Love Shock(前編)
実際はツナが美少女だから見られているだけなのだが、自分をダメツナだと信じているツナにはわからない。
ツナが遠慮すると、彼女達はお菓子を作ったらツナの家まで持っていくと言ってくれた。
しかしそこまでしてもらうのは悪いので、ツナはこうして一人、教室のなかでぼんやりとして京子達を待っていた。
ツナの机の横では雲雀の写真を楽しそうに物色する少女達の姿。
いいな‥‥。
そう思う。
楽しそうな少女達の、弾んだ声。
ほんの少しだけと思ってちらりと見れば、間違いなく、ツナの好きなあのひとの写真。
いいな‥‥。
俺もほしいな。
俺も、見たいな。
そう思うが、ツナには言えない。
ツナはこの学園の嫌われもの。
皆ツナを見て、ひそひそ言ったり、ツナの事を空気みたいに扱う。
いつの間にか物がなくなってしまう事も、よくある事だ。
しかし物はよくなくなるが、代わりに新しいものが置いてあるので問題はないのだが、ツナはよくそんな嫌がらせを受けたりする。
もう慣れてしまったが、そんなのはやはり辛い。
ツナの隣にいる少女達は、楽しそう。
弾んだ声。
明るい笑い。
彼女達はしばらくツナの隣で雲雀の写真を物色していた。
雲雀だけでなく、ツナの親友である獄寺や山本、それにスパナや京子の写真まであったし、黒曜の生徒会長である六道骸の写真まであった。
妹の凪はともかく、ツナ的には骸は変態で変人だ。
美人だけど、変態で変人。
そんな黒曜の生徒会長の写真まで取り引きされていた事に多少引きながら、ツナは小さくため息をついた。
あそこにあるのは、雲雀の写真。
羨ましい。
いいな‥‥。
ツナだって、ほしい。
でも、ツナには無理。
ツナが隣にいる少女達を羨ましく思っていると、取り引きを終えたらしい少女達は帰り支度を始めた。
ぱたぱたと写真をなおし、ちらちらとツナの方を見る。
その気配に気付いたツナは、写真の事を誰かに言われたりする事を気にしているのだろうかと考えた。
そんなの、言わないのに。
ツナは、言わない。
一体それを誰に言えと言うのだ。
ツナが黙っていると、少女達の一人が声をかける。
「あのっ!」
少女は勇気を振り絞り、思いきってツナに声をかける。
声をかけられたツナは、小首を傾げてそんな少女をじっと見つめた。
大きな濃い飴色の瞳をしたツナに、じっと見つめられた少女は思わず息を飲んで固まった。
あの、沢田綱吉に、見つめられた。
しかも、こんなに近くから。
「なに?」
ツナは小さくきく。
ツナに聞かれた少女は我に帰ったようにはっとして、手に持っていたお菓子のパッケージをツナに差し出す。
「あのっ、これ、よかったら、食べてくださいっ。しっ、新発売で、前も、このシリーズ、よく食べてたって、きいて、私たちっ、そのっ‥‥」
ここにいる少女達を代表してツナに言っている少女は、一生懸命。
ツナに、ずっと声をかけたかった。
今の彼女は一人で、周りを囲む、物騒だけどステキな人たちはいない。だから自分達も声をかける事ができるかもと思い、少女達は取り引きが終わった後、思いきって声をかけてみた。
一人では声をかける勇気はないが、今はみんなもいる。
そんな思いが彼女達にツナに声をかける事を決意させた。
彼女達は勇気を出して憧れのプリンセスに話しかけたのだが、当のツナは差し出されたお菓子を見て、そのお菓子を賄賂なのだろうかと思った。
これをあげるから、今の写真の事を黙っておいてという賄賂。
そう思ってしう。
どうして彼女達がツナの好きなお菓子を知っているのかはわからないが、こんな賄賂なんて渡さなくても、ツナは言わないのに。
そう思って困惑しながら少女達を見つめた。
「俺、写真の事は、言わないよ。だから、気にしなくていいよ」
ツナがそう答え少女達を見つめると、きゃーっと小さな叫び声が上がり、ツナの机の上にお菓子の箱を押し付けられ、置かれてしまう。
「たっ、たべてくださいっ」
ツナにお菓子を差し出した少女はそう言って、逃げるようにして皆でばたばた帰ってしまった。
賑々しく去って行った少女達の後ろ姿を見つめ、残されたお菓子の箱を見つめてツナはどうしようかと思う。
このお菓子を返しに行こうとしても、少女達は去ってしまった後。
ツナにはどうしようもない。
それに、これが今の事に対する口止め料なら、ツナがこれを受け取り、食べてしまった方が少女達は安心するかもしれない。
ツナは、どうして少女達がツナの好きなお菓子を知っていただとか、持っていただとか、まったく考えていなかった。
ツナがよく食べているものだから、少女達も買って食べてみていた。
ツナが好きなものだから、自分達も持っていた。
そんな事、まったく考えてもいないツナはお菓子のパッケージを見つめる。
ツナの好きなお菓子の、新味。発売されたばかりで、ツナもまだ食べてないもの。
出たら買おうと思っていたが、まだ買えてなかったもの。
ツナは机の上にぽつんと取り残されていたお菓子を見つめ、息をついた。
ツナはこれを食べてみたい。少女達は多分ツナに対する口止めとしてこのお菓子を置いて行った。
なら、食べてもいいだろう。
お菓子の箱を手に取り、ツナは小さく呟く。
「たべよ」
そうしてツナはお菓子の箱をべりっと開けた。
作品名:Love Shock(前編) 作家名:浅田リン