Holy and Bright
「ほら、あれ!」
ルゥが指さしていたのは道から少し離れた急斜面を一斉に降りていく馬の群だった。いや−−馬だけではない。鹿をはじめ他の小動物の姿も見える。
「あんなにたくさんの馬の群、見たことないよ!」わくわくとした表情でルゥが続ける。「すごいや! いい機会だから、弱ってる奴を捕まえようよ!」
「何?」
「転げた奴とかなら捕まえられるかもしれないし……! 行こうよ、ジュリアス!」
今にも飛び出しそうな勢いでルゥが叫ぶ。そのとき、アウロラがまた嘶いた。
「……待て」
ルゥの腕を掴むとジュリアスは馬たちの様子に違和感を感じた。だいたい馬というものは下り坂が苦手なのだ。なのに、あのすさまじい勢いは何だ? 確かにルゥの言うように足を取られ、転がり落ちる馬もいるようだ。だが……。
アウロラが再度嘶いた。
ジュリアスはざっと青ざめた。あれがルゥの言うように野生の馬ならば、この集団移動には何か訳があるはずだ。
それはたぶん−−。
「ルゥ……違う……!」
「何が違うの?」
「森の奥で何かが起こっているのだ」
「え?」
そう言い合うジュリアスとルゥの目に、アウロラが激しく嘶いて泉のほとりから逃れようとでもするかのようにもがいている様子が映った。だが手綱が近くにあった木にくくりつけているので、それは果たされなかった。
アウロラも異変に気付いている。
「これは……」
ジュリアスが続きを言おうとしたときだった。嘶きと激しい蹄<ひづめ>の音がする。見ると、幾十頭もの馬たちが激しい走行で泡を吹きながらすぐ間近に迫ってきていた。
作品名:Holy and Bright 作家名:飛空都市の八月