Golden Wing
side R
長々とした打ち合わせからようやく解放されてほっと息をつきながら会議室を出たロイの視界に、扉近くに控えていた副官の姿が映る。さらに厄介ごとかと一瞬構えたが、お疲れさまですと目礼されたのみだったので再び肩の力を抜く。
「まったく中央のお偉方も毎度の事ながら勘弁して欲しいものだ」
思わず愚痴が口をついて出てしまう。
近々中央から将官クラスの数名を含んだ一行が東方司令部に視察という名目の物見遊山にやってくるに当たり、あれやこれやと直前になって要求をしてくるものだから対応に追われてしまった。
おまけに、東方司令部の最高司令官である御仁が「当日のお相手は焔の錬金術師が直々にいたします」などと請け合ったりなどするものだから―つまりお守りを押し付けられた―スケジュールやら警備やらもろもろ組み直しとなり・・・
結局視察の間中、嫌味の言われどおしかと思えば今から気が萎えるというものだ。
「お察し致しますが、他の者では代わりが務まりませんので」
案の定ホークアイの声音からは労りらしきものが全く感じられなかった。
「それよりも午前中締切の決裁が押しております」
労りどころか早く戻って仕事をしろと尻を叩かれているようだ。
それでもなんとか息抜きできないものかと往生際悪く試みてみる。
「年寄りにいびられる私に癒しはないものかね?」
鷹の目がちらとこちらを見上げた。それだけのさりげない動作だったが、周りの空気が張り詰め温度が2、3度下がった気がした。
君は大気の錬金術を操ることができるんじゃないかね?と軽口を叩くのは命が惜しいので止めておく。
おそらく賢明な判断であろう。
「部下いびりをなさりたいのでしたら、午後の決裁が全部お済みになってからお願い致します」
にべもない。どうあっても早々に書類の山を積んだ机につかせたいようだ。
これ以上ぐだぐだと引き延ばすのは得策ではないと諦め、降参というように両手を軽く上げた。
「軍の狗としての職務を全うすることにしよう」
せめて帰りが夜中などにはならないように。そう願いながら体を方向転換させた。
「執務室へ早く戻られるのがよろしいかと思いますよ」
一歩踏み出した背中にそう声をかけられる。
寄り道をすると思われているのか、つくづく信用のないことだとため息をつきながら振り返った副官の顔は、冷徹極まりないかと思いきや僅かに緩やかな笑みを浮かべていた。
上司である自分には滅多なことでは向けられない表情だ。
しかしそれは一瞬で消え去り、再び表情を戻すと頭を軽く下げながらもう一言。
「一段落される頃にお茶をお持ちいたします」
つまりそれまでに一山書類を捌けということか。
ロイは肩を竦めると片手を上げて了解の意を示し、今度こそ執務室へと足を向けた。
作品名:Golden Wing 作家名:はろ☆どき