悪魔と恋をしましょう
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平日の、夕方にはまだ少し早い時刻、佐隈は借りているマンションの一室にいた。
今日は大学の講義の午後の一コマが休講になり、また、芥辺探偵事務所でのアルバイトもないので、大学からそのまま帰ってきたのだった。
ちなみに、芥辺は新しいグリモアを探すために海外に行っている。
部屋で佐隈は洗濯物を片づけていた。
それが終わった頃、テーブルに置いてある携帯電話が鳴った。
佐隈は携帯電話を手に取る。
メールを受信したらしい。
だれからのメールかを確認する。
ベルゼブブからだ。
『さくまさん、今どこにいますか?』
なぜ居場所をたずねられるのかわからないが、佐隈は返信する。
『自分の家にいます。どうかしましたか?』
すると、すぐにまたベルゼブブからメールが来た。
『わかりました。良かったです』
佐隈は小首をかしげた。
どうかしましたか、という問いかけに対する回答がない。
それに、なにが良かったのかわからない。
佐隈は携帯電話を持ったまま、次に返信するメールの内容を考える。
ふと。
ピンポーン。
ドアベルが鳴った。
来客のようだ。しかし、そんな予定はない。
新聞の勧誘だろうかと思いつつ、佐隈はインターフォンのほうへ行った。
「はい、どちら様ですか?」
「ベルゼブブです」
返ってきた声を聞き、佐隈は眼を見張った。
「ベ、ベルゼブブさんっ!?」
「はい、そうです。ドアを開けていただけませんか?」
いつもの丁寧な口調でベルゼブブが頼んできた。
佐隈は驚きで頭の中が真っ白な状態で、玄関のほうに向かう。
しばらくして玄関に到着すると、ドアを開けた。
そこには。
「さくまさん」
人間に変装したベルゼブブが立っていた。
質の良さそうな黒いスーツをモデルのように着こなしている。
手には赤い薔薇の花束を持っている。
その花束を佐隈のほうに差しだし、言う。
「デートのお誘いに来ました」
美形の顔で、にっこりと佐隈に微笑みかける。
まぶしすぎるほどの笑顔だ。
思わず、佐隈はドアを閉めた。
作品名:悪魔と恋をしましょう 作家名:hujio