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生まれ変わってもきっと・・・(前編)

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山のような人参ステーキ、及び人参料理と格闘するエリオットと、成長期のディーとダムの食欲に圧倒され、食べた気がしない夕食を終える。

「食事が終わったら、僕達の部屋へ来てよ。宝物見せてあげる! ね?兄弟。」
「うん、そうだよ遊びに来て。お姉さんに見て欲しいな。」

まだ食事中のディーとダムが、無邪気そうに宝物を自慢したいから部屋へ来いと誘ってきた。そんな子供らしい言動に内心安心する。宝物ってなんだろうと思いながら承諾した。
ダイニングを出て広い廊下を目的も無く歩く。明るい時間帯にしか遊びに来たことが無かったのと、屋敷の中に入るのは二度目くらいだ。お茶会はいつも外だった。
思いの外静かな邸内を意外に思う。この広い屋敷の維持と庭の手入れの為に、相当数の人手が必要な筈だ。どういう部屋の配置になっているのかと考えた。家業的に特に防犯の面で、部屋の配置は考え抜かれているのだろう。建築は嫌いではない。積極的に興味があるとか、好きだといっても良いだろう。著名な建築家のデザインを本で見るのも、訪れて実際に見るのも好きだ。壁に近づき触れてみる。帽子のデザインが壁中に施されている。どういう技なのか興味があった。
その時視線を感じ、廊下の奥を見る。薄暗い視線の先には誰も居ない。
気のせいかと視線を戻した途端に、エリオットに声をかけられた。

「よっ。ブラッドにアリスが遊びに来てるって話したら、客人ならお茶会でもするかって言ってたから、宜しく頼むぜ。期待してっから。」

「ちょっ、だから期待しないでって・・ちょっと!」

無茶な期待をされても困る。期待は大きいほど外れた時の落胆が酷い。アリスは何の策も無く巨大敵に挑む、似非ヒーローの気分だった。


★7. 宝物

アリスはご招待を受けた双子の部屋で固まっていた。

「・・それでね、これが一番使いやすいんだ。ほら、お姉さん持ってみて!」

「そっち終わったら、これも試してみてよ。」

アリスはどう反応したものか困っていた。彼らの話が全く解らない。言葉はわかるのだが内容が掴めないのだ。ナイフは皆同じに見える。違いは刃の長さくらいしか無いように見えた。そんな物をいっぱい取り揃えて何が楽しいのかと思う。今の心情を素直に質問してみた。

「ね、こんなにいっぱい持ってるけど、いつ使うの?」

当然のことながらアリスにとってナイフの類いは、それぞれの用途に合った実用品であるという以外には考えたこともない。手元にあるという事は使う宛てがあるということなのかと単純にそう思ったのだ。
双子は顔を見合わせてキョトンとする。そんな事考えたことも無かったという表情だ。アリスも予想外の反応に戸惑う。暫し三人で無言になる。

「試す・・か。そんな事考えたこと無かったね、兄弟。」
「そうだね、でも丁度良いんじゃない?兄弟。」

二人は向き合ってにっこりと笑った。それから手持ちのナイフを握り、アリスの方を向く。お姉さんで試して良い? そう言いながら一人掛けのソファに座る彼女の前に立つと、色違いの二対の瞳に見下ろされた。自分の発言で、彼らの中にある何かのスイッチを入れてしまったことに気付いたアリスは焦る。
――― 遊びで人を殺す。

「大丈夫、お姉さんを傷付けたりしないから。」
「ちょっと!私で試さないでよっ。」

私を傷付けないって? しっかりこっちを狙って来てるじゃない! すっかり気を許していたところでのいきなりの命の危機に大いに焦る。逃げ場の無いアリスは背もたれの方へ向き直り脱出を図るが、エプロンの紐を引っ張られて敢え無く失敗した。昼に見たダムの赤い瞳の記憶が甦る。退路を断たれ青ざめたまま二人を見詰める。その視線がディーとダムの後方へ向けられる。それに気付いた二人が振り向くと同時に頭を拳骨で殴られた。

「お前ら、さっき言ったよな。アリスに危ない遊びするんじゃねえぞって!」

何だよ、傷付けたりしないのに! 文句を言い始めた双子達に、ブラッドが待ってるぞ。と言うと途端におとなしくなった。名前だけでこの双子を大人しくさせるとは流石だ。


★8. 機嫌の悪い男

エリオットに礼を言い、助かったと溜息を吐く。だが気が重い。気が重い理由は、ブラッドの不機嫌を直すことを依頼されたから、では無い。
アリスはブラッドに会うことで昔の恋を思い出すことが苦しいのだ。だから出来れば会いたくないし、係わり合いになりたくない。此処に足を向ける回数が極端に少ないのはそのせいだ。
これはアリスの胸の中だけにしまっておくことだったはず。それなのにエースはあの時に気付いてしまったようだけれど。でも、彼の気付いたそれは多分に誤解を含んでいる筈だ。
初めてこの世界を一人で歩いた時、適当に歩いて辿り着いたのが帽子屋屋敷だった。今、目の前を歩く三人に殺されそうになり、助けてくれたのがブラッド。
初対面では思わず彼を凝視してしまった。こんなところで知人に会うなどあり得ないと思ったが、それを納得するには余りにも似過ぎている。顔も声までも同じ人。違う世界に来てまで過去の想いに苦しめられるのかと思う。
だが、それでも会いたくなった。だから訪ねて行き、お茶を飲んだ。話せば、当然のことながら別人だと判る。でも辛い記憶は甦り、姉への羨望と自己嫌悪が刺激される。そうして未練が増幅される。
エースが仕掛けてきたような、あんなキスすら知らないまま終わった恋。一方的に終わりを告げられた恋。
それだけならばきっと、これほどまでに引きずってはいない。十代で経験する初恋なんてそんなものかと、今頃友人と笑い合っていただろう。だが彼が好きになったのは自分の自慢の姉だったから。だから誰にも言えずにいる。いつまでもウジウジと気持ちの整理がつかない。これが未だこの想いを乗り越えられない理由。
何処かの知らない女性に気持ちを持って行かれた方が、彼と相手を詰り罵ることが出来た分、立ち直りが早く、もっと軽い初恋として記憶に納まっていた筈だ。

目の前の席で、昔の彼と同じ顔で紅茶を飲み、時々人の話を上の空で聞くブラッドは、一見すれば機嫌が悪そうには見えなかった。一つ一つの動作は実に気だるそうではあるけれども、上品だ。以前会った時もこんな感じではなかったか。
本当に御機嫌斜めなのかと思うくらい会話も普通だ。本を貸してくれると部屋にご招待の約束の時、自分としては少し大袈裟に喜んで見せたのだけれど、特にこれといった反応も無かった。一寸気恥ずかしくなる。何を考えているのか表情も殆ど変わらないから読めない。まあ、十代の小娘にマフィアのボスの何かが解るわけは無い。と思ったら、急に片方の口角だけを上げて笑う。何故かそれは邪な笑みに見えた。怖いと思った時、顔を上げブラッドが此方を見る。視線を外すのも気まずいかとそのまま見詰めた。
整った顔立ちだ。深い緑色の瞳と長い睫毛。鼻も唇も理想的な形。細面の輪郭を黒髪が覆う。見なくても、目を閉じていても思い浮かべることが出来る顔。肩幅が適当にあって、腕も脚も長い。服を着るのに理想的な体型をしている。何処を取っても申し分の無い容姿だ。どうあっても女性が放っておかないだろうと思われる。