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生まれ変わってもきっと・・・(前編)

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広い庭は手入れが行き届き、池の辺には名前も知らない小さな花が咲いていた。膝を突いて触れてみる。微かに甘い匂いを放つ名も知らぬ花は、アリスの手に甘い匂いを残す。そしてこれからも季節の無いこの世界でずっと咲き続けているのだろうか。
ふとエースのことを思い出す。
彼も変わらないこの世界で、ずっと迷い続けていたのだろうか。そしてこれからも迷い続けるのだろうか。それはどういうことなのかと考えても、答など出よう筈もない。ただ、あんなに激しく自分を求める事と何か関係が有るのだろうかと思う。
わからないことばかりで、その上今までの常識が通じない世界に落としたくせに、貴女が望んだから連れて来たと謎掛けのような言葉を残し去って行ったペーター=ホワイトは何をしたかったのだろう。城で顔を合わせても、いつも答えをはぐらかされてしまう。
木陰に座り空を見上げる。いつも晴れている空。風が強く吹くことも無い。それでも今も先刻も木漏れ日は動いている。緩やかに空気は葉を揺らしているのだろう。この世界も同じ繰り返しではなく、空気の流れのように、緩やかに流れながら変化して行っていると思っていいのだろうか。僅かにずれる円運動のように。それは時間が経てば軌跡が変化を教えてくれる。
顔に零れてくる光の悪戯が心地良くて眠気を誘う。



頬に触れる感触があって目を開ける。視界の殆どを占める赤い瞳に叫び声を上げる。だがそれは手で口を塞がれて阻止された。
ダムは指を立てて静かにと合図している。それから手を取られて、まるで紳士にエスコートされるようにアリスは立ち上がった。振り返るとエリオットが隣で同じ様に眠っていたようだ。いつの間に来たのか全く気付かなかった。どの位眠ってしまったのだろう。エリオットは、きっとゴーランドに言われたことを守って側に来てくれたのだ。

「!!」

そんな悠長なことを考えている視界に、ディーが斧を振り上げてエリオット目掛けて振り下ろす絵が飛び込んできた。
何か叫ぶような意味不明の言葉が口から漏れる。
混乱しているが、助けなければという思いだけでエリオットに駆け寄ろうとするアリスの手は、ダムが握り締めていて離れない。振り切ろうとしたが、意外なほどの力で反対に引き戻されてしまった。
思わず見た顔に、赤い瞳が異様なほど見開かれて輝いている。見ているのはアリスの方ではなく、ディーの斧の行方だ。何かとんでもなく面白い物を見るようなワクワクしている表情は、子供らしさの一片も感じさせない。一言で言えば邪悪さそのものを貼り付けたような顔だった。綺麗な顔をしているだけに際立つ。

ガシュ!

アリスがダムに気を取られている間に、鈍い音がして振り下ろされた斧は幹に食い込む。視線を移せば、あの食い込み方は本気で斧を振り切っていると確信できるほどに、刃先は深々と突き刺さっていた。だがその場にエリオットの姿は無い。

「残念だったな。」

エリオットの銃口がディーの後頭部に押し当てられている。引き金に指を掛けて。それはアリスが今までに見たことのない種類の顔付きで、いかにも冷酷で惨い事を眉一つ動かさずやってのける類いの人種に見えた。口の中が乾く。声が出せない。

「放せよ!馬鹿ウサギ。」

「くそっ。いけると思ったんだけどな~。」
ディーが騒いでいるのを平然と見ながら、ダムがぼそりと言葉を漏らす。それを直ぐ傍で聞いた。彼の視線の高さは自分とそんなに変わらない。でもまだ子供だ。つい今しがた見たばかりの興奮した赤い瞳を思い出し、アリスは寒気がした。今なら、自分の知る範囲で、大人たちが眉を顰めるようなどんな素行不良な男の子達も、双子とは比較にならないくらいに可愛らしく見えると思える。
アリスの強く握られた手が痛んだ。

「ダム・・痛いわ。」

震えてかすれる声で遠慮がちに、握った手を放してと言う。その声に驚いたように此方を向いた顔は、いつもの表情だった。お姉さんごめんねと、優しく言いながら手を放す。大丈夫?と心配そうに此方を覗き込む顔は、先刻の表情は見間違いかと思うほどに子供らしく可愛かった。だがエリオットから逃げ出してきたディーにも、隣にいるダムにも、危ない事はしないでと注意する気になれなかった。そんな次元で生きている子供達ではないと知ってしまったからなのかもしれない。
先刻まで安心して心を許していたエリオットにすら、今は側に寄れないでいる。
仲間同士であっても油断すれば命を取り合うのが此処の領地では普通のことなのだろうか。では今まで自分が見て来た彼らとは一体なんだったのか。全てが表面上の演技とも思えない。
一体、彼らの何処から何処までを信じたらいいのだろう。

いきなり体が浮いた。エリオットの顔が近くにある。

「え?何、下ろして!」
「駄目だ! あんた今にもブッ倒れそうな顔してるだろ。ちょっと客室で横になっとけよ。」

その後は何度下ろしてと頼んでも駄目の一点張りで、結局ベッドに横になっている。

「あいつらには言っといたぜ。あんたの前で刺激の強過ぎる遊びは禁止ってな。すまねぇな、無理言って来てもらったのによ。」

「遊びって、遊びで殺すの?」

もう次元の違い過ぎる話に頭が考えることを拒否したようで、恐怖も倫理的な諸々も浮かんでこなかった。ハートの城でも瑣末な理由でメイドや兵士が撃たれたり、首を刎ねられているようだったが、まだ理由があった。此処ではそれすらない。遊びなのだ。
俺たちはそういう商売だからな。ま、あいつらに殺られちまうようじゃお終いだ。そう言い残して彼は部屋を出て行った。何だかよく解らない。元々マフィアの事など理解できるわけも無いのだが。

目が覚める前というのは、どうして上昇するような感覚になるのだろう。今もそうだ。耳元で話し声がする。意識が浮かび上がるにつれて、声の主の名前が頭に浮かんだ。小さい二つの声は揉めているようにも聞こえる。
ずるい・・・、仕方ない・・・よく聞こえないが薄っすらと目を開けると、二人の顔が見える。枕に顔を半分埋めて眠っているせいで、此方が目を覚ましたことに気付いていない。ゆっくりと腕で身体を支えながら身体を起こした。

「お姉さん!」

身体が完全に覚醒していないようで頭がクラクラする。眠っている間に身体から抜け出していた透明な存在が、まだしっかり戻り切っていない。そんな感じだ。手で目の辺りを覆って暫くじっとしていると、指先までしっかり自分の感覚が戻ってきた。そのまま手で髪をかき上げて、いつもの見知ったディーとダムの方を見る。

「・・・ ・・・」
「どうしたの?」

アリスの言葉に急に二人は我に返ったような表情で、傍目にも慌てているような素振りを見せた。首を傾げるアリスに、早口で捲くし立てる。

「しょ、食事・・夕食食べる?」
「そ、そうそう・・馬鹿ウサギが聞いて来いって。」

言われて気がついたが、部屋には明かりが点いていた。窓の外は暗い。そう聞かれてみれば空腹かもしれない。昼の時間帯にゴーランドのところで食事を摂ったのが最後。昼の次に夜が来たら夕食か。では朝食はいつ摂るのかと突然、何の脈絡も無く思う。暫しその考えに囚われながら三人でダイニングへ向った。