Holy and Bright
再び唇を、耳朶に触れて軽く噛むようにしてから首筋へ移動させるとジュリアスは、まるで子犬がじゃれるように笑ったまま何度も何箇所もついばみ、口づけてゆく。その間にもう一方の手は彼女の乳房に触れ、掌で覆うように掴んでは撫で上げる。それは、洗っているとも、弄っているとも取れるような動きだった。湯と泡という緩衝剤のおかげでジュリアスの罪悪感はかなり軽減され、むしろこの貴重な“時間”を楽しむような風情もあった。もしかしたら……少しでも欲望を浄化させたい気持ちもあったかもしれない。
そしてジュリアスは、顔に持っていった手を降ろすと、それを彼女の腰から股へと滑らせた。その指先は、湯の中で藻のように微かに揺れるものに触れる。
ジュリアスは、目を細めた。
欲望が、彼女の体に分け入りたいとばかりに主張する。その一方で、指の動きはぴたりと藻の先で止まっている。
この奥に触れたとき……眠っていないおまえはどのような声を漏らすのだろう……な。
笑みが消えた。
ジュリアスは、アンジェリークの両脇に手を入れ、湯船から彼女の体を引き上げつつ立ち上がると、自分の方へ顔を向けさせ、見つめた。
潮時だ。
「もう良いから……」
声が掠れてしまう。
「アンジェリーク……早く目覚めてくれ……」
発せられた言葉はジュリアスにとって、多くの望みであり、唯一の嘘でもあった。
作品名:Holy and Bright 作家名:飛空都市の八月