二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

生まれ変わってもきっと・・・(前編)

INDEX|5ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

ユリウスは後悔していた。アリスとエースの仲に気付かなかったわけではない。ただどう介入して良いのかタイミングが計れなかっただけなのだ。エースの性格は熟知しているつもりだが、アリスの本心が読めない以上どう係わって良いのか判断に困っていた。その結果彼女を、暴走すれば手のつけられないエース相手に今回のような危険に晒してしまったのだ。このことではっきりしたのは、アリスがこの世界に居る間は護ってやらなければならないという自分の気持ちだ。
空になったカップを持ちキッチンへ向かうアリスの後ろ姿を見ながら、例え友人であり部下であるエースでもこの件だけは譲れないと思った。
とにかく、アリスは当分一人で外出も留守番も禁止だなと、ユリウスは既に勝手に決めている。エースに切られた髪を直すのは自分が美容室まで付き添って行くとして、仕事で留守にする時はゴーランドに預けるか・・・

「ユリウス、どうしたの?」

気付けばアリスが目の前で不審そうに此方を見ている。何だ!と言いながらアリスの視線を追って自分の手元を見ると、カップの中にドライバーを入れ掻き混ぜていた。慌ててカップを机の上に置く。何たる失態。

「お、お前はそっちの時計を分解して仕分けしていろ!」

怒鳴ったユリウスは遣り掛けの時計の修理に戻っていた。だが手元が震えている。アリスは、はあいと返事をしてユリウスに背を向けたが、その肩と背中が笑いを堪えて震えていた。


★4. 中間管理職の憂鬱

エリオットはブラッドの部屋の赤いソファに座りながら、チラチラと上司の顔色を窺う。ブラッドはいつも通りに執務机に向かい書類に目を通しているだけだ。此処のところ仕事が立て込んで忙しかったからだろうが、一見普通に見えるこの男、機嫌がすこぶる悪い。書類のミスの指摘が細部にまでやたらと厳しいのだ。
おまけに門番の二人が反抗期だからなのか、最近やたらと絡んでくる。口では済まずに最終的に斧と銃で戦いになるのだが、一寸前までなら引き下がっていたところでも食い付いて来て離れない。此れの相手もかなり疲れる。


「はぁ~。ホッとするぜ~。」

ソファに座るや否やエリオットは背もたれに寄り掛かりリラックスしていた。長い耳がだらんと垂れて黄色い髪と一緒に即頭部の方へ流れている。本当に心身ともに力が抜けているらしい。

「おい! お前、何しに来てんだよ。領土交渉じゃねえのか? ホッとするってなんだよ。此処は敵地だぞ?わかってるのか、おいこら!」

ローテーブルの向かいに座るゴーランドが、力の抜けたエリオットの態度が人を馬鹿にしていると思ったらしく声を尖らせる。

「あ~、すまねえ。あんたんとこって居心地最高だなって思ってよ。」

「あ? そりゃま遊園地だしな、居心地良いって言ってもらえるのは嬉しいんだけどよ。お前に言われると微妙だな。おい。」

エリオットのリラックス具合に褒め言葉も満更嘘ではなさそうだと思ったのだろう、ゴーランドは先刻より声を和らげる。それほど傍目から見てもエリオットはリラックスしていた。だが侯爵の顔は苦笑いだ。今から商談をする相手にそこまで気を許すマフィアのナンバー2の言動を何処まで信用していいものか。これは作戦か?と訝る。まあ自分が知る限りにおいて、目の前の男はそんな手を使っては来ないかと思い直した。直情型のウサギだからな。
そんなゴーランドの胸の内も知らずエリオットは話し続ける。

「本っ当、中間管理職って疲れるよな~」

「・・・お前、此処で言うのかそれを。」

「だってよ~酷いんだぜ・・」

エリオットが話し続けようと身を乗り出しかけた時、此処を開けてとドアの外から声がした。ゴーランドが立ち上がり開けた扉からアリスが入ってくる。

「いらっしゃい、エリオット。」

運んで来たトレイの上には紅茶が入ったポットとカップと人参スティックと数種類の焼き菓子が載っていた。アリスがテーブルの上に置こうとした時、重さで腕が震える。食器の音がかちかちと鳴った。
ほら、持ってやるよ。そう言いながらエリオットは軽々とトレイをアリスの手から奪いテーブルの上に置いた。

「ありがとう。・・・・・・何?何よ、エリオット?」
「あれ、アリスなんで此処に居るんだ?・・・つーか、なんかいつもと違くね?」

アリスの滞在先は、エリオットの殺してやりたい奴ナンバーワンの時計屋のところだ。遊園地のアトラクションではなくこんな所で会うとは思ってもみなかった。しかし引っかかっているのは其処ではない。彼女の何かがいつもと違うのだ。気になってジロジロ見るが判らない。う~ん。と顎に手を当てて唸る大きなウサギにゴーランドが笑う。

「お前、本当に交渉しに来たのかよ。今日はどうかしてるぞ。」

「髪が短くなったのよ。ほら。」

アリスは後ろを向いて肩の少し下までになったのを見せる。これでも少し伸びたのだ。ユリウスに付き添われて行った美容室で整えてもらった時には、肩辺りで切り揃えてもらったのだった。二、三十時間帯ほどで十センチ以上は伸びている。この髪の長さにも慣れてきた。これはこれで良いかもと思っている。

「へえ~何でここまで思いきって切ったんだ?」
「まあ気分転換、かな。」

アリスは首を傾げながらぽつりと言った。エリオットは目の前に出された人参スティックをボリボリかじりながらアリスの顔をじっと見ている。

「なぁ、此処の話し終わったらうちに遊びに来ねえか?」

アリスはゴーランドの顔を見る。ゴーランドは両手の平を上に向け肩を竦めた。アリスは暫く考えて行くわと返事をする。
例の騒ぎ以来帽子屋屋敷には行っていない。昼寝の邪魔をして機嫌の悪かったブラッドにも謝りたいが、気になっているのはディーとダムの事だった。その後如何しているだろうかと気になっていたのだ。

「それじゃ終わったら声掛けてね。」

おう! 返事をして紅茶を一口飲むと、エリオットはゴーランドの方に向き直る。その目は先刻までのリラックスしたウサギのものではなかった。ゴーランドの表情にも既に気合が入っている。


★5. 帽子屋でお茶会

紅茶に口を付けながら、ブラッドはそれとなく二人の様子を見ていた。向かい側に座る自分の腹心エリオットと余所者のアリスのことを。
つい先日、この女はせっかくの昼寝を邪魔するほどの痴話喧嘩をハートの騎士とやらかしたばかりだ。しかもわざわざ屋敷の前で。あの時の騎士の気配はただ事ではなかった。面倒な事になりそうで、余り係わりたくないと瞬時に思わせるほどに異常な殺気を放っていたのだ。
ハートの騎士といえば、病的な方向音痴でこの世界では有名だ。天然か意図的か、爽やかで明るいという仮面を被り感情を読ませないが故に戦い辛く、且つ敵ながら非常に剣の腕が立つと認めざるを得ない厄介な男と理解している。そんな彼が女一人に殺気を放つ揉め事とは何が有ったのだろうかと興味が無いことも無かったが、まあ人の色恋沙汰に首を突っ込むほど我が身は暇でもない。勝手に余所でやってくれと直ぐにその場を引き上げた。
それがいつの間にか、我が腹心と昼寝を一緒に貪るほどに仲良くなっていたとは驚きだ。