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モン・トレゾール -私の宝物-

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3


 カフェのバイト時間にぎりぎり間に合ったアムロは、小柄な体をくるくると動かしてその日も仕事を頑張った。
接客だけでなく帳簿の記入(PCを使ったものだが)に大型調理機械の終業後チェックまで、アムロは店のオーナーであるノア夫妻に任されていた。
「ミライさんが出入記録をしてくださってもいいのに…」
「あら、アムロがやる方が正確で早いんですもの。任せて安心!って感じだから手を出さないのよ?私もブライトも」
「でも……」
「俺もお前さんに全面的な信頼を寄せてるからなぁ。今更ミライに預けるって気にもならないよ」
閉店後のバックヤードでノア夫妻にそう言われると、アムロはそれ以上の拒絶は出来ず、打ち込んでいた最後の項目を入れると、Enterキーを押して終了した。
「終わりました〜〜」
「おっ。ありがとう」
「お疲れ様〜。じゃ、これ。残り物で悪いけど」と、ミライが調理済みの料理をパックに詰めて渡してくれる。
「わぁ、ありがとう。これで明日の朝は楽できる〜」
アムロは素直に受け取りショルダーバッグの底に傾かないように注意して収めると、帰る仕度を始めたが、
「アムロ。今日の就職活動はどうだった?」とミライに遠慮がちに訊かれ、その手が止まる。
「その様子だと、また駄目だったか…」
ブライトがアムロの表情から事情を察して答えを返す。
「う……ん。やっぱ、親が居ないのはまずいみたい」
「アムロが優秀なのは私達知っているだけに、ただそれだけの理由で採用しない企業って、本当愚かだと思うわ」
「だな。いっそ、ここに本就職するってのではどうだ?アムロなら全て知っているだけに、俺達も安心だ」
「そうね!チェーミンやハサウェイも喜ぶと思うわ。そうそう、ハサウェイがまた宿題、教えて欲しいって言ってるのだけど…」夫妻がアムロ確保に乗り気になっていくのでアムロは慌てた。

「やっ、無理でしょ?現状の収支決算から見ると、正規職員をこれ以上入れたら赤字になるって。だからって、私が入る代わりに誰かの首切るってわけにもいかないし……。大丈夫。まだ卒業までは間があるから、もう少し頑張る」
「「そう?」」

心底残念そうな声が夫妻から発せられ、アムロは少し嬉しくなった。
「あ、ハサウェイの勉強。今度の定休日にお宅に伺いますね。そう伝えといて下さい。じゃ」
アムロは明るく笑うと、バッグを片手にスタッフオンリーの出口から夜の町へと駆け出した。

帰宅先に大きな問題が残されている事などすっかり知らないで、少しだけホッコリと暖まった心に、夫妻への感謝を感じながら……。