Holy and Bright
「……ごめんなさい……もうこんなこと、してもらえる……立場じゃないのに……」
駆けてくるルゥ、そしてルヴァとパスハの姿がジュリアスの目に映った。
「……銀のボタンを……押したのだな」
背後でこくんと頷く気配がする。ジュリアスは嘆息した。
……私の所為<せい>か。
「酷い……ですよね、私。要らないって言ったり、かと思うとぎりぎりまであなたの力を頼って。女王候補失格で当然です」
「アンジェリーク……?」
「怪我……してるのに……」
「アンジェリーク!」
荒げた声に、びくりとした気配が背中に伝わる。だが今は躊躇している場合ではなかった。伝えなければならない−−まさに今すぐ言葉と態度で、しっかり理解してもらえるように。
私の思いを。
「私は、このエリューシオンにおいては……あなたの、光の守護聖なのです。ですから」
肩を支えるアンジェリークの指先が震えた。空いている手でジュリアスはその指先を掴んだ。
「あなたは思う存分……私を使いなさい。私はそのために」
大きく息を吸うとジュリアスはアンジェリークの顔を顧みて言った。
「存在しているのです……アンジェリーク様」
そしてあなたは、私を見て笑う。
初めてちゃんと……笑った顔を見せてくれた。
昨日の儚げな笑みではない。私にだけ向けられた、心からの笑顔。
……なんて優しい表情なんだろう。
アンジェリークは、黙って頷いた。胸がいっぱいで、頷くことしかできなかった。
作品名:Holy and Bright 作家名:飛空都市の八月