Holy and Bright
「遊星盤から身を投げ出さんばかりにして、私に手を差し伸べたときのあなたは……本当に神々しかった」
そう言われ、アンジェリークはあのときのことを思い出す。確かあのときも早く遊星盤に戻れと叱られたっけ。でもジュリアスは私を怒ってから、とても気まずそうな、辛そうな顔をしていた。それに叫ぶ前、ほんの一瞬、すがるようなまなざしを見せていた。まるでひとり放っておかれた子どものように−−ああ、まただ。また私はこの人の冷たい表情の裏を暴いていく。
でも。
「神々しい……?」
この言葉には妙な違和感。私が神々しいって?
「そうです、あなたの背から翼がはっきりと見えました」
「翼?」
そういえば、以前もそんなことを聞いたような気がする。でも……私の背に翼?
「そう。聖なる……眩い翼を。それは……女王の証ともいえるものです」
そう言ったとき、ジュリアスは再び表情を先のあやふやな笑みに戻していた。
「それに……私の傷もその御力で癒してくださったのですよ」
だが、こう言うときには明るい表情になった。何だろう、くるくると変わっていく……ジュリアスの表情。この人、何かとても……揺らいでる?
「え、だって、あれはジュリアスにサクリアが戻ったからでしょう? それにルヴァ様の薬も……」
「誰が私にサクリアを戻したのです」くす、と笑ってジュリアスは続ける。「あなたですよ。あなたの心底光の力を望む声が私の体中に響き、私はそれを発することができたのです」
「でもそれは、ここがエリューシオンで、私がエリューシオンを育成しているから」
そうだ。私が女王になるなんておかしい。
「確かにおっしゃるとおりです。ですが」
聖なる眩い翼なんて、嘘。
「……そんな敬語を使うのはやめて!」
掴んだ手をぐいと引っ張るとアンジェリークは自分の胸元にそれを持っていった。ジュリアスの手が驚くほどびくりと揺れた。だが構わずアンジェリークは言い放つ。
「信じられない! 私が女王になんてなれるわけ、ないじゃないですか! 私、あなたが苦手だったってだけで……あなたのサクリアを失わせたんですよ? エリューシオンの民に光の力の存在を忘れさせたんですよ? それで民は未来に生きる気力をなくして、ここは外見はともかく内面は酷く荒れた。それに、それに……」
大きく息を吸ってジュリアスの手をぐっと自分の胸に押し付けると、アンジェリークは叫んだ。
「私は……私は、大好きなあなたに抱かれたいと思う、ただの女の子に過ぎないのに!」
作品名:Holy and Bright 作家名:飛空都市の八月