。
「おや、もうお帰りですか☆慌ただしいことで。もう少しお茶でもいかがです?」
「なに、アイツラ放っとくと大変だからな」
 後ろ手に軽く手を振る。
「…お前、本当はアイツら、どうする気だ?」
 獅郎は扉の取っ手に手を掛けて、思わずメフィストに問い掛けた。何故聞こうと思ったのか、自分でも判らない。何か、覚悟のようなものが欲しかったのかも知れない。
「おや、どうされたのです?」
「ちっと聞いただけだよ」
 獅郎は薄く笑って見せる。冷や汗がどっと出たような気がする。
「言ったではありませんか。魔神《サタン》に対抗する武器にするのですよ」
 ふふふ、と笑いながら両手を広げる。ショーの開幕を知らせる道化師のようだ。
「魔神の血を引く子供が、父に対抗し、あまつさえ斃すことができるのか?悪魔と人間の間に出来た子は、一体どちらにつくのか?非常に興味深い」
 話している内容とは裏腹に、座ったままのメフィストが落ち着いた素振りで紅茶を一口飲む。
「悩み、苦しみ、人間を捨てるのでしょうかね。それとも苦しむと判っていながら人間であることを選ぶのか」
 メフィストの声が背中から追い縋って来るようだった。
「さぁて、お前の思い通りに行くかね。なんせ、アイツらは笑えるぞ?」
 負け惜しみだ。それでもバカにするなと釘を刺しておきたかった。悪魔の掌で転がされるだけだと思われたくない。
「おやおや☆それはさぞかし楽しませてくれるのでしょうねぇ」
 うなじを冷たい手で触られでもしたかのように、ぞくりと悪寒が走る。手が震えるのを堪えて戸を閉めた。知らない内に詰めていた息をほっと吐き出す。
 アイツなら本気で追い込みかねんな…。
 それでも悔しいことに、自分の次に彼らの存在を守れる者が居るとすれば、メフィストしかいなかった。
 ただで良いようにされるなよ。
 祈るように、決意を改めるように思う。
 お前らの運命や宿命は放っといちゃくれねーんだ。
 ギリギリまで倶利伽羅を抜かないようにさせたいが、いずれそれもムリがくるだろう。悪魔として覚醒する日が来てしまう。そうすれば、燐ばかりか雪男も彼らの運命に否応なしに引きずり込まれていくことになる。
 せめて…。
 メフィストの屋敷を後にしながら、獅郎は空を見上げる。
 せめて、倶利伽羅が彼らの役に立ってくれるようにと祈って思わず十字を切る。彼らの行く手を照らす灯りとなり、運命を切り裂き、未来を切り拓く、光り輝ける剣であるように。
「負けんじゃねーぞ」
 ポケットの中の携帯が振動する。修道院からだった。
「おう、どうした?」
「藤本|神父《せんせい》!燐たちが泣き止まないんです」
 携帯の向こうから、修道士の悲壮な声が聞こえてきた。その後ろからは、喉も張り裂けよとばかりに泣く赤ん坊の声がする。
「わーった、すぐ帰るわ」
 その前に俺たちが負けねーようにしねーとな。子育てに。
 獅郎は思わず常服の胸元を探って、禁煙したことを思い出して舌打ちをした。


作品名:Brightest Sword 作家名:せんり