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生まれ変わってもきっと・・・(前編)

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(それでもエリオットが私をご指名したと言う事は、御機嫌を直すのに、女性的な何かを期待されていないってことでいいのよね? 確か、そんな事を・・・)

「アリス、顔が怖い。笑え。」

横からエリオットが肘で小突いてきた。ブラッドを睨んでどうすんだよ! と耳打ちしてくる。俺と一緒に笑え、ほら。と笑顔を強要され、取りあえず笑う。 無理矢理笑いながら、エリオットの顔を見ているうちに本当に可笑しくなってきた。不思議だ。笑っているうちに、いきなりエリオットの笑顔がダムの不満そうな顔に見えて驚く。見間違いかと思ったら、いつの間にか両隣にディーとダムが来ていた。自分達に構えと文句を言っている。そういうところは可愛らしい。
元々、此処に来ようと思った理由はこの子達が心配だったからだった。なのに・・

「お前ら邪魔なんだよっ!」

エリオットに引きずられて席を離れていってしまう。アリスが席を立つと、ブラッドが言う。

「放っておきなさい。いつもの事だよ、お嬢さん。」

「でも・・・」
「それより、紅茶は堪能していただけたかな。お気に召さなければ淹れ替えさせるが。」

「とんでもない。とっても美味しいわ。」
「ではもう一度席に着いて・・いや、それとも本を見たいかな?」

ブラッドは、薔薇とカードと羽根で飾られたシルクハットの鍔の下から上目遣いで此方を見ている。白いテーブルクロスの上で両手の指を組み、背筋がピンと伸び、口元に薄笑いを添える。自分の知る男と同じ容姿でありながら対極に存在している種類の人だ。そう感じた。
良く言えば大人しくて優しい。悪く言えば強烈な個性も無く、強い自己主張も出来ないあの人とは全く違う。全ての流れを自分で決め、思い通りにならない事など何も無いと言い切りそうな目の前の男は、知るほどに似ているだけの別人だと思い知らされる。
――― 同じ容器に入った全くの別物。もしどちらかを選ぶとしたら、私ならどちらの中身を選ぶのだろう。

返事もせず、席に着きもしないアリスを見て、ブラッドはメイドに紅茶を部屋に運ぶように指示をする。それからアリスの側に立つと、お手をどうぞと手を差し出してきた。

(流石に慣れてるって感じよね。)

アリスは差し出された手を見て戸惑った。歩きにくいドレスを着て足元が見え難いわけでもない。だから別にエスコートしてもらわなくても困らない。こういう時は断っても良いのかと考える。

「申し訳ないけど、必要無いです。」

なるべく角が立たない言い方で断ると、ブラッドを見上げた。

「おや、では此方で如何かな?」

今度は左腕を曲げてアリスを見る。これは腕に掴まれと言う事らしい。
胸の前で両手を小さく振りながら後ずさる。どうして普通に歩いてくれないのか、困惑する。

「ふむ、お嬢さんはどちらもお気に召さないようだ。」

そう言いながらアリスの右手を取ると、そのまま手を握り歩き出す。元々歩幅が違うため、アリスは小走りだ。エスコートするなら歩幅も考えなさいよ! と内心抗議しながら黙って付いて行く。屋敷の玄関を入り、程よく薄暗い廊下を行く。小走りで付いて行くと突然スピードを落されて背中にぶつかりそうになった。彼はアリスの方を見て歩きながら、

「そういえば先刻、此処でエリオットと親しげにしていたね。」

と言ってきた。食事の後で廊下に居たときの事か。あの時感じた視線はこの男のものだったのかと思ったのと、そんな意味深な言い方しなくても良いじゃないという軽い腹立ちを感じる。嫌味な男だと思う。
ブラッドは言いたいことだけ言うと、再び歩くスピードを上げる。小走りになるアリス。
彼の書斎まではかなり走った・・・と思う。部屋に招き入れられてから暫くは息が上がって読書どころではなかった。
ブラッドはさっさと執務を始めている。客に対してこの態度は無いだろうとムカムカと腹が立つのを押さえて、エリオットが言っている不機嫌とはこの事かと冷静になるよう努めた。

落ち着いた頃に本棚に向かう。
実に様々なジャンルの本が置いてあった。が、今は細かい筋を追うような本は気分じゃないと考えながら目で探す。書斎の方から回り込んで背仲合わせとそれを囲むように三面に本棚が続く。この一角だけでも相当数の蔵書だ。
一番下の棚から、建築物の写真集を見つけ取り出す。表紙を見てちょっと感動した。一番好きな宮殿に似ている写真だ。
アリスの最も好きな建築物の一つが、実際宮殿では無い様なのだが宮殿と呼ばれている。天井も壁面も直線の柱と柱を繋ぐアーチとその上の壁面の全てが、美しいレリーフ様のタイルで飾られる凝った建築物。水面に映り込む姿は溜息ものだ。
手に取った写真集は、この世界の建築物を収めていた。表紙の建築物は何処にあるのだろう。ページをゆっくりと繰りながら探す。
アリスは気付かない間に床に座り込み、丁度直角に位置する本棚を背もたれ代わりにして、膝を立て脚の上に本を置いていた。

「感心しないな。淑女が本を読む格好じゃないよ。お嬢さん。」

突然頭の上から降ってきた声に、ヒィと声が出る。心臓が止まりそうなくらい驚いた。顔を上げると、両手を本棚についてこちらを見下ろすブラッドがいる。此処が彼の書斎だと言う事をすっかり忘れていた。本来の目的を忘れ、写真集に熱中してしまっていた。顔を写真集に戻すが、勿論見えてなどいない。ここから如何リカバリーしたものかと必死で考える。
考えがまとまらない中、思いもかけない言葉を聞く。

「お嬢さんは、私を楽しませてくれるんだろう?」


9. 似非ヒロイン

ご希望通りに楽しませられるかどうかは知らない。全く何の策も無く、ただ断りきれずに此処にいるだけなのだから。それよりも、先刻の廊下でのエリオットとの立ち話を聞かれたのかと思った。二人とも、周囲に人目があると配慮した話し声ではなかったからだ。
元々苦手な相手に見下ろされ、ほら楽しませてみろよと催促されている状況に居た堪れなくなる。焦るほどに空回りする頭の中。
エースの件で、自分の意思をはっきり伝えることが悪い状況を呼ばない一番の方策と学習した筈なのに、どうしてエリオットに同じことを繰り返してしまったのか。また窮地に立ってしまっているではないか。自分の学習能力の無さに嫌気が差す。

「あの・・朝食の時ってどういう基準で紅茶を選ぶんですか?」

アリスの発言は、もう全くの思い付きだ。紅茶好きの主に合わせ、頭の隅に引っ掛かっていた苦し紛れの話題でも、無いよりはマシという程度の。勿論、ブラッドからは全く反応が返ってこなかった。返事すら無視されるような、余りに馬鹿げた発言をしてしまい顔が上げられない。きっと今も見下ろされている筈。我ながら何て間抜けな話題を振ってしまったのかと自分に軽く失望した。やっぱり私には無理なのよと後ろ向きな気持ちが強くなる。早くこの部屋を出ようと思った時だった。

「君は、建築が好きなのか?」

それが自分の持つ写真集によりもたらされた質問であることに思い至るまでに少し間が空いた。

「・・・ええ、難しいことはわからないけれど、美術品を見るのと同じ様に眺めるのは好きよ。」