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モン・トレゾール -私の宝物-

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 「「シャア(さん)!!」」
ブライトとアムロの口から飛び出した男の名前に、ミライはこの男こそが件のCEOだと知る。
「貴様ぁ!」
「駄目よ!!」
ブライトが殴りかかり、それをミライが止めた。
シャアの前にも、彼の身を守ろうとする様に屈強な男達が立ちはだかったので、狭い通路は人でギチギチになった。

「どきたまえ。彼は私を害したりしない。そんな事の出来る漢では無いからな」
シャアは先刻とは違う威厳のある声でSP達を下がらせた。

「はじめまして。シャア・アズナブルG―ON CEO。私はミライ・ノア。旧姓はミライ・ヤシマですわ」
「ヤシマ?あの重工業の?軍需関連まで手がける、あのヤシマの身内かね」
「ええ。あのヤシマ本家の第一子長女ですわ。このアムロは私の妹も同然。万が一にも泣かせたり苦しめたら、この私が許しませんので、そのおつもりで。夫が顔面を殴るよりもっと悲惨な思いをしていただきましてよ」

アルカイックスマイルに固められたミライの顔は、今までに見た事も無いほど高位の者を感じさせた。
軽く目を見開いたシャアが納得したように頷く。
「肝に銘じておこう。しかし、あのヤシマ家の直系が、あれほど美味しい料理を作れるとは意外だな」
「あら。美味しいものを食べるのに、地位も家柄も関係ありませんわ。元々我が家は『どんな時も一般的な人達の生活を忘れない事』をモットーにしておりますからね。その辺のお坊ちゃまとは意識や視点が違いますわ」
「これは手厳しい。重々肝に銘じよう」

シャアの返した皮肉を、更に強力にして返すミライに、常のおおらかで優しい母であり妻である姿は見られなかった。
やり込められたシャアは早々に戦線離脱を図った。

「ノアさん。アムロを我々の許に預けて下さい。決して辛い思いをさせないと約束します。彼女のやりたい事が思う存分出来る環境を作り出して、ITの更なる進化をお見せする。だから彼女を私の許へ!」
そう言うと、シャアはアムロの前に手を差し出した。

どうやってこの店を知ったのかとか、どうしてここに居ると分かったのかとか、訊ねたい事は山ほどあったが、自分へと差し出された白くて大きな手に戸惑いながらも、幸せを感じていた。
手をとろうかどうしようかと悩んでいると、ミライがアムロの背中を押した。

「行ってらっしゃい、アムロ。羽ばたいて。大丈夫。貴女なら出来るわ」
「思う存分やって来い、アムロ。骨は拾ってやるから」
「縁起でもない事言わないで!ブライト!!」

シャアの前に押し出される形となったアムロを、シャアは両腕を広げて抱き寄せた。
「きゃっ!」
「待たせてすまない、アムロ。これからは私の許で君の研究の翼を心行くまで広げてくれたまえ。協力は惜しまんよ。そして私にも協力してくれ」
緊張で固まり、赤くなったアムロの耳朶に唇を寄せると、シャアは囁いた。
アムロの緊張がゆるゆると解けてゆき、紅茶色の小さな頭がコクンと縦に振られた。そして、些かささくれた指先がシルクのスーツをぎゅっと掴んでくる。

シャアは癖の強いネコっ毛のアムロの髪を愛しそうに撫ぜると、そっとアムロの顎に指をかけて仰向かせた。

潤んで飴玉のような瞳が自分を映し出す。

シャアはその瞳に引き付けられるように顔を寄せると、荒れ気味の唇をペロリと舐めてから、本能のおもむくままにアムロの唇を貪った。
「んんっ!」
アムロの目が驚愕に見開かれる。

微笑ましく見つめていたノア夫妻の顔色が変わる。
「ちょっとっ!」
「おい!待てっ!シャア!!」
二人はアムロを引き離そうと動き出したが、それより早く

ガツンッ

派手な音がシャアの足の方からして、アムロが放された。

「ツゥッ!!」
「こういう事は、同意のもとでして頂戴!私は社員として貴方の所に行くのであって、遊ぶ対象としてじゃないって事、忘れないで!!」
真っ赤になって息を上げながらアムロが言い放ち、シャアは蹴られた脛を押さえて痛みを堪えながら、同意を表す為に片手を上げた。

 こうしてアムロはG−ONに入社するのだが、これよりG―ONのIT技術は飛躍的な進歩を遂げ、業績は右肩上がりを示し続けた。


 シャアとアムロの関係がどうなったかは、別の機会に