Holy and Bright
◆2
飛空都市に戻った二人を、守護聖全員とロザリアが迎えた。
わっと囲まれたアンジェリークから離れ、ジュリアスはクラヴィスとルヴァの元へ行くと、軽くではあったが会釈した。
「……世話になった。礼を言う」
「本当に……治ってしまったのですね」
エリューシオンからの帰りのため、正装ではなく身軽なパンツに包まれた足が何の差し障りもなく動く様子に、小声ではあったが驚きを込めてルヴァが言った。ジュリアスは黙って頷くと、視線をすい、とアンジェリークに向けた。
「お久しぶりですー、皆様!」
「こっちじゃ、半日ぐらいしか経ってねーよ」
「もう、ゼフェルってば! アンジェリークにとっては一週間だよね! どうだった? アンジェリーク」
「ふふ、マルセル様……良い一週間でしたよ」
アンジェリークは明るく笑いながらそう言うと、ごくごく自然にジュリアスの方を見た。
物言いたげにルヴァへ目を向けるクラヴィスと、苦笑してそれを受けるルヴァ以外の全員が、とんでもないものを見たように息を飲んだ。というのも、その場にいる誰もが、ジュリアスがこれほど柔らかく微笑む顔を見たことがなかったからだ。
オリヴィエがロザリアをこっそり小突いた。
「あんたは何か知ってるんだろ、ロザリア!」
「……さあ……知っているような、知らないような……」
ロザリアも小声でそう答えた割には呆気にとられてその様子を見ている。
一方、皆の視線が一斉に自分へ集中していることに気づいたジュリアスは、はっとして周りを見渡し、何か言おうとしたそのとき。
「女王候補アンジェリーク」
厳かな声がした。ディアだ。笑顔を収め、アンジェリークはディアの方を見た。
「女王陛下がお待ちです、謁見の間へ」そう言うとディアは守護聖たちを見た。「皆も集まるように、とのことです」
一気に場の空気が張りつめたものになる。
「わかりました」
そう言うとアンジェリークは手をジュリアスに向けて差し出した。ジュリアスはさっと身を翻して歩み寄るとその手を取った。
「ありがとう、ジュリアス」
「いえ」
短く言うとジュリアスはアンジェリークの手を引いて、踵を返したディアの後を歩き始めた。誰も彼もが何か言いたいとは思うのだが、それよりもこれから起こる事の重大さに緊張し、黙って二人の後に続く。
そうしてアンジェリークは、二百五十六代目の女王となった。
作品名:Holy and Bright 作家名:飛空都市の八月