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モン・トレゾール -私の宝物-

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「御自分の開発に賛同が得られなかったからと言って、行方をくらます最高責任者が何処に居ますか!」

G―ONアメリカ出張所として使用している超高層ビルの最上階で、シャアはナナイに問い詰められていた。

「ここに居るではないか」
「詭弁はお止めなさい。追跡を撒くために携帯をOFFになさって、行った事も無い下町に紛れ込んで…。重役達を誤魔化すのがどれ程大変だったか、思いもなされないのでしょうね」
腹立たしそうに言い募るナナイの顔には薄っすらと隈が出来ていた。
「君に迷惑をかけた事は謝る。すまんっ。だが、私の理論に基づいた新製品の開発は当社の利益に繋がる事は間違いないのだ。それなのに、のっけから出来ないと切って捨てるような事を言われたら、やってられないと言う心境にもなろうがっ!」
「理解出来ぬでもありません。しかし、御自分のお立場と言うものをお考え下さい。今回は何事も無く、優しい少女に助けてもらえましたが、いつもそうなるとは限らないのですよ。拉致されでもしたら、当社の損害は計り知れない事になるのですよ。御理解いただけますか?」
「………」
解っていても納得出来ないシャアは、是と答える事が出来なかった。

「しかし、流石にCEOですね。彼女の元へ転がり込むとは」
と、ナナイが険しかった表情を幾分和らげた。
「彼女の所??」
言われた意味が解らなかったシャアがナナイに続く言葉を促す。
「はい。CEOが拾ってもらった少女ですが、アムロ・レイと言われるのですよね」
「ああ、そう言った。一人暮らしで、大学の卒業を前に就職先が決まらず、バイトで食いつないでいると…」
「彼女こそ、ITの申し子、新時代の先駆者と称させる天才児ですよ。大学の教授陣がこぞって残留を希望しているにもかかわらず、社会に出るのだと聞く耳を持たないと嘆く声が聞かれていますから」
「なにっ?」
「ご存知の上で転がり込んだのではないのですか?」
「ああ……。公園で行き倒れていた所を拾ってくれて、泊めてくれて、食事もさせてくれた。優しい、少し乱暴な普通の少女だと思っていた」

“一人ぼっちの寂しさを、強がることで押し隠している様が愛しいと、感じ初めていたのだが…”

シャアがアムロの事を思い出して表情を柔らかいものに変えたのを、ナナイは見逃さなかった。
「それほど感謝しておいでならば、何故本名を告げられなかったのです?遊興時に使われる偽名を告げるなど、彼女を遊びの対象とお考えだったのですか?!」
ナナイの顔が険しいものに変わった。

シャアは、生まれた時から現在の地位を約束されたセレブとして育ってきた。
幼い頃から、冴えた容姿は異性を引き寄せ、付き合う相手に事欠くことなど皆無だった。
だが、相手は彼自身ではなく、その後ろにあるバックグランドに興味があるという事を早くから認識してしまっただけに、心底自由に遊びたい時の為に「クワトロ・バジーナ」と言う偽名を作り出したのだった。

両親は自分を愛してくれてはいても、後継ぎであるという認識からか、どうしても一般家庭のような親子関係とならなかった。

衣食住も金も異性も不自由しない。

ただ、純粋に自分を気にかけてくれる、優しい愛情だけが手に入らなかったのだ。

この28年間、それが寂しいと感じていても、どうしたら手に入るか分からなかったのだった。
アムロに会って、自分が何たるかを何も知らない彼女に、あれほど欲した感情を与えられたのだが、自分の地位を知られたらきっと失ってしまうと思うと実名を告げられなかったのだ。

「アムロをそんな風に捕らえてなどいない。だが、実名を告げて距離をおかれたくなかったのだ。本当に普通の女の子だと思っていたから…」
「本当の事を告げなかったが故に、嫌われる事もあるのだと知るべきかもしれませんね」
「えっ?」

重厚な桜材で作られた執務机の上に置いた自分の手を見つめていたシャアは、告げられた言葉に吃驚してナナイへと顔を向けた。

「教えられた名前が偽名である事、それも遊興時に用いるものだと告げた時の彼女は、傷ついた顔をしていましたよ。親切にした相手が遊び感覚で接したと思ったのでしょうね。可哀想に…」
ナナイはシャアを責めるような口調でそう言った。

「何故そんな事を…。ナナイッ!何故そんな余計な事を言ったのだ!!私は彼女を」
「CEOが真実を話していらっしゃらないから、そうなったのですよ!最初からご自身の立場を話されていれば、私も偽名の説明などする必要など無かったのですから。ご自分の判断ミスを私のせいになさらないで下さいませ!!」
キッと睨み付けて言ってくるナナイの弁に間違いは無かった。

確かに偽名を告げたのは、今回の展開では拙かったと言える。
怒りから立ち上がりかけた体を、ドサリッと椅子に戻したシャアは、酷く落胆した。

「嫌われて……しまったのだろうな。……きっと」

あの暖かいひと時が、もう二度と得られないと考えると、体の中心から冷えてくるようだった。
がっくりと肩を落とし、意気消沈した上司の表情を見て、少し苛め過ぎたかとナナイは救いの手を差し伸べた。

「さあ?それはこれからのCEOの出方によるのではないかと考えますが?」
「出方?」
ボソッと言葉を繰り返したシャアにいつもの精彩さは欠けている。

“あら、拙いわね。地面にめり込ませ過ぎたかしら”

いつもならナナイの言葉の、その二歩三歩先を読む事に長けているはずの上司が、立ち止まってしまった、と言うよりはるか後方に思考が留まってしまった事に、アムロとの触れ合いが断たれた事が与えた影響力の大きさに驚いた。

「そうですわ。彼女は就職が決まらないのでしょう?当社が採用すれば良いのではありませんか?きっと彼女は、一度は当社に打診しているはずです。不採用にしたにはそれなりの理由もあったでしょうが、CEO直々のお声がかりであれば、人事部も採用を拒否しないはずです。そうすれば、CEOは彼女を救った事になり、今回の礼も兼ねる事が出来ますわ」
告げられた打開策に、シャアの顔がぱぁ〜と明るくなったが、次の瞬間、再び表情を曇らせた。

「アムロは受け入れてくれるだろうか。彼女はそう言った裏工作的な事を厭いそうなのだが……」
「それはやり方によりますわね。CEOのお声がかりだと知られなければ良いのでは?」
「だが、私がG―ONのTOPである事は、既にアムロに知られてしまった。その上で採用を通知すれば勘ぐられるだろう?」
「不採用通知が手違いだったと押し通せばよろしいのですよ。本国の人事部から採用通知を出させれば良いのです。その際に大学の教授陣からの後押しがあったとすれば、不信感は減らせますわ」
「そうか。その手があるか!よし!ナナイ。至急アムロの当社採用手続きに入れ。なんとしても彼女を当社に入れるのだ。
そうだ。彼女の能力があれば私の理論に基づく新製品開発も飛躍的に進むだろう。うん!良い案だ!!」
シャアは途端に活気を取り戻し、溌剌とした表情になった。

「それに、彼女の元には私との接点を残して置いたのだからな。これで安心して会う事が出来る」
「機嫌がよろしくなった所で業務に取り掛かって頂けますか?CEO」