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モン・トレゾール -私の宝物-

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食後の珈琲を飲みながら、アムロは気になっている事をクワトロに聞き出した。
「貴方、なんであんな所に行き倒れていたの?どう見てもホームレスじゃないでしょうし、料亭の料理を知ってる位だからお金持ちなんでしょ。ブラックカード保持者だし、一般常識知らないみたいだし」

カップを片手に寛いでいた男が、一瞬で気まずい表情になった。視線がウロウロと彷徨う。

「帰る先があるなら帰りなさいな。こんな貧相なアパートに引き籠ってる必要はないと思うけど」
「いや……。ここは快適だ」
「そりゃ上げ膳据え膳ですものねぇ。仕事もしなくていいわけだし?快適だわよねぇ。でも、私は貴方を養う義務は無いし、ましてや養えれるほどの余裕は無いの。大学は、修士課程に進むなら行かなきゃだけど、就職するつもりだからここでのんびり貴方の相手をしていられる時間的余裕もないのよ。家族に連絡入れなさいよ。携帯、持ってんでしょ?」
アムロは、昨日男が着ていた上着の内ポケットを問答無用で探ると、携帶電話を取り出した。

「あらまぁ。最新型の携帯じゃない。マネー機能だって付いてるタイプよ?これ。使えばいいのに」
アムロはそう言うとフリップを開けた。
ディスプレイ画面は真っ黒だった。

「電源入れてないの?それとも充電切れ?」
「まっ!待ってくれ!!」
クワトロが慌ててアムロの手から携帯を取り戻そうとしたが、アムロはその手をすり抜けると素早く電源スイッチを押した。軽快な音と共に携帯が起動する。

「ちゃんと動くじゃないの。なんで電源を入れてないの!入れてれば昨日だって食事は出来たはずよ」
アムロはクワトロに携帯を押し付けたが、彼は慌てて受け取るなり、電源をOFFにした。

「何で切るのよ。携帯の意味が無いでしょ?!」
「良いんだっ。今は……」
「さては仕事が嫌で逃げ出してきたなぁ」

アムロが男の顔を下からねめつけるように見上げてきた。
その視線は険悪なものだった。
「あなたねぇ、仕事があるだけでもありがたいと思いなさいよ。私なんて仕事に就きたいって活動しても採用してくれる所が無いんだから!バイトで食いつないでいる状態なんだから!!」
アムロが腰に手をあてて仁王立ちして説教をし始める。
「大体が貴方、お坊ちゃまなんじゃないの?綺麗な洋服着て、シミもそばかすも無い綺麗な肌だし、絹糸みたいな金髪だし、指先なんて洗い物したこと無いんだろうなぁと思わせるほど潤ってるもの。私はお坊ちゃまの相手なんてしてる暇、これっぽっちもないのよっ!!」

アムロはここ暫く続いている就職活動の未成果による腹立たしさが、この男の態度によって爆発していると感じた。
“八つあたり…だわ”

そう思いつつも、男を詰るのを止められない。
日々を懸命に生きるしかない自分からみると、現実から逃避している男が怒れる反面、羨ましい。

「とにかくっ!」

ピンポ〜〜ン♪

続けて苦情を言い募ろうとしたアムロは、唐突になったチャイムに話の腰を折られた。

「はぁ〜〜い。どなた?!」
アムロはむかっ腹を立てながら舌鋒を一旦収めると、何気なく玄関の鍵を開けた。
「待てっ!!アムロ!!」
クワトロが制止する声に「はぁ?」とアムロが振り返った瞬間

ドガッ

安普請の扉が、蝶番が外れるかと思われる勢いで開けられ、勢いでよろけたアムロは床に尻餅を衝いた。
「きゃっ!」
「アムロっ!!」
「CEO!!」

雪崩込んできた男達が、アムロを助け上げようとしたクワトロを羽交い締めにする。

「離せっ!アムロになんて事をっ!!離さないかっ!!」
クワトロは男達に向かって命令するが、屈強な男達は視線を合わせないまま職務を全うしようとする。

「貴様ら、私を誰だと…」
「ご満足なさいましたか?CEO。季節外れのバケーションは終了です。職務に戻っていただきますわ」

怒鳴りかけたクワトロの声を、冷徹なまでの女性の声が遮った。決して声を荒げたわけではないのに、有無を言わせない迫力がある。

「ナ…ナナイ…」
「二日もお休みなされば十分でございましょう?こちらのお嬢様にもご迷惑というもの。聞き分けて出社していただきます。お連れしなさい」
ナナイと呼ばれた女性が男達に命令を下すと、彼らはクワトロを前後左右で包囲してアムロの部屋から連行して行く。

「アムロッ、アムロッ!大丈夫か?!ええい!離せ!離せと言っているっ。貴様らには耳は無いのかぁ!!」
叫ぶクワトロの声が遠ざかっていく。
アムロはそれをボケ〜〜と見ているしか出来なかった。

「当社のCEOが大変ご迷惑をおかけいたしました。掛かりました経費はこちらにご請求いただけましたら、お支払いいたす事に否やはございません」
と、ナナイはビジネスカードを差し出してきた。
それには「G―ON グループ 秘書室長」の肩書きが書かれていた。

「あ、あの。あの人、G―ONのCEOなんですか?あの電子機械最大手の」
「ええ。何も仰らなかったのですか?」
「はぁ。名前もクワトロ・バジーナ…とだけ」

はぁ〜〜とナナイが溜息を吐いた。額に指をあてて嘆かわしそうに頭を振って…。
「あの方はシャア・アズナブルとおっしゃいます。クワトロ名は遊興時の偽名ですわ。まったく。御世話になっておきながら偽名で通されるだなんて…」
心底飽きれた心情が手に取れるような言葉に、アムロの胸がチクリッと痛んだ。

「いずれ改めて謝罪に訪問させていただきますが、今日はとりあえずこれで失礼させていただきます」
きっちりとしたビジネススーツを隙無く着込んだナナイは、上半身を90度に曲げて挨拶をし、扉の処で待機していた黒髪の青年と共にアムロの部屋を出ていった。

 まるで嵐が通り抜けたかと思えるほどの騒々しさから一変して、静寂が部屋を包んだ。
アムロは床にヘタりこんだまま、何時までもビジネスカードをぼんやりと眺めていたのだった。