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飛空都市の八月
飛空都市の八月
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Holy and Bright

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◆6

 自分の部屋にアンジェリークを連れてベッドに寝かせるだけで、ジュリアスの疲労は極致に達していた。彼女は裸体のまま眠り続けている。思わずジュリアスは床に手をつくと、ベッドから背を向け、そこにもたれるような格好で座り込んだ。彼にしては随分と行儀の悪い所作だ。だが、信じられないほど体が欲望に反応して、むしろ痛みを感じるぐらいだったので、彼女の姿を見ないに越したことはなかった。それにしても……自分もまた、ごくごく普通の男だということを、いやというほど認識させられてジュリアスはこめかみをぐいぐいと押して戒めてみた。もっとも、そのようなことをしたところで治まるはずもないのだけれど。
 アンジェリークはいっこうに目を覚ます気配がない。ならば、今すぐジュリアスが楽になることは充分可能だ。それを止めるのは彼女が明日、女王になるという事実だけ。それさえなければ……彼女がごく普通の、ジュリアスを慕うただの少女であれば−−
 ジュリアスは首を横に振った。
 違う。
 翼を持つ少女だからこそ、敬意と共に好意を持った。単なる普通の少女であれば、自分が彼女のことなど意に介すこともなかっただろう。
 それにしても……まだ……覚めぬのか?
 なるべく見ないようにしてはいたものの、やはり気になりジュリアスは、体を捻るとベッドの空いている箇所に腕をつき、アンジェリークを見ようとして、動きを止めた。
 「……これ……は……」
 同じ場所−−自分の眠るベッド脇で寝入ってしまっていたのは彼女だ。
 癒すことができればと他人の……私の足に手を置いて夜を越そうとしていた……。こういう角度で、私を見ていたのか……。
 あのときの彼女と同じように体を倒して見てみる。ちょうど足下のあたりでもたれていたので、まさにあのときのままだ。血の気をなくして寝込んでいた自分を、彼女はどのような思いで見ていたのだろう。だからこそ、あの翌朝目覚めた後、肩を揉んでくれている途中で、元気になって良かったと泣き出した。回復させたのは、他ならぬ自分なのに……その自覚もないままに。
 ジュリアスは、立ち上がるとアンジェリークを見下ろした。
 愚かだな……私としたことが。
 確かに、あのときの自分と今のアンジェリークとでは、事情は大きく異なるかもしれない。けれど、相手を心配することには変わりないはず。
 それなのに、おまえが裸だからといって何を狼狽えているのだろう。
 最初はともかく結局は、翼を持つということよりも、その、けなげでひたむきなところ……人としての根本に惹かれた。
 だからもう、無理だ。
 おまえが明日、女王になろうと、翼をはためかせようと、この愛情を忠誠心に変換させてしまうことなど……到底できはしない。ならば、この重いものを抱いたまま、おまえを見守り続けるだけのこと。
 そう思い至ると、急に肩の力が抜けた。
 改めてジュリアスは膝を床についてアンジェリークの手を取った。確かにひとりの男としての欲望は今この時も持ち続けている。愛おしく思う女が目の前にいる限り、これはどうしようもない。
 それでも。
 私はおまえの翼をむしり取りはしない。何故なら、あの聖なる眩い翼ごと愛したからだ。女王の資質とおまえ自身の両方に焦がれたからだ。
 だが今は……その身に触れることを許せ。
 先日、自分の足を癒したその手の甲に口づけるとジュリアスは、アンジェリークを抱き上げ、シャワーへと向かった。


 もしかしたらアンジェリークの部屋のシャワーのほうが広いのかもしれない。だが、ジュリアスの方は立てばどうにか人が二人ぐらい入ることのできる程度のものであり、備え付けられた湯船も足を少し曲げなければならない容量ぐらいしかなかった。
 意識のない−−正確に言えば眠っているのだが−−人間の体を洗うという行為は相当難しい。せめて横たえさせることのできるぐらいの場所があれば良いが、湯船のほうでは体がずるりと滑っていかないかと心配だ。
 そういうことか。
 自分で導き出した結論にジュリアスは微かに眉を顰めた。しかしもう思い煩うことはしなかった。
 シャワーの入り口の扉にアンジェリークの体を降ろそうとしたジュリアスは、彼女の、先程口づけた方ではない手に何か握られていることに初めて気づいた。布のようなものらしい。指を広げて外すと、ジュリアスはそれをとりあえず自分のバスローブのポケットに突っ込み、湯船に湯を張り始めた。夜中のせいか、いつもに比べて出る水量は多い。それなりに温かいのも幸いだ。そこへ、やはり同じくアンジェリークから分けてもらったソープセットの中のジェルを流し込んだ。それは流れ込む湯に攪拌されて一気に泡が立つ。
 再びアンジェリークの元へ戻るとジュリアスは、辛うじて羽織っていたバスローブを脱いだ。引っかけていた程度のバスローブでも、あるのとないのとでは接する心持ちもずいぶん異なる。さすがにジュリアスはここでは深く息を吸い、吐いてからアンジェリークを抱き上げて湯船にとって返し、決して足を滑らせたりすることのないよう用心深く湯船に入り、彼女の体を自分の前に降ろすとそのまま背中から抱きかかえるような格好で泡の中に腰を降ろした。そしてジュリアスは自分の足を、膝を立てたまま広げ、その間にアンジェリークの体を挟むように置いて固定させ、彼女の頭は自分の肩に預けさせた。すると、少ない湯量でまだまだ湯船の下の方にあった水面が一気に上がり、アンジェリークの胸のあたりぐらいまでは泡で覆われるようになった。
 一気に香りが変わる。確かに彼女の髪から……そしてたぶん自分の髪にもあの蝋燭の残り香はあるだろうが、それは後で髪を洗えば良い。それより、湯と、アンジェリークの体温との両方の温かな心地良さで、ジュリアスは思わず「あぁ」と声を漏らした。
 それでも、アンジェリークはすぅすぅと眠っている。
 「アンジェリーク……こうまでしても、まだ目覚めぬつもりか?」
 苦笑してジュリアスは、アンジェリークの顔に片手を添えて自分の方へ向かせると、彼女の唇の間を割り込み、今度は強く深く口づけた。以前の、女王の威光を目にした直後で畏れつつも微かに触れたようなものではない。かと言って欲望のまま貪るようなものでもない。ただただ、自然と湧き上がる好意に従っただけだ。
 だが……ここにおまえの意志はまったく存在しない…な、アンジェリーク。
 唇を離すとジュリアスはくすくすと笑う。
 エリューシオンに来る前、そして来た途中までは確実に毛嫌いしていただろう光の守護聖が、このように狭い湯船の中で裸のおまえを抱いて……唇を奪っているのだからな。
 その笑みは自嘲的なものだった。
作品名:Holy and Bright 作家名:飛空都市の八月