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生まれ変わってもきっと・・・(前編)

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アリスの髪を触り楽しそうに話す騎士とその腕の中に納まる彼女は、傍目から見れば仲の良い恋人以外の何ものにも見えないだろう。けれどアリスにとっては逃がさないと脅迫されているのと同じ。正直この執着が怖いとさえ思っている。

「ねえ、もう少し離れて。熱いの。」
「ふうん。脱いじゃえば?」

「~~~~~馬鹿?」

両手で思い切りエースの胸を押す。離れて離れないの押し問答の末言われた一言がアリスの動きを止めた。

「さっきまで俺の胸で泣いてたくせに、冷たいよ。」

エースの顔を見上げると彼も此方を見ていた。その顔に笑顔は無い。怒っているわけでもなく、どちらかといえば寂しそうに見えた。突っ張っていた腕の力が弱くなる。言われてみれば確かにそれはその通りだと思う。なんだか自分がとてもエースに悪い事をしているように感じて視線を落とす。その様子に満足そうな笑みを一瞬浮かべた騎士は、アリスと自分の額を着けると言葉を続ける。

「自分一人だけ元気になっちゃってさ。俺のことも慰めてよ。」

「貴方に慰めなんて・・・」
「俺だって傷心なんだぜ。」

もしかして自分が今抱えている苦しみと同じものをこの騎士も心の中に抱えていたのだろうか。気持ちを受け入れて貰えないという位置にいるのは一緒だ。そう考えると自分の気持ちと重なる。アリスは二種類の意味でごめんねと言いながら騎士の背中に腕を回した。

「ずっと側に居てよ。それだけでいいから。」

直ぐに返事が出来ない。嘘は吐けないから。それにこの世界にずっと居るつもりは無いと今のエースに言うのは怖い。彼の意に沿わない返答がどんな結果を引き起こすか見えない。ゲームの終わりを待つ身としては、速く時が経てば良いとすら思っている。思っていた筈だ。最近ちょっと自信が無い。もう少し楽しんでも良いかなと思うことが増えてきた。それでも帰るという選択は変わらないだろう。ずっと此処にはいられない・・・
エースの腕が背中に回される。そのままゆっくりと後ろに細い身体を押し倒す。金の髪が地面に広がった。

「側に居てくれるよね?」

とても優しい声で耳元に囁く。それは嫌とは言わせないと脅す様に聞こえた。答えてよと言いながら耳を甘噛みされる。思わず漏れる声。何度も答えてよと言いながら何も答えられないように追い込んでいく。首筋を這う舌に背筋が収縮して声帯が甘い声を搾り出す。身体中の力が抜けて溶けていくような快感を覚えた。無防備になった唇を割って入ってきたエースを受け入れる。アリスは腕をエースの首に回し引き寄せた。幾度も重ねる唇。絡む舌。誰にも渡さないと言いながら首筋に歯を立てる騎士の言葉に陶酔する。いつの間に手袋を外したのか、スカートの中に素手で這い上がる湿り気を帯びた大きな手。指先から手の平全体で適度に皮膚に圧力を加えながら撫でまわし少しづつ脚を押し開いてゆく。びくんと反応してアリスは我に返る。

「エース、エース!エースっ!!」

それは戯れに酔って呼ぶ声ではなく冷静に冴えた頭が出す声。赤い瞳がアリスの瞳を射る。我が目を疑った。まるで空腹の肉食獣に組み敷かれている餌になったような錯覚を起こさせる目に。

―― 本気だ

本能の食欲のままに肉を喰らう獣。そんな光を双眸に宿す男に身の危険を感じて、慌てて相手を現実に引き戻すべく必死になる。

「これ以上は駄目。お願いだからやめて。」

その声を聞きながらエースは喉笛辺りに歯を立てる。獲物の息の根を止める狩りの勝者のように。

★3. 心配と決心

ユリウスは黙々と時計の修理作業を続けていた。その部品を取り扱う手付きも表情も普段と何も変わらない。部屋に入ってきたのが誰か勿論気付いている筈だが顔も上げない。これもよくある事だ。よしんば顔を上げたとして、その視界に入る机を挟んで向こう側に並ぶ二人の片割れが泣き腫らした目をしていても、もう一方の顔に引っ掻き傷があっても何も尋ねはしないだろう。見なかったことにして作業に戻る確率が高い。
だが今回は無関心なわけではない証拠に、作業の音しかしない部屋の空気がビリビリと強烈に痛い。不用意な発言が多々あるエースですら口を開くことを躊躇う。当たり前だがユリウスは不機嫌だった。もしも怒りの度合いを調べる計測器があったなら、軽く針が振り切れるくらいには。
二人はユリウスから言葉を引き出すことも、言葉を掛けることも諦めてキッチンへ引き下がる。
アリスはコーヒーを淹れながら、隣に立つエースの足を思いっきり踏んだ。痛っと言いながら此方を見るエースは全く堪えていないのが丸判りの、良い笑顔を向けてくる。その両頬に引っ掻き傷が残っていた。既に半分直りかけだ。

「アリス、どうせ爪を立てるなら背中にしてほしかったな。」

小声で飛び出すセクハラ発言に、熱いケトルを近づけてかけるわよと脅す。騎士は驚く振りをして少し離れた。その赤いコートの襟元を掴むと、いつの間に来たのかユリウスは黙ってエースをアリスから引き離す。そのまま文句を言う騎士を作業部屋の外まで連れて行くと、仕事をして来いと一言言ってドアを閉め鍵を掛けた。ひとしきりドアの前で文句を言っていたエースは諦めたのか静かになる。
アリスが淹れ立てのコーヒーを机の上に置くと、作業に戻ったユリウスが眼鏡越しに睨んでくる。

「お前、あいつに良からぬ事をされたんじゃないだろうな。」
「ええっ!? 大丈夫、大丈夫だから。心配掛けてごめんなさい。」

「誤解するな、心配などしていない。」

ふん、と手元に視線を戻しながら怒り口調で更に続ける。あいつは駄目だ。あんな面倒な奴、お前には手に負えんぞ。
それは心配してくれているのでは?と思ったが黙って聞いておく。
少ない言葉に優しくもない話し方。でも何故だか温かさが伝わってくる。心配が転じて怒りとなる。無関心で興味の無い対象に怒りは湧かない。父は妻を失って以来家族に無関心だったから良く判る。自分達子供のことは義務で養育していただけなのだと今でも思っている。感情の交流も何も無い寂しい親子関係だった。

「あのね、遠慮してたから嫌な事を嫌だって言えなかったの。私はユリウスとエースの居る場所に後から来たわけだし、雰囲気悪くなると嫌だなって思ってた。でもこれからははっきり嫌だって言うわ。」

「当たり前だ。遠慮なんかするな。あの男は甘い顔をすると何処までも付け込んで来るぞ。お前はあの図々しさを見習うべきだな。」

流石にエースの事を良く解っている。全くその通りだ。普通の感覚でならきつく言い過ぎたかなくらいで丁度良いのかも知れない。押し倒された時に最後には形振り構わず泣き喚き、エースの顔に爪を立てた。それくらいはっきり否と言わなければいけない相手なのだ。そこまで言っても暫くすれば先刻のセクハラ発言だ。エースの神経の束はどのくらい太いのかと思う。
彼は自分の想いを伝えることに抵抗が無いタイプの行動派で、しかも独占欲が強い。尚且つあっさり諦めるタイプでもなさそうだ。そういう男に好意を持たれたアリスは、ある意味かなりな厄介事を背負い込んだと言ってもいいかもしれない。