二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

満月の夜の恐竜機械

INDEX|4ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

4



「ああ、リンゴのタルトかい?だったら、夕方、チータスが全部片付けちゃったんダナ。でも、ウン、そうだな……少しだけ待ってて」
 ライノックスは平静を装って話かけながら、頭をフル回転させた。調理場に入ると、ほとんど迷うことなく冷蔵庫からバターを取り出し、山型パン、リンゴ、レモンと準備する。
 ダイノボットの常ならぬ行動の理由は分かった。そして、ライノックスは嬉しかったのだ。普段はほとんど甘味を必要としないダイノボットが、今宵、自分の作った味を思い出してくれたことに。
「おいおい、わざわざ作るこたァねえよ」
「いいんだ。同じものじゃないけどね、すぐ出来るよ」
 手早くコーヒーメーカーをセットする。本当はゆっくりと自分の手で落としたいところだが、今回は時間を優先させる。
「食べるでしょ?」
 ダイノボットは一刻、微妙な顔をした。冷蔵庫の前でみせた表情と同じだ。だが直後、大袈裟にため息をついてみせた。
「……今更、格好つけてもしょーがねーよなァ」
 そう言って、再び椅子に座り直す。ライノックスは、顔を見られないように後ろを向いて、微笑った。
 ライノックスはリンゴの皮を剥いてイチョウ切りにすると、小鍋に入れ、砂糖とレモン汁をまぶした。
 オーブンに火を入れ、山型パンを一枚は薄めに、もう一枚はやや厚くスライスして、たっぷりとバターを塗る。
 砂糖が馴染んだ頃合いを計って、小鍋を火にかけ、軽くカラメル状になるまで火を通す。仕上げにバターとブランデーを落とし、シナモンを振る。スライスしたパンの上にこの煮リンゴを平らに乗せ、温まったオーブンに放り込んだ。
 本格的な火力のオーブンが、低く唸って仕事を始める。コーヒーメーカーから不規則に、水の動く音が響いている。音の上に、甘酸っぱさと香ばしさの絡み合う魅惑的な匂いが重なり、すぐに深夜の食堂を支配し始めた。
「誰かが嗅ぎ付けてきそうだな……」
 する事も無くライノックスの手つきを目で追っていたダイノボットが、ふと呟いた。そして、いきなり顔をしかめる。「やたら鼻の利く奴もいるしよ」
(ははあ)
 ライノックスはダイノボットの言わんとするところを察した。
「ラットルには一日中、防衛プログラムのチェックをやってもらっていたんダナ。きっとクタクタになって寝てるはずだけど……どうかな?」
 普段だったら飛び入りも大歓迎だけど、今夜だけは……と、ライノックスも考える。今日のダイノボットは、どこかいつもと様子が違っていた。菓子のことが口に上ってからは特にだ。変化の兆しか、付け慣れた戦士の仮面がずれて中から素顔が覗きかけているのか、それは、分からない。だが、もう少し見ていたかった。新しく誰かが来れば、彼は再びニヒルな戦士の顔に戻ってしまうだろう。もう二度とチャンスは訪れないかもしれない。
 ライノックスが皿を並べながら思いを巡らせているところに、オーブンが古風なベル音を鳴らして、トーストの焼き上がりを知らせた。

作品名:満月の夜の恐竜機械 作家名:スガ