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飛空都市の八月
飛空都市の八月
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Holy and Bright

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◆11

 静まりかえった部屋の外から、ざわめきが聞こえる。民たちが天使様と伴の者−−それは光の守護聖であったのだが−−を見送るために集まってきているらしい。
 ジュリアスはアンジェリークのうなじから唇を外すと、少し屈んだままアンジェリークを見た。
 「……というわけだ。だからおまえは何の引け目も感じることはない。むしろ、罰せられるべきは私であり、おまえではないのだから」
 そう言うとジュリアスは、ベッドにあったシーツを引いて取ると、アンジェリークの体にふわりと掛けた。
 「何故……ジュリアスが罰せられるの? 第一、誰に?」
 まだ少し震えているのか、つっかえながらもアンジェリークはジュリアスを見据えて尋ねた。
 「おまえに、だ、アンジェリーク」
 きっぱりとジュリアスは答えた。
 「おまえの言う失敗は微笑ましいが、私の場合は質が悪すぎる。なにせ私は、おまえが昏倒した原因を取り除くために、おまえの体を洗うという大義名分……ああ……正しい理由というか、立派な言い訳とでもいうべきか……を得てしまったので」
 そこまで言ってジュリアスは苦笑した。いや、苦笑、というよりはむしろ自嘲というべきものかもしれない。
 「先程の私ですら、おまえは……恐かっただろう?」
 頷くべきか、否定すべきか、一瞬アンジェリークは躊躇したようだったが、観念したように頷いた。
 「でも……驚いただけ……」
 小さく言った。
 本当はむしろ嬉しくもあった。できれば、もう少しだけ……心の準備ができていれば良かったけれど。
 それに……やめてほしくなかった……んだけど。
 それをどう伝えれば良いか考えあぐねているうちに、ジュリアスが話し始めた。
 「ならば、おまえの体を洗っている間の私がどれほど……」
 言いながらとうとうジュリアスは声を出して笑い始めた。
 「おまえが欲しくて欲しくてならなかったか」
 対してアンジェリークは思わず言葉を呑み込んだ。吐くようなそれは、アンジェリークがぼんやりと夢見るようなものとは完全に一線を画していた。
 「よく、おまえの体に……無理矢理分け入らなかったことだ。我ながら感心する。なにせ、おまえは……どれほど私がおまえの体を洗っているのか愛撫しているのかわからぬような行為を施しても、まったく目覚めなかったのだからな」
 ジュリアスは再び表情を脅えたものに変えていくアンジェリークを見て、さも可笑しそうに笑ったまま続ける。
 「だから、たとえおまえの体を裂いたとて誰にも知れぬ。もしかしたらおまえすらにも」
 くく、とくぐもった声で笑って言ったジュリアスは、そこで言葉を止めた。そして笑みを収めるとアンジェリークを見つめた。
 「だが……結局私がやったことは、おまえの背中の“あれ”が関の山だ。見ている者がいたとすれば、さぞや滑稽な図であっただろう」


 湯船から身を起こすともう、言い訳代わりの湯と泡の緩衝剤はなくなり、本当にアンジェリークとの間に遮るものはなくなった。濡れそぼった体を抱き、そのままどうにでもできるほど近しい状態にあって、ジュリアスは呻いた。
 本当に早く目覚めて欲しかった。そして悲鳴でもあげてくれれば、この酷い熱も冷める。我に返って自分を恥じ入ることだろう。だが腕が勝手に彼女の腰に回ってより近く体を密着させようとしている。……もっとも、勝手になどというはずがない。腕は、ジュリアスの意志で動いているのだから。
 ぎゅっと目をきつく閉じるとジュリアスは、念じた。
 ……離れろ。
 情けなくなるようなやりようだが、背に腹は代えられない。腰に回した腕を、ようやく緩めたジュリアスは、濡れたアンジェリークの体を、シャワー入り口に置いておいた自分のバスローブで覆い、自分は先に使って湿ったままのタオルで水滴を拭った。
 翼……か。
 ジュリアスはクロークにかかっていたシャツを羽織るとベッドの端に腰掛け、そっと横たわるアンジェリークの体をうつ伏せにして背中を見つめた。
 エリューシオンに来た初日、ファスナーを上げたとき垣間見た白い背中。考えてみれば、あのときすでにこの少女の中に“女”を感じていた。ただあのときは女王候補すら不適切だと思っていた。たった一週間前のことなのに、今とはなんと隔たりがあることだろう。まさかこのように狂おしいほど恋い焦がれることになろうとは。湿った巻き毛を指でくるくると弄ぶようにしながらジュリアスは苦笑した。
 聖なる眩い翼……あれに憧れ、崇めもした。それは今も変わらぬ……。
 けれど。
 一方で、けなげでひたむきな姿に、強く惹かれた。
 指を髪から外すとジュリアスは、すっ、とそれを白い背に走らせた。そして、ゆっくりと体を傾け、唇を背の中程に這わせる。
 むしり取りたかった。
 翼はどこから発するのだろう。それは直接見ることがなかったジュリアスにはわからない。だから肩胛骨あたりで動きを止めると、一気にそこを強く吸い上げた。
 ……これだけは、許せ。
 頬を擦るように背中を移動し、ジュリアスはもう片側の場所も口づけた。

作品名:Holy and Bright 作家名:飛空都市の八月