Golden Wing
side R…& E?
部屋に入るとまず目に飛び込んできたのは全開の窓。
朝ここを出る時に開けた覚えはなく、部下が自分の不在中に開け放すことも考えられない。しかし、不審な侵入者のような違和感なども感じられず・・・。
手前に目線を落とすと来客用のソファーの上に金色の光の塊が―いや鋼の錬金術師が仰向けに転がっていた。腹を出して涼しげな格好で豪快に。
「あまりにも無防備じゃないか?これは・・・」
呆れつつ近づいても気づく気配もなく寝入っているようだった。
「いくらこの時期でも体を冷やすぞ」
側に脱ぎ捨てられていた赤いコートを体の上にかけてやる。
すると少年はごろりとこちら向きに丸くなりもぞもぞと体を動かしていたが、やがていい位置に落ち着いたらしく再び動かなくなった。
まるで子猫か何かみたいだ。
思わず苦笑しながらロイはそのままソファーの側に座り込んだ。
寝顔を覗きこむと、彼の背に負っている宿命とは裏腹にその表情は幼く健やかなものだった。
殺伐とした軍部の中において、太陽の匂いのするようなこの子供を異色と見る者もいるが、微笑ましげな眼差しを向ける者も多い。
そして自分こそエドワードに厳しく接して見せてはいるものの、その来訪を心待ちにしているし、打てば響くような会話を好ましく感じてもいる。彼はからかわれていると思うのかいつも噛みついてくるが、そのやりとりもまたロイにとっては楽しみの一つだ。
癒されても・・・いるかもしれない。
―執務室へ早く戻られるのがよろしいかと思いますよ―
副官のあの言葉と微笑みはそういうことだったのか。
存外にこの子供を気に入っていることなどお見通しらしい。上司へのちょっとした労いというところか。一段落した頃に茶を、と言っていたから一時間くらいは猶予を与えられたと思っていいだろうか。
そういえばこんな風にじっとしているところなど見たことがなかった。
起きている時には強く光を放つ金瞳の印象ばかりが勝っているが、こうしてよく見ると目鼻立ちは案外整っており、見事な金髪と相まって寝顔だけなら天使のようだ。寝顔だけならば。
ロイはまろく滑らかに見える頬に誘われるように手を伸ばしたが、触れる寸前で手を止める。天使であれば自分のような者の手が触れていいはずなどないのだ。
それを何故自分は寂しく思ったりなどするのだろう?
いやいやだいたいこれを天使だなんてだな。
・・・疲れて思考がうまく働かなくなっているようだ。
「今日は朝から疲れてしまったよ。老人達が私を寄って集って苛めるんだ」
取り繕うように寝入っている子供相手に愚痴を零してみるが、もちろん反応などありはしない。
大人しいのもたまには珍しくていいが、やっぱり元気で小憎らしい顔が見たい。
「たまに来たと思ったら話相手もしてくれないなんて酷いじゃないか」
愚痴というより拗ねてるみたいになってきたが止まらない。
「だいたい君はあちこち飛び回ってていつも捕まえられないな。ほんとに羽根でも生えてるんじゃないか?」
前触れもなくやって来てあっという間に去って行ってしまう。まるで背中に翼があるかのように、軽やかにふわりふわりとして捕らえられないGolden Wing。
「早く目を覚まして私の相手をしてくれたまえ…」
ロイは頬杖をつきながら少年の寝顔を見つめ続けた。
作品名:Golden Wing 作家名:はろ☆どき