Holy and Bright
満足そうに答えるとジュリアスは薬を飲み、再びベッドに横たわる。アンジェリークは少し開けていた窓を閉じ、帳を降ろすとランプの光を弱く調節した。そしてジュリアスを見る。淡いランプの光に照らされている彼の顔色は、先ほどよりは幾分ましではあったが、それでもやはり青白かった。
ジュリアスの体にかかったシーツを肩まで引き上げると、アンジェリークは少し屈んでその額に口づけた。
「お休みなさい」
「……ああ」
少しかすれた声が聞こえた。
食器を片づけるため、アンジェリークは部屋を出た。台所に行くと女たちも疲れた表情ではあったがアンジェリークから食器を受け取り、今日のことについて何度も礼を述べる。アンジェリークはそれには笑顔で応えた。
だが、自室に戻り、徹夜に備えてさっとシャワーを浴びながらアンジェリークは泣いた。
私……お礼なんか言ってもらえる立場じゃない。
燃えていく森を、アンジェリークは遊星盤から虚しい思いで見つめていた。もちろん、山火事などいくらでもあるだろう。女王たる立場で、星々に起こる一つ一つの事象を悔やんでいてはきりがない。
しかし、あのまま自分が叱咤しなければどうなっていただろう……このエリューシオンの民は。ただ燃えていく樹々に呆然と立ちつくし、町や家や家族、そして自分が燃えていくままにしていたのだろうか。光の力……明日を生きるための意欲がなくなってしまっていたせいで。
ボタンのことは許してもらえると思う。
けれど、私はどうしても、私がジュリアスに対し与えた仕打ちが許せない。私のちょっとした好き嫌いが招いた、この恐ろしい罪を。
だから。
せめてエリューシオンにいられるこの時だけは女王候補らしく……エリューシオンの天使らしく振る舞おう。せっかくジュリアスが嘘までついて−−とても強引な嘘だけど−−機会を与えてくれたのだから。
……この、エリューシオンでの試験が終わるまでは。
「さあ、しっかり! 絶対ジュリアスを治すんだからね、天使様!」
シャワーの湯を顔にざっとかけると、アンジェリークは自分に向かって叫んだ。
作品名:Holy and Bright 作家名:飛空都市の八月