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モン・トレゾール -私の宝物-

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 「どういう事なんだっ! 採用?! 一旦不採用どころか門前払いの扱いをしておいて、今更採用だぁ?! 何考えてんのっ!!」
「ブ…ブライトさん。あ、あの…落ち着いて…。血圧が……」
「馬鹿にするにも程があるわっ! どれだけアムロが悩んだと思ってるのよっ!!」
「ミ…ミライさん。お肌に、皺ができ…」
「アムロッ!!」
「はいぃっ!」
「行く事なんてないわよ、そんな所。手違いでしたぁ? こんな単純な間違いをするような企業。ろくでもないわ!」
怒り心頭のミライの姿は阿修羅像のように見えた。

「今まで通り、アムロは私達の所で正規職員として働いて貰います! 父に言って資金は出して貰いますから、アムロは心配しないで大丈夫よ。リストラなんてしないで十分行けます!!」

 ミライは元々大企業のお嬢様だったのだが、ブライトと出会い、結婚するに際し、勘当同然の扱いを受けた。と言うより、自分から親子の縁を切る形だったようだ。だが、子供達が生まれ、孫可愛さに両親が折れ、交流が再開したのである。
両親は彼女の為なら資金を潤沢に放出し、店舗拡張などいとも容易く行うだろうし、やるとなったらビルの一つや二つ、何て事無く娘に買い与えるだろう。
しかし、ミライ自身が親への援助を拒んできていたのだ。それが、今回の件でアムロの懸念となっている経理の問題を親の力で払拭し、安心して就職してもらおうと息巻いている。

「あの…。ミライさん…」
「なぁに? アムロ。まさか、G―ONからの話を受けるなんて言うんじゃないわよね?」

ミライはニコリと笑いながら尋ねてくるが、背後に暗雲立ち込め、稲妻までありそうだ。
つい、腰が引けかけるが、ここで引いては後々悔やむ事になりかねない。
アムロは下腹に力を込めると、ミライをしっかりと見詰めた。

「私、G―ONに行きます。ミライさんやブライトさんの思いやりや心配は凄くありがたいですけど、私は私自身の力量がどれだけあるのか、ITの現場で確かめたいの。頑張ってみるけど、駄目で泣いて帰ってきたら、その時は迎えてくれる? あっ! そんな虫のいい事言っちゃいけないわよね」
勢い込んで言っていた声が尻窄みになり、アムロの顔が伏せられた。

“なんて身勝手なの、私って”

アムロはノア夫妻の愛情に胡坐をかいているように感じて、自分自身が恥ずかしくなった。

沈黙がその場を満たした。

「ゴ、ゴメンナサッ!」

謝りかけたアムロの声は、途中で途切れた。
二人が同時にアムロを抱き締めたからだ。
ミライがアムロを抱き締め、その二人をブライトが一緒に抱き締めたのだ。

「いつでも戻ってきて! 待ってるから」
「ここがお前の家だと考えろって、昔言っただろ? 俺達を兄姉だと思えって…な?!」
アムロは精一杯腕を伸ばして、二人を抱き返した。



「そこら辺に、してはもらえないかな」

遠慮がちな声が、店とバックヤードを繋ぐ出入り口から発せられた。
三人がそちらに目を向けると、そこにはボルドーカラーのシルクシャツに銀青色のネクタイ、銀灰色のタイシルクで出来たシングルブレストのスリーピースをそつなく着込んだ美丈夫が申し訳なさげに立っていた。