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Love Shock(前編)

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教室で一人、先程もらったお菓子を手に、ツナはぼんやりしている。
ぼーっとしながらツナが考えるのは雲雀の写真の事。
ツナも欲しかった写真。
でも言えなかった。
隣で、とても楽しそうだった少女達。
ツナも、すごく欲しいかった写真。
でも、ツナなんかが雲雀の写真を見たいと言っても少女達には相手にされないだろ事はわかっていた。
ツナも、欲しい。
ツナだけの雲雀恭弥の写真。
でも勇気の無いツナはそれを購入できない。
雲雀の写真はすごく高いので、ツナのような普通の高校生には買えないし、買った事が雲雀にしられたりしたらたいへんだ。
雲雀は自分の写真をとられるのは好きではない感じみたいで、すぐに処分されてしまう。
それでも欲しいというものは後を絶たない。
ツナだって、すごく欲しい。
こっそり写真くらいもっていたい。
雲雀は気配に敏感で、ツナが近くで見つめたりしたら、すぐに目があって睨まれてしまう。
雲雀に、いつも雲雀ばかり見ている子だと思われたり、そのせいで嫌われたりするのはいやだ。
だからツナはいつだってこっそり見ているだけ。
学校のある日は毎日科学室に通って、その窓から応接室の扉を見つめる。
雲雀が出入りする、応接室の扉。
窓から出入りする事もあるけれど、扉を通る時には中庭越しに、いつもよりも少し近くで雲雀を見る事ができる。
雲雀をちゃんと見つめる勇気のないツナは、遠くから、雲雀に気付かれないようにして豆粒みたいな小さな姿の雲雀をひっそりと見ているだけしかできない。

だって、こんなのおかしい。
女の子が女の子を好きなんて、絶対変だ。

ツナは雲雀を見たらどきどきしてしまうし、嬉しくなる。ついつい視線が雲雀を追ってしまう。こんなの絶対に変だし、おかしい。
これではまるで、ツナが雲雀を好きみたい。
ツナが雲雀に片想いしているみたい。
女の子であるツナが、やはり女の子である雲雀に片想いだなんて、おかしいし、変だ。
ツナのおもいは間違っている。
ここは女子校なので、雲雀の写真を購入するのはたいがい女性だけ。
さっきの子達もそうだった。
でもそれは写真を持っていたら「雲雀さんの写真なの。すごいでしょ。見つからずにまだ持ってるの。やっぱり雲雀さんはキレイよねー」と友人に自慢できたりするし、なんとなく雲雀に隠れて写真を持つスリルを楽しんだりするものが多いからだ。
それはアイドルに憧れるというような感情。

でも、ツナはそうじゃない。

他の子みたいな理由だったらいいのに、そんなんじゃないのだ。
雲雀が好きだから目で追ってしまうし、たとえほんの少しだとしても、雲雀の姿を見たい。
でも、好きだから、見れない。
好きだから雲雀に近付きたい。
ツナはダメツナだし、取るに足りない存在だし、ツナが雲雀を好きだと知られたりしたら、気持ち悪いと思われてしまう。
ツナは、多分雲雀に近寄ってしまうと自分の気持ちをうまく隠す事が出来ない。
雲雀に嫌われたくない。
雲雀を好きだから、近くにいけない。
ツナの事を知って欲しいと思う。でもこんなとるにたらないちっぽけなダメツナなんて、知ってもらえるはずもないし知ったとしてもすぐに忘れられるだろう。
ツナは弱い。
雲雀の好きな”強さ”とは無縁の草食動物で、意気地のない、ダメツナだ。
知ってもらったとしても相手にされない。
期待しても、無駄。
いちばん最初の出逢いで、ツナは雲雀を好きになってしまった。
こんなひと、この世に存在するんだと、そう思った。
いちばん最初、本当に近くで垣間見た雲雀は、とても綺麗で美しかった。
あの出逢い以来、ツナはずっと雲雀を想っているが、ツナから雲雀に近付いた事はない。
いつだって、遠くからこっそり眺めるだけ。
見つめる距離が少し離れている位だと、ツナはいつも雲雀と目があって、じっと見られてしまう。
何度も雲雀と目があう。
そんな事が続くと、ツナが雲雀を見ているという事がわかってしまう。
だから、雲雀を見つめるのは、遠くからになった。
視線が合わない位、ツナが見つめているのが雲雀にわからない位、遠くから。
ツナはため息を付き、先ほど垣間見た雲雀の写真を思い返す。
意思を持ったつよいまなざし。
引き結ばれた唇。
凛とした表情。
何から何までツナにはないもの。
きれいなひと。
ダメツナとは、大違い。
自分との違いと叶う事のない想いにため息を付き、先程もらったお菓子のパッケージを指先でつつきながら、なかにあるひとかけを摘んだ。
その時、机にあたっていた夕日がかげった。
何だろうかとツナはうつむいていた顔をゆるりと上げた。

そこには、漆黒を纏った、美しいひと。
ツナを見下ろすように一人立っている雲雀恭弥の姿。

今の今までツナの心のなかで思い浮かべていた、その人。
その人が、ツナのすぐそばにいる。
はじめて会った時と同じくらい近い距離で。
瞳は純粋な漆黒だというのに輝くようなような光を宿すそのひとは、じっとツナを見ている。
いつもみたいに厳しい表情ではなく、ふんわりとした、優しい視線で。
きれいなめ。
そこに、ツナの存在がある。
どうしてここにと思う事すら出来ない、真っ白な思考のなか息をのむ。
あまい雰囲気。
いつもは硬質な宝石のようなのに。
心臓の鼓動がおかしいくらいはやい。
夕日を浴びながら、じっとツナを見つめる雲雀から目がはなせない。
なんて綺麗な黒なんだろう。
雲雀を好きになってから、ツナは黒が好きになった。
大好きなひとが纏う色だから、ツナは黒が一番すき。
ぼんやりと見とれていると、雲雀がツナを見つめながら口を開いた。
「ねえ、ちょうだい」
とろりとあまい、何かをねだるような声にぞくりとする。
雲雀がツナを、ツナだけを見つめながら、そう言った。
ぼんやりと雲雀を見つめていたツナだが、雲雀のその言葉に我に返る。
ツナが、雲雀に何かを求められている。
ちょうだいと言われた。
なら、渡さないと。
せっかく声をかけてもらった。
声が、きけた。
雲雀が望むなら、ツナで渡せるものがあるなら、渡さないと。
雲雀は、なにが欲しいのだろうか。
ちょうだいって、それは何を?
ツナが何をあげればいいのか混乱しながら迷っている最中も、雲雀はツナだけを見つめてくる。
「たべても、いいよね」
またねだるようにあまく言われ、自分が手にもっていたお菓子の事を思い出す。
そうか、ヒバリさんはお菓子がたべたいんだ。
さっき、お菓子もらっておいてよかった。
このお菓子のおかげで、雲雀はツナのすぐ近くまで来てくれた。
ツナに声をかけてくれた。
雲雀の声がきけた。
雲雀から目を離す事が出来ないまま、ぼんやりと夢のなかにでもいるようなふわふわする思考のなかでツナは雲雀にお菓子を差し出す。
「はい。どうぞたべてください」
あまい雲の上を漂っているような、夢心地のなかで雲雀に向かってそう言うと、雲雀はお菓子の箱ではなく、ツナの手首をぐいと引っ張ってきた。
その衝撃で手の中のお菓子がポロリと落ちて転がり、ツナのからだにあたってお菓子の箱も床に落下してしまう。
大事なお菓子。
雲雀が欲しがった、大事なお菓子が落ちてしまった。
ダメ。そう思い、ツナは落ちて転がるお菓子を目で追う。
作品名:Love Shock(前編) 作家名:浅田リン