ワルプルギスの夜を越え 5・誅罰の時
アルマも長い戦いの経験から直感的にそれを潰す事が大切と考えていた。ナナの発見の声に合わせるように顔面の鼻をそぎ落とし足場を掛けると窪みに光の刃を向けた
「?!!」
後一歩踏み込めば魔女は消滅、いつものように霧散化するだろう景色へ流れるように連なった動きはそこで止まってしまった
穴の中を覗き、刃を構えたまま時間をとめたアルマは呆然としていた
いやナナの一から見ても解るほどに両肩が震えている
「アルマ!!!」
一瞬だった。一瞬穴の中の何かに意識を奪われたアルマの足を魔女の触手である枝が絡め取った
ロングブーツの足を締め上げるように絡めた枝を前に
「どう……」
アルマの口は半分開いたがそれ以上は声になっていなかった。苦痛を最大限に示す絶叫
短い停止だったが、魔女にとって十分な反撃の時になっていた
アルマの立っていた位置は近すぎた、絡められた足をほどこうとした腕
肘から先、光の石が付く袖口を引き裂くように腕ごと枝は絡み、そのまま真横に引っ張り抜かれ、アルマの体から両腕がもぎ取られていた
案山子のようになった体が魔女の起こす風に揺れる
枯れ木の山だった魔女の顔面、その口元におびただしい血が注ぎ、吸血の宴に狂う顔は大きく口を開いていた
「アルマ!!!!」
ナナの叫び、次に見えたアルマの姿に上半身はなかった
あの美しいスカートを持つウエストラインと、枝に絡め取られた足だけが生えていた
草のように
溢れた肉の塊は、ドロのように残された体を這い出し青色の衣装は真っ赤に染め変えられていた
「アルマ……アルマ……」
残されたナナはアルマの顔を探していた
あそこに揺れるのはアルマではないと思い込んでの行動だったが、名前を呼び近づこうとするナナの前で魔女は吠えた
吠えたというより洞窟化している空間を割るほど大きな絶叫?暴風を吹かせナナを吹き飛ばしていた
遠くなる惨状、ひたすらに手を伸ばすナナの前で終劇の幕は黒く下ろされてしまった
紫色の闇は晴れ、月の光が見えたときナナの耳に男達の声が遠くに聞こえた
口々に仲間を呼ぶ声に、同行の物達の何人かが魔女に狩られたのはわかったが、そんな事に気を遣ってはいられなかった
「アルマ……」
ナナは牧者の杖を投げ捨てて、目の前の草むらを這った
四つ足を着く動物のように懸命に、闇に隠されて倒れたアルマを見つけようと這いずり回り泥を被り蜘蛛の巣を食うように地べたを探し草むらの影にある指先に気が付いた
「アルマ!!」
冷たい指先を掴む
そしてその手の軽さに涙が溢れ、声を出して泣いた
アルマの手は、肘から先の部分しかなかった。もうどこにもアルマの体はなく、ただそれだけが残されていた
ナナは残された手を抱いて
「アルマ、返事して!!戻って来て!!!」
ドロに汚れた頬に涙の軌跡が幾重にも残った顔を月に向けて叫んだ
自分を助け、慰め、勇気をくれた優しいアルマの手が冷たく嗄れている事を恐れ
何度も指先を撫でた
この手が触れてくれた、与えてくれた愛情は魔女に千切られ砕かれ闇に消えてしまった事に震え地面に伏して泣き叫んだ
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戦闘は書くのが大変でした
とあるワルプルの無駄知識〜〜〜注釈コーナー
相変わらずダラダラ書いてますが、よかったら添え物的な感じで読んでくだんせー
*1 赤き剣がハの字を描く裁定者の紋章
有名な十字軍にでる盾のマークですが、地方や参加騎士団によって扱いがかなーり違う
イルザの盾のマークの基本は北方十字軍のもので、参加すれば貰えたマークwww貴族や騎士は家紋があるのでそれの袖に書き足す程度だけど、何もない傭兵上がりの騎士にとっては名誉の印でもある
「おれ、十字軍に参加してたんだぜー。おまえ何中?」ぐらいの博ツケにはなった
基本は剣がバッテン交差をしている赤字のもの、誰でも貰えるというのもあるためバージョンは多いが八の字の紋章は裁定者、つまり裁判官の剣技者というもので特別
要は死刑執行人のマーク
裁判は公正であるべきという形からハの字の剣は「天秤」を現していて、イルザの父が死刑執行人だったという事がわかるが、これはイルザの願いからきている
無職に近かった父を公職(当時の死刑執行人は、いわゆる国家公務員で地位はそれなりに高かった)につける。没落騎士の身から父を救うというのが彼女の願いだった為、具現化された盾にそのマークが付いているという事
*2 リッツシュヴェールト Richtschwert(斬首刀)
西洋の刀は色々な種類があり、用途の分別も多い
陸続きだから文化交流によってあたらしい形が作り出されたりと騒がしいw
この剣は切っ先がない、死刑執行人は相手の首を落とすのが仕事、なので相手を刺すという事はないだから切っ先はなく平打ちの剣に仕上がっている
特徴的にヘッドの方が若干重い
これは首を一刀で切るため重さが必要とされたから
さらに凶器であるにも関わらず、剣の中程に聖句(聖書の格言)やら処刑に対する裁判所のポリシーが書き込まれていたりする
どちらにしても人の首を刎ねるというのは気の重い仕事だった事だろうと思われるが、時代的に首切りをするものはそれなりの尊敬も得られたし、綺麗に切る人は死刑囚にも人気があった
逆に下手だと大衆から貶された(公開処刑が基本の時代ですから)
*3 アニムス・ゲンマ(ソウルジェム)
ソウルジェムのラテン語読み
たぶん少し意味合いが違うけど…まー許してwww
上の宝石についてはドイツ語だが、なぜこっちはラテン語かというとローマカトリックの公用語だから
バチカン市国の公用語で現在も使われている
古ラテン語はアルファベットの基礎体みたいだからけっこう簡単に学べる
何故ラテン語だったのかは
聖処女は教会を支配する神の力に依ると考えていたため(個人設定ですね、結局魔法少女といえなかった時代の話なので背景的な設定です)
魂の宝石は教会の公用語で現されたという事
*4 ファージンゲール
中世スカートを広げてた骨組みの事
あのぶわっと広がってるヤツです
内側に骨組みがあって腰回りから大きくまるーく広げるスカートの事
パニエとは違う
ゴスロリ流行った頃に…来るかファージンゲールなんて期待していた時が私にもありましたwww
流行っても着られる歳ではないがwww
アルマのつけているのは外側についているので正確にはファージンゲールとは言わないが比較対象になるものがなかったため便宜上そうした
*5 古史に出る祭司様が飾る胸の石
古イスラエルの神官達は胸に12コの宝石をつけて神に奉仕した
つけた石の種類は正確にはわかっていないが
これが誕生石の原型になったと言われている
何故そんなものを胸に付けたのかは…ちよっと憶えてない、勉強不足ですねー
たぶんなんだけど、「それは恵みである」という地の宝(つぼみ)という意味から来ていたと思う
まあそれに感謝しなさいって事か
とにかく鮮やかで綺麗だっという事からカトリックの祭司達もやたらハデハデな上着を着ていたりする
作品名:ワルプルギスの夜を越え 5・誅罰の時 作家名:土屋揚羽