Holy and Bright
起きているのか眠っているのか……。
ジュリアスは苦笑して、伏した頭を上げたとき、とろとろと薄目を開けたり閉じたりしているアンジェリークを見た。
そのまま腹這いに横たわり、アンジェリークの顔を見つめる。
ここにいるのはただの少女だ。
馬で森に行き、降ろしたときにこんな細い体でいったいその手に何を掴もうとしているのだろう、この少女はと思ったが……愚かなことだ。
確かに、ジュリアスに再びサクリアが戻ったせいもあるだろう。ルヴァが調えた薬の威力も相当なものだろう。だからと言って、先程シールドを交換してからたぶんそれほど時間は経っていないのに、こうして傷が癒えてしまっている。これが聖地ならわからなくもない。守護聖が致命的な病気や負傷をせぬよう、聖地では女王の力がサクリアと共に彼らを保護している。だが、ここはエリューシオンだ。エリューシオンの女王たる存在のアンジェリークは、まだ女王候補に過ぎない。
なのに、すでに彼女は背に翼を持ち……その掌に宇宙を握る。
彼女は間違いなく女王になる。もしかしたらもうこのエリューシオンを出たと同時かもしれない。それほど現在の宇宙の危機は逼迫している。今から思えば、聖地や飛空都市ではほんのわずかな時間だが、わざわざこうして二人きりでこのエリューシオンに一週間も滞在させること自体に、現在の女王の意図を感じる。守護聖の首座たる光の守護聖と、新たなる女王との間の決裂を払拭するための意図を。
長く細い睫がふるふると揺れている。
ゆるりと欲望が頭をもたげる。
ジュリアスは顔をしかめた。決裂どころか、とんでもない想いまで抱えさせられた。
それでも……彼女の守護聖として仕えていける。これからも、ずっと。
ならば。
(今、この時だけ……許せ)
顔を近づけ、そっと……絶対に目覚めぬ程度に口づけた。口づけたというよりは、唇で唇に触れる程度の、ほんの微かなものだった。それだけでも頭をもたげた欲望はいきりたったが、ジュリアスはそれを強引に抑え込んだ。
そして髪に触れ、その一筋を取ると心の中で告げた。
……光の守護聖ジュリアス、あなたに永遠の忠誠を……捧げます。
たゆたう小舟のようにアンジェリークの意識は揺れる。
何か引き寄せられるように腕を掴まれた。かと思うと体が宙を浮き、やがて広がるように楽になり、暖かくなった。気持ちが良くて、アンジェリークは本当に眠りに落ちていく。
ようやく睫の震えが止まったのを見て苦笑するジュリアスが、そばにいるのも知らぬままに。
--- chapter 4 了
作品名:Holy and Bright 作家名:飛空都市の八月