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生まれ変わってもきっと・・・(前編)

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余所者とは好かれる存在だと知ってはいたが、この女、見かけによらず男の扱いにおいては余程の手だれなのかと勘繰る。その一見、恋愛にはまだ早いと油断させる外見も手の内か。それならそれで希少価値の高い余所者とやらを此方も楽しませて貰おうかという気にもなる。最近は仕事に時間を取られ過ぎて潤いのある生活とは無縁だった。ここで一息吐くのも悪くない。
初めて会った時に人の顔を意味ありげに凝視していたが、あれも気になっていたところだ。私に興味があるのなら話は早い。此方から餌を撒いて、近寄ってくるのを眺めるのも悪くない。適当なところで食って、飽きたら捨てるか殺すか。どちらにしろ一時的には退屈凌ぎになりそうだと思う。

「・・・・・だろ、ブラッド?」
「? すまない。ちょっと考え事をしていた。何の話かな?」

エリオットは、また仕事のことでも考えてたのかよと言いながら、もう一度聞きそびれた会話を繰り返す。アリスが時間を持て余していることと本好きなことを。ブラッドは本好きだからきっとアリスの読みたい本もあるのではないかという事だった。
これは彼女に自然に接近するには願っても無いチャンスだ。

「本、か・・お嬢さんの好きなジャンルと被っていると良いんだがね。一度、私の部屋に見に来るかい?」

「良いの?此方に来て余り本に接する機会が無かったから嬉しい。」

此方の申し出に素直に可愛らしく喜んでみせる様を見て、ふむ、敵もなかなか上手く近づいてくるじゃないかと内心哂いつつ、表面では紳士を演じる。それでは茶会が終わったら部屋へご招待しようということになった。
それにしてもだ、エリオットも上司の女癖を知らぬわけでもあるまいし、自分のお気に入りの女を一人、主の部屋へ寄越すとは余程信頼されたものだと思う。それとも付いて来る気なのか。まあどちらでも良い。楽しみ方は幾らでもある。
ついフッと口元が綻ぶ。久々に面白いことになりそうだ。視線を感じて顔を上げると余所者の女、アリスと目が合った。自分より随分と年下に見えるこの少女が、マフィアのボス相手に今その胸の内でどんな計略を練っているのか、またそうと知りつつ自分がそれにどう乗るか考えるだけでかなり楽しい気分になってきた。こういう遊びは悪くない。
エリオットがアリスの耳元に何か囁きかけた。それで何が可笑しいのか、上司の目の前で臆面も無く二人顔を見合わせ笑っている。
今までのエリオットの好みのタイプとは全く違うようだが、また随分と骨抜きにされているように見えた。騎士といい、恋とはこれ程に人を変えるものなのかと感心する。しかもかなり短期間でだ。仕事に支障が出るようなことにならなければいいがと思いながら、今日のゴーランドとの領土交渉の報告書を思い出す。今のところ我が部下は大丈夫そうだ。

「ひよこウサギ! 俺達のお姉さんに近づき過ぎだぞ。」
「そうだぞ馬鹿ウサギ! お姉さんは俺達に会いに来たんだぞ。席替われよ。」

ブラッドの隣に座っていたディーとダムが騒ぎ出す。
お前達・・・というブラッドの制止の声も届かず、双子達は立ち上がり、テーブルの反対側へ回り込んだ。文句を言うエリオットとアリスの間に無理矢理ダムが割り込む。反対側にはディーが陣取った。

「お姉さん、こんな馬鹿ウサギと仲良くしないでよ。」
「そうだよ、僕達がお姉さんと仲良くする時間が無くなっちゃうよ。」
「お前ら邪魔なんだよっ!」

エリオットは立ち上がりディーとダムの襟首を掴むと、同時に持ち上げた。ジタバタしながら罵詈雑言を叫ぶ二人を引きずり席を離れて行く。アリスが、エリオット乱暴しないでと声をかけるが聞こえていないのかどんどん行ってしまう。アリスも席を立つと追いかけようとした。

「放っておきなさい。いつもの事だよ、お嬢さん。」

向かいの席からだるそうな声が引き止める。声の主を見ると、意味有り気に口元に笑いを浮かべていた。


★6. 頼まれ事

「すまねえな、アリス。あんたなら何とかしてくれるんじゃないかって思ってよ。」

「もう、知らないわよ? 私は癒し系じゃ無いし・・・」

そう言うとアリスは言葉を切って俯いた。頭の中に浮かんだのは姉の顔。あの人ならきっと如何にか出来るんだろうなと思う。仕事に忙殺されてご機嫌斜めな上司の機嫌を直せって・・・なんて無茶な話なの。

「いやいや、あんたはいつものままで良いんだって。変に癒し系じゃ無い方が・・」
「それはそれで何だか傷付くわね。」

そもそもエリオットがこの話を持ち出してきたのは、帽子屋屋敷へ向う途中でだった。話が違うと言ったが遅かった。両手を顔の前で擦り合わせて頼むと言われる。エリオットの耳がへたりと力無く萎れるのを見てはそれ以上断りきれなかった。パァッと明るくなった顔に、そんなに期待しないでよと言う意味合いも込めて、どうせ何も出来ないと思うけど、と言ったが果たしてあの耳に聞こえているかどうか怪しい。
そもそも帽子屋の双子と三月ウサギと親しくなったのは、遊園地で再開してからだった。
時計塔に滞在するようになって暫くしてからだったが、ユリウスの遊園地での仕事を待つ間はボリスに園内を案内してもらって待つようになった。そのうちにアリスも一人で遊びに行くようになり、そこでサボって遊びに来る双子と再会。連れ戻しに来るエリオットと再会。という具合で、何度か会っているうちに親しくなったわけだ。ボリスが帽子屋の面々と親しかったと言うのも大きいだろう。
だから、だからなのだが、たかだか二・三回お茶会で顔を合わせたことがあるというだけのブラッドの不機嫌を直す役目に、どうして自分を選ぶかとエリオットの思考が不思議でならない。

「ん~、何でだろうな。でも、あんたなら上手く行きそうな気がするんだ。」

何の根拠も無くアリスを選んだとサラリとした発言に苦笑いし、期待通りに行かなくても怒らないでよと言う。
上を向けば、頭上に伸びる枝には若い葉が陽の恩恵を求めて広がる。木々の間から漏れる陽光が、二人が歩く周囲に光る影を降り注ぎ、それが綺麗だなと思った。屋敷への道を歩きながら、こんなにリラックスして外を歩くのは久し振りだと伸びをする。
エースに出会うのではないかと緊張しながらユリウスと歩く外出に慣れてしまっていたから、今はただ歩くだけでも楽しいと思える。きっと隣を歩く男が安心をくれるお陰もあるだろう。
この間のエースとのトラブルで、エリオットがあの場に居なくて本当に良かったと思う。それと共に、大事な二人が同じ空間に出会うことはこれからも有り得ない事なのだろうかと少しだけ悲しい。

「あれ? あいつらまたサボリか~。仕様がねえな。」

屋敷に戻ると、ブラッドと双子達は出掛けたとのことだった。気が抜けたというかホッとする。
アリスは待っている間に庭を散歩することにした。エリオットは一人で大丈夫かと気遣ってくれたが、敷地内なら大丈夫だと返事をする。ゴーランドに一人にするなと言われているらしい。