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飛空都市の八月
飛空都市の八月
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Holy and Bright

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 満足そうに答えるとジュリアスは薬を飲み、再びベッドに横たわる。アンジェリークは少し開けていた窓を閉じ、帳を降ろすとランプの光を弱く調節した。そしてジュリアスを見る。淡いランプの光に照らされている彼の顔色は、先ほどよりは幾分ましではあったが、それでもやはり青白かった。
 ジュリアスの体にかかったシーツを肩まで引き上げると、アンジェリークは少し屈んでその額に口づけた。
 「お休みなさい」
 「……ああ」
 少しかすれた声が聞こえた。


 食器を片づけるため、アンジェリークは部屋を出た。台所に行くと女たちも疲れた表情ではあったがアンジェリークから食器を受け取り、今日のことについて何度も礼を述べる。アンジェリークはそれには笑顔で応えた。
 だが、自室に戻り、徹夜に備えてさっとシャワーを浴びながらアンジェリークは泣いた。
 私……お礼なんか言ってもらえる立場じゃない。
 燃えていく森を、アンジェリークは遊星盤から虚しい思いで見つめていた。もちろん、山火事などいくらでもあるだろう。女王たる立場で、星々に起こる一つ一つの事象を悔やんでいてはきりがない。
 しかし、あのまま自分が叱咤しなければどうなっていただろう……このエリューシオンの民は。ただ燃えていく樹々に呆然と立ちつくし、町や家や家族、そして自分が燃えていくままにしていたのだろうか。光の力……明日を生きるための意欲がなくなってしまっていたせいで。
 ボタンのことは許してもらえると思う。
 けれど、私はどうしても、私がジュリアスに対し与えた仕打ちが許せない。私のちょっとした好き嫌いが招いた、この恐ろしい罪を。
 だから。
 せめてエリューシオンにいられるこの時だけは女王候補らしく……エリューシオンの天使らしく振る舞おう。せっかくジュリアスが嘘までついて−−とても強引な嘘だけど−−機会を与えてくれたのだから。
 ……この、エリューシオンでの試験が終わるまでは。
 「さあ、しっかり! 絶対ジュリアスを治すんだからね、天使様!」
 シャワーの湯を顔にざっとかけると、アンジェリークは自分に向かって叫んだ。
 
作品名:Holy and Bright 作家名:飛空都市の八月