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ワルプルギスの夜を越え  5・誅罰の時

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リーリエはナナ以前の羊飼いだった。アルマに求められていた羊番を彼女が請け負い助けた
冬は夜が早いため外を歩けないアルマに変わって多くの仕事をした
外仕事の多い身だったが、町に帰れば必ずアルマと行動を共にし、自分を心配する者に外の話をして和ませた。
陽気でおしゃべりで、悪戯好きのリーリエ

「リーリエが居てくれて私はすごく助かってた。でもリーリエがいたせいで私は色が知りたくなった。春の小川や碧い水、山にかかる雪の白さ、森を彩る緑と赤白黄色色々な花。他の人に見える色が私も欲しかった。だから願ったの、私の目にも色が見えるようにしてくださいって。そしてその願いを糧に私は町を守る聖処女になったのに」

土産話の中にある色を心に思い浮かべていた日々、その願いを叶えた経緯に
ナナは自分の前髪を押さえながら小さく頷いた

「そう…そうだったんだ」
「初めて町の色を知った時は泣いたわ、うれしくて。町はこんなに綺麗だったんだって………だから町に暗闇を連れて来る魔女を許さない。町を守る理由はそれだけでも十分だけど、この職務を得て、魔女の悪行を狩る事で町が平穏になり羊小屋のみんなも平穏に暮らしていける事を知った。だから私はマリア様に選ばれた事を誇りに思っているわ」」

強い家長の発言にナナは苦笑いを、口元だけを卑屈に曲げて見せると声を出して笑った

「アハハハ、すごいやアルマ、私は願いが叶ったとしてもそんな事まで出来ないな。自分の事だけで頭の中がいっぱいになっちゃう。人の事なんてどうでもよくなっちゃうよ」

輝ける存在であるアルマの前からナナは身を引いていた
遠すぎる、願いに準じてそこまで町をまもるなんてできない、その思いを素直に零した

「私はさ、ずっと虐められてきて…今でもやっとで生きてるのに…私のような卑しい者に奇跡があれば、町の人はこぞって酷い事をしにくるよ。それで私は頭にきて…魔女より町の人を滅ぼすよ」

両手で火打ち石を握った細い肩が震えている
不幸比べはしない羊小屋の仲間達。でも口を開いて言えばみんなそれぞれに辛い生い立ちを持っている
その中でもナナは格別の侮蔑と迫害の中で生きてきた
もし誕生の時に付けられた欠損を願いで消すことが出来たとしても…良い事などないと思い詰めた言葉にアルマは目を細めた

「正直な話、羊小屋の仲間は大切だけど…後の人なんてどうだっていいんだ。私が町にいる事を災いだなんて言うんだよ。そんな人達が魔女に食われようが…滅びようが、それこそマリア様に祈って助けを乞えばいいじゃないかって…。マリア様の力を頂いても……とてもアルマみたいにはなれないよ、私を聖処女にしようなんて大きな過ちだよ」

卑下の笑みは苦しそうに俯くと

「よかった。願い事一つでそんな大仕事はこなせないって事がわかって…………ごめん最低で…」

言うだけ言ったが、現実として職務を果たすアルマには悪いという思いを持っている
首を何度も振る
アルマは正しい、選ばれた者だと小さな声で伝えるナナを優しい手は抱き寄せた

「貴女は最低なんかじゃない。仲間を大切だと想ってくれるから外の仕事をしてくれるんでしょ」

引き寄せて、逃げようとする心を押し込めたナナを抱きしめる

「外の仕事は危険がいっぱい、町の中で働くよりずっと大変な事だわ。それをしてくれる、教会の羊に休息を与え安全に預かってくれてる。ナナがそうしてくれるから町の人達はエラやシグリと良い関係を持てる。ヨハンナが教会の中の仕事をして、ロミーが小屋の中の仕事をして、みんなが安全に働ける。それだけでも町の暮らしを良くしているのよ。だからこそ聖処女になって欲しかったと本気で思ったのよ」

息を止めて、心にある言葉をしっかりと伝える間を取ると

「ナナ、貴女のしてくれる事で私達は平穏を頂けるのよ」
「私のする事で?」
「そう、貴女がしてくれる事が私達を、ううん、町を助けているのよ」

信じられない言葉だった
でも相手が尊敬する姉、我が家の家長でもあるアルマの言葉には重さがあった
重くて……暖かい気持ちを感じられた

「私が……いてもいいのかな?」

疎まれ続けた自分が、町に居てもいいのかと
ナナの気持ちは揺れて、それでも確実に仲間と共に居たいという思いに溢れた

「私……」
「……お出ましね」

二人が絆を確かめ合ったのを待っていたかのように強いく濃い闇を纏った風が吹き荒れた
渦巻く木立の姿はムチのようにしなり
刃物のように鋭い音を響かせた風は一気に二人との距離を縮めた
向かい風なのに、強く引っ張られる力
ナナを抱きしめていた手は、光を握りしめて立ち上がった

「ここにいて……魔女を討ち滅ぼすわ!!」

怪異にして尊大なる魔女の間に二人は一気に引き寄せられ、その恐るべき醜い姿を見た
うねり曲がった木の枝を髪のようにした円形の物体
人間の頭だけがそこに存在する形には、醜い姿を隠す為なのか対照的な程に美しい花が枝の隙間を縫うように咲いている
正面の大きく凹んだ二カ所に目はなく、暗く渦巻く空洞が見えるのみ

「醜いわね……魔女は得てして醜い。そして許し難い」

火打ち石を両手に構えながらも震え腰が退けているナナの前を、両袖につく光りの弾から刃を現して進む

「さあ、誅罰の時よ。町に闇を連れて来る者を私は許さない!!」

ナナを後ろに下がらせたアルマは真っ直ぐに走る、足下に煙りを巻き上げる早さで魔女の顔面とおぼしき部分を蹴り上げた
朽ち木に覆われた顔面の顎に相当する箇所は破砕され、唇の奥に黒く尖った歯のような立木が見える

「その口で人を食うなど!!」

魔女の前で蹴りから一回転、スカートの花びらは舞う
両手の袖口に付く光の石から、輝きの刃が幾重もの礫となって飛び出し枯木に飾られた毒気の強い色の花が次々散らされていく
散る花に対して魔女は声をあげた
声としか現しようがないのだが、口にみえる立木の歯をガタガタと揺らして、暴風のごとき濁り軋む音を鳴らす
枝に残る葉を落とすが、直後にそれは風を斬って雨間を目指す
アルマの光の飛礫と同じく、飛来する刃となって

腹の底を叩くように響く音の中、アルマと魔女は互いのテリトリーを切り崩しぶつかり合った
障害となる枝をチーズを切るように削り取る光の刃
飛礫となり葉を落とす攻防
凛々しい背中をナナは自分に飛ぶ、葉っぱの欠片を祓いながら見ていた
美しい円弧の足裁き、アルマの攻撃は芸術だった
まるで都会のカリオン塔にある、歯車の踊り人形*6のよう。魔女の攻撃をヒラリと回転してかわして、魔女を形作る朽ち木を切り取り、えぐり破砕していく
人の頭部をもした禍々しい黒い朽ち木は激しい攻撃に形を維持できなくなっていた

「すごい!!」

ナナは羊飼いの杖で飛ぶ葉を落としながら目を輝かせていが、魔女の顔面の中、目に相当する窪みに赤い何かを見つけた

「アルマ!!何かあるよ!!穴の中に」

杖を傾け窪みを示す
大抵の魔女は何か一つの物を宝としている。人目から見てそれは宝物とは言い難いのが多いのだが
魔女を狂わせる最大の弱点でもあり、所滅を促すための必需品である事も多い