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モン・トレゾール -私の宝物-

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ナナイは廊下に待たせていた部下達に入室を許可した。
ゾロゾロと入ってくる部下の手には、決済要の書類が百科事典並みに積まれていた。

「うっ!」
それを見た顔が強張ったが、先にある幸せな出来事を考えると、やる気が出てくる。
シャアは猛烈な勢いで2日ぶりの仕事に取り掛かったのだった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ナナイ達が立ち去った部屋で、アムロはぼんやりとしていた。
拾った男は株式上場企業のトップだった。
一度は就職活動で訪問したが、にべも無く断られた企業だ。
そこのトップに家庭料理を食べさせただけなら良いが、怒鳴り、手を挙げ、極め付けに蹴りを入れた。それも2度までも…。
それでも男は怒る事無く笑顔でいたが、怒る対象ですら無かったのならそれも道理だと考えた。告げられた名前は彼が遊ぶ目的の時にその相手に告げる名前なのだから…。

「結局、私なんてそんな価値しか無いんだろうなぁ〜」

ハァ〜と溜息をつくと、アムロはノロノロと立ち上がった。

「部屋……片付けなくっちゃ……」
今日は会社訪問の予定も入れていないので、久しぶりに掃除や洗濯をして過ごそうと計画していた事を思い出したのだ。
クワトロ、いや、シャアの食べた丼等を洗い上げ、ベッドのシーツを取り替えて洗濯機にかけようと剥いだシーツにはシャアの残り香がしていた。
ツキンッと走った胸の痛みを消すように、ボスンッと洗濯機にシーツを押し込み、始動させる。
洗濯が終わるまで掃除機をかけようとした時、ベッドの脇の床に、キラリと光るものがあった。
「何?これ…」
アムロは掃除機を一旦置くと、それを拾い上げた。
それは小指の爪ほどの大きさの赤い石が付いたピアスだった。
「ピアス?私はピアスホール開けてないし、フラウはこんなの着けてなかったわよねぇ…。誰の……。ッ!!」

?クワトロ、じゃない。シャア…さん、のだわ?
アムロは落とし主に気付いた。

そう言えば、彼は両耳にピアスをしていた。血の様に赤い綺麗なピアスだなぁと、朝方、ベッドから蹴落とした彼の顔を見た時に思ったのだ。
「これ、なんの石だろう」
アムロは石を自然光に当ててみた。するとピアスはキラキラと光を反射し、透けるような赤色を発した。
「この屈折率の感じ…、ルビー?……じゃない。…ダイ…ヤ?…でも、赤いダイヤモンドなんて…」
アムロはその石を矯めつ眇めつ見つめた。すると台座に何か刻印があるのに気付いた。
「何だろう?」
アムロは細かい作業用に常備してあるルーペを取り出して、刻印を読んだ。
「D?2・5。Pt900?って!ダイヤァ?!!」
アムロは吃驚して石を放り投げてしまい、慌ててキャッチしなおす。
「危ない、危ない。こんな馬鹿高いもの、なくしたりしたら大変!…って、どうやって本人に返したらいいのぉ?」
アムロはピアスを手の中に収めて小首を傾げた。

相手は一流企業のCEO。
自分は下町の一般庶民。
出会う機会など皆無だ。
シャアが公園で行き倒れてなどいなければ、一生出会う事など無かっただろう。

返すアテが見つからず、アムロはその石をピルケースに入れて首から下げて持ち歩く事にした。何処かで失くしたりした日には、弁償の仕様が無い程に高価な物だろう事だけは理解出来てしまったから……。

そうして過ごしていたアムロの元に、G-0Nからの採用通知が到着したのは、衝撃の朝から1週間後だった。