満月の夜の恐竜機械
3
ライノックスが、ダイノボットの額の傷を、目立たない色の傷用テープで覆った。
「さ、終わったんダナ。外出のことは、明日のミーティングで話してみよう」
「よせよ」
ダイノボットは椅子を蹴って立ち上がった。
「こんなことはもう起こらねえ。二度とな。これからは奴らの方に必要だろうよ」
軽くライノックスを威嚇する。
「治療か、棺桶がな」
だが、ライノックスはダイノボットの視線を真面目な表情で受け止めた。
「この場所は知られていないって言ってたけど、時間の問題だよ。キミだけじゃない、これから誰にでも起こりうることだ。対策は必要なんダナ」
「テメエ等は好きにしろよ? だが、金魚のフンみてえにぞろぞろくっついて歩くなんざ、俺ァゴメンだぜ」
こんな発想だからこいつらは……と、ダイノボットは、内心舌打ちした。メガトロンと命のやり取りも辞さない現場にいる割に、ここの連中には、妙に受け身でのんびりした雰囲気があるのだ。殺らなければ殺られる。その緊張感を持たねば、戦場を生き抜くことなど出来はしない。スコルポスごときに奇襲を許してしまったのは、いつの間にか今の仲間の雰囲気に慣れ、無意識に警戒が薄れた結果だとダイノボットは分析していた。
(……俺としたことが、どうにもしまらねえハナシよ。だが、同じ失敗は無いぜ、メガトロン)
ダイノボットは静かに殺気を養い……そして、額のテープ軽くに触れた。
「……手当ての礼は一応言っておく。ありがとよ」
「ダイノボット」
片付けていた応急キットを脇にどけて、ライノックスは言葉を接いだ。
「……何か作ってあげるよ?」
「……なんだって?」
思わず間抜けな声が出た。部屋から出て行こうとしていたダイノボットは、足を止めて振り返った。
「何のことだ、ライノックス」
ライノックスは壁に掛けてある、専用の前掛けをもう付けていた。
「冷蔵庫の中を見ようとしてたでしょ?お腹すいてるんじゃない?」
「ああ……そりゃあ、あの」
「少しボリュームがある方がいいかな。それとも、キミには珍しいけど、酒のつまみかい?」
ライノックスの視線が、さっきまで消毒薬代わりだった、ウォッカの瓶を捕らえる。
「いいんだライノックス、違うんだ」
ダイノボットは、急に嫌な汗が流れるのを感じた。見られたのは失態だった。今日はツイていない。
「遠慮することないんダナ。僕も息抜きに来たんだ、いい気分転換だよ」
「腹は減ってねえ、その、なんだ……」
こんな時に限って、上手いごまかしも浮かばない。
月だった。傷をウォッカで洗い流したたあと、空に輝く満ちた月をふと見上げ、突然、あの匂いと味を思い出したのだ。
「……昨日テメエが作った菓子が、まだ残ってた、ろ……?あの……丸くて黄色い……アレだ」
今、煙草よりも酒よりも、香料の効いた甘い菓子を食べたがっている……このことこそ、今日起きた出来事の中で、ダイノボットが最も認めたくない事実であった。