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ワルプルギスの夜を越え  5・誅罰の時

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計算された陣形の中心で刀を振るって舞う

「聖処女たる私に触れようなどと、汚らわしい魔女の眷属め!!」

輪舞曲の騎士は魔物の赤い口を横一線に抉り、黒い羽根を引き裂き、一本足をなぎ払う
海の波のように何度も押し寄せた使い魔達はあっけなく斬られ、藁くずのような屍を憤死の星屑と散らし姿を消していく
一刀の下に消える使い魔だが、イルザの疲労は額に現れていた
真ん中で分けた黒髪の奥に見える白い額に汗が浮かぶ………圧倒的に多い数に

「きりがないわ………」

何度もの襲来を方開けでこなしたイルザは中央に戻ると手を平に、刀を滑らすように水平にして一回転、体をクルリと舞わした
一斉に倒れる盾は、紋章の頭をイルザの側に、尖った先を羽根達に向けて勢いよく回転した
並べられた円形にそって凄まじい早さで回る盾に、使い魔の体はボロぞうきんを鉈で裂くように細切れの物体に変えていく。
ぶつかり合う激しい音の中からイルザはヨハンナのいる場所に飛んで帰った

激戦の場を大口をポカンと開け放ったままのヨハンナの頭と口を押さえると素早く身を隠す
下では回っていた盾が消え、使い魔達は四分五分に散り散りになったまま残った者達が顎をうごかし敵対者をさがしていたが、上を向く者のはいなかった

慎重に、縁から使い魔を見ていたイルザは、自分の手の中で震えているヨハンナに

「静かにして………あれはまだ私達が見えているわけではないの………あれは私達の声を追っているの」

きつく尖った目が、余計な声を出すなと気迫を伝えると口から手をどけた
ヨハンナは混乱していたが、手をきつく合わせて信心によって自分を保たせると、小さな声で聞いた。何もかもが初めて見る物で話をしていないと不安を払えない
下がった眉のまま、追跡を止め下に動く黒い影、グラス細工を運ぶ獣を見て

「あれが魔女なんですか?何か羽織っているんですか?」

震える唇で聞く
あまりに人の形を外れた獣の姿、日頃聞かされている魔女の形とは違い過ぎているし、人ではないものを羽織っている悪魔の儀式にも見えた
下に群れる赤い口に戦きながら身をすくめるヨハンナの問いに、イルザの目は何かを探すように忙しく動かしたまま答えなかったが、代わりに答えた者がいた
軽く、抑揚を押さえた声は頭に響いていた

「あれは使い魔、魔女はまだ産まれてないよ」

目の前に降りた白い物体
思わず叫び声を上げそうになったヨハンナの口を引っぱたくようにイルザが強く押さえた
顔には怒りにちかいもの、額に走る亀裂を浮かばせ勢いはあるが声は聞こえない
白い狐とも狸ともつかぬ生き物に向かって発せられた言葉はヨハンナの頭の中にもう一度大きく響いた

「キュゥべえ!!何処に行っていたの」

片手で強く押さえられたままイルザと相手を目だけで追うヨハンナ
キュゥべえと呼ばれた真っ白な生き物は大きな同色の白い尾を振って軽い足取りを着地させると小首を傾げてみせる

「イルザ、君と同じだよ。お嬢様の宝石(Schmuckシュムック)を追っていたのさ」

真ん丸、工房で焼かれて初めて窯から出されたグラスのような赤い眼を持つ彼は、反対側に小さく首を傾げ
自分の姿に驚き、さらにイルザに押さえ込まれたままで身動きも敵わないヨハンナに挨拶をした

「初めましてヨハンナ、ぼくの名前はキュゥべえ」

周りの状況に揺れない声でしっかりとした挨拶をした

「キュゥべえ………はい、頭に………」
「そう君の頭に話しかけてるよ。声を出すと………あれに気が付かれるからね」

目の前に座ったキュゥべえは、下を歩く黒い使徒の行軍に注意と耳を動かす

「安心して僕は下のヤツらとは違うから」
動物特有の親愛の情を見せて尻尾をふる
「キュゥべえさん、ここは教会です。貴方はマリア様の使徒なの?」
隠れた壁にもたれる、というよりまだキュゥべえの存在をどう見ていいのか解らないヨハンナは自然と距離をもちながら頭で聞く

「マリア様の使徒ではないよ下のヤツは。あれは魔女眷属だから。僕はあれとは違う。君の友達だよ」

抑揚の弾みが薄い声は、それでも子供が会話をするように少し高めの音で答える
相手が小さく子供のような声である事でヨハンナは少し心を落ち着けたが、逆に落ち着かない声を響かせたのはイルザだった

「キュゥべえ、アニムス・ゲンマ(ソウルジェム)*3は………やっぱり無くなっていたわ。もうお嬢様も姉様も助けられないわ」

ヨハンナが耳を疑う程、驚くほどに湿った声だった
今、ここで荒々しく戦っていた姿とはかけ離れ過ぎた声
貴族に従う侍女であり、騎士の娘という姿をしっかりと見せていたイルザからは考えられないような涙声で

「ここまでやってきたのに………この上、魔女だなんて………」

逆に表情の変わらないキュゥべえは、態度でそれを見せる。頭をうなだれ悲しみを表して

「残念だよ。本当に………イルザ、それで今はどうするの?ここから逃げるの、それとも魔女の卵を探すの?」
「魔女の卵?まだ産まれてないのよね………」
「そうだよ、この魔女はまだ孵化してない。それこそ今、魔女を誕生させるために使い魔達が忙しく働いている」

二人の会話を聞くヨハンナ
「魔女が誕生するのですか?赤ちゃん………なんですか?」
解る部分で話に加わろうとしたが、イルザはそれを遮った
いちいち説明などしていられない、余裕を欠いた態度でキュゥべえに詰め寄る

「あれは前に見た事があるわ、あれは………強い魔女になる。そう鏡の魔女に、とても私一人では戦えない」
一気に言うと、キュゥべえを正面にしたまま一瞬ヨハンナの顔を見る

「キュゥべえ、魔女は後どのくらいで産まれるの?」
厳しい表情が、キュゥべえを見つめる
長い耳を持つ紅眼のキュゥべえは何度か首を傾げて

「長く見積もっても後3日だね。使い魔達が誕生のために活発に動いている、それも数を増やして、強い魔女というのならばなおさらに」

目の玉の動きさえ理解しかねる表情は淡々と告げる

「今探し出して、潰してしまうのはどうだろう?」
「それは無理よ、使い魔達が活発なのは魔女のためでしょ。今でさえ数が多すぎて倒しきれないのに、魔女の誕生までまだ増えるのよ。そんな中から魔女の卵を探しだすなんて………それに、私は………」
イルザの苦い顔をヨハンナは不安のまま見つめていた

「でも、産まれる時を止めることはできないよ」

キュゥべえは淡々と話し合う
ヨハンナは、その間で揺れる尻尾を見て、イルザの苦しそうな表情を見て自分の知っている事が何もない事に焦りながら、胸を押さえるイルザを気遣った

「大丈夫ですか?お怪我………なさってますか?」

口をきつく結んだイルザはヨハンナの顔をもう一度見た。何か言い出そうとする口は何度目かの息を呑み、押し黙ったまま首を振った

「アルマに手伝ってもらおうよ、この地の聖処女に助力を得るのが一番だよ」

考えに深く顔を沈めていたイルザにキュゥべえは言った

「独りで無理ならばそうするがいいと思うよ。近隣随一の聖処女だし」
「キュゥべえ!!」

頭に響く会話のトーンが高くなり、同時にイルザはキュゥべえの顔を睨む
同じく響いた声に驚いたヨハンナだったが