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神無月愛衣
神無月愛衣
novelistID. 36911
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化物語 -もう一つの物語- 其ノ貳

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012



――そして時系列は今に当たる。

「阿良々木くんが急に倒れる音がしたから、私びっくりしたんだから」
 鞄を探りながら羽川は言う。
「ああ……ごめんな、羽川」
 あの後――僕が倒れた直後に来た月火は、僕の携帯電話が繋がっていることに気付き、出てみると相手が羽川で、月火は出来事を全て羽川に話したらしい。
 この内容からして――どうやらこの世界でも、羽川と月火は関わりがあるらしい。
 僕が本来いる世界と、全てが違うと――そういう訳じゃないらしい。
 ……僕は今の数行で一体何回『らしい』を使ったんだろう……。
 まあいいや。
「羽川、今、何時だ?」
「今? えっと……、夕方の五時三十分四十五秒だね」
「いや、そこまで言わなくても……」
 細かすぎるわ。……やっぱり羽川は羽川だな。
 たとえ――世界が違っても。
 変わらないのだ、人の性格というものは。
 僕はそう思った。
「はい、阿良々木くん。これ」
 と、羽川は僕に茶色の少し大きめの封筒を渡してきた。
「何だ、これ?」
「今日の授業の内容。と言っても、私のノートのコピーなんだけれど。それと、授業やホームルームで配られたプリントとか」
「サンキュー。嬉しいよ」
「ううん。私にできることって、これくらいしかないし。何なら、看病とか、したいんだけど……、さすがにそこまではできないよね。阿良々木くんのお母さんやお父さん、妹さん達に迷惑が掛かるし」
「いいよ、そこまでしなくても。これで十分さ。いや、十分過ぎるくらいだ。僕は今まで、こうしてもらったことないからさ」
「そう? それはよかったなー」
 にっこりと微笑んで、羽川はそう言った。
 ――ううん。私にできるのって、これくらいだし。
 ――やだな、困ったときはお互いさまでしょ。他にも私にして欲しいことがあったら、阿良々木くん、遠慮せずに何でも言ってね。今はこれくらいが精一杯だけど。
 ――そうだ、この教室の掃除とかしよっか?
 春休み。
 彼女は、僕に対して、返しきれないくらいのことをしてくれた。
 僕の命を救ってくれた――比喩とかじゃなくて、本当に。
 それでも彼女は、こう言うのだった。
 彼女のそれらが自己犠牲だと僕が言ったとき、羽川はこういった。
 ――自己犠牲なんかじゃないよ。自己犠牲なんかじゃ、ない。
 じゃあ、なんだよ。
 ――自己満足。
 ――阿良々木くん、私のことを誤解している――私はそんないい人間じゃないし、それに強い人間でもないよ。私は自分のやりたいようにやっているだけだし……多分、私くらい自分のことしか考えていない人間はいないと思う。
 ――阿良々木くんのことだって、私がやりたいからやってるだけだよ。それで阿良々木くんが気に病むことなんて、何もないのに。
 自己犠牲じゃない――自己満足。
 やりたいこと。
 羽川は、そう思っている――多分僕は、羽川がこう思っている限り、彼女はずっとずっと、強い人間で。
 いい人間でいる、と。そう思っている。
 自分でやることを、何とも思わず、リスクすら何とも思わない。
 まあ、それは危ないとも取れるけれど――リスクを考えて助けることをやめる人間だっている。
 僕だってそうだ。
 だから、リスクを何とも思わず、助けていくっていうのは、そうとう強い人間でないとできない。
 だから羽川は強くて、いい人間なんだ。
 僕みたいな、薄っぺらい人間とは違うのだ。
 僕の自己犠牲(これはみんな曰くだが)と羽川の自己犠牲は意味合いが違う。
 僕は偽物で、羽川が本物。
 僕が偽物から本物になることは――できない。
 もしかした、偽物から本物へなることはできるかもしれないけれど、それでもなろうとは思わない。
 一生、人生を歩むとき、自分が偽物であるというリスクを背負っていかなくてはならない。
 まあ、もう人間ではないが。
 あちらの世界を、僕は――僕達は知ってしまったのだから。
 人間ではない――化け物だ。
それも、怪異の王――吸血鬼。
「……それにしても、あんなに酷かったの? 頭痛」
「ん?」
「電話の時、凄く大きな声を出していたじゃない。それだけ、痛かったの? 酷かったの?」
「ああ……」
 そういえば、結局、頭痛の原因は分かっていない。
 恐らく、原因は風邪なんだろうが。
「ふうん……よっぽど酷い風邪なんだね。やっぱり、季節はずれのインフルエンザかな?」
「……もしそうだったら、困るけど……」
「それか、新型インフルエンザ」
「それだったら、もっと困るよ!」
「まあ、私は、阿良々木くんがこれだけ元気に突っ込めているから、大丈夫だと思っているけど」
「突っ込みで判断するのかよ! お前は神原か!」
「え? 神原って――神原駿河さん? 二年生の?」
 と――羽川は少し驚いた様子で言う。
「阿良々木くん、神原さんと、知り合いなの?」
「え……あ、その……」
 ああ……しまった、ミスった。ウルトラミスだ。
 世界が違うのだから、神原と知り合いな訳ないじゃないか。
「あ、違う。僕が言ってる神原って言うのは、羽川が知っている神原じゃない。違う人だ」
 殆ど正解で、殆ど間違っている台詞だった。
「へえ……そうなんだ。私はてっきり、バスケットボール部の神原さんかと――」
「ちょっと待て、羽川。神原は、バスケ部なのか?」
「うん。……って、阿良々木くんも、知ってるはずだけど。有名人じゃない」
「え?」
「去年、直江津高校に入学した、現在高校二年生の神原駿河さん。バスケットボール部に所属していて、全国大会まで導いた、神原駿河さん。彼女は今も、バスケ部に所属しているじゃない」
「…………」
 そうなのか――いや、待て。
 確か、神原が部活を引退した理由は――猿の手だったはずだ。
 僕と楽しそうに話す戦場ヶ原を見て、僕に嫉妬した――殺意を抱いた。
 その願いを悪魔が聞き入れたから、神原の左手は悪魔の手になった。
 それが、僕の知っている世界の神原だ。
 しかし、ここは世界が違う。
 戦場ヶ原と関わりがないのだ、神原が僕に嫉妬する理由がない――即ち、猿の左腕にはなってない。
 だからこうして、この世界ではバスケットボールを続けている。
 ……自分で説明していて、頭が混乱してきた……。
「ああ…そう……だったな……あはは……さすが羽川、お前は何でも知ってるな」
「何でもは知らないわよ。知ってることだけ」
 適当に相槌を打ち、この場を凌ごうとする僕。
 それを、羽川は見過ごさなかったし、見逃さなかった。
「……阿良々木くん、ちょっと変」
「え――――」
「何だかいつもの阿良々木くんじゃないみたい」
「…………」
 そりゃあ、今の僕は違う世界の僕だもの――なんて、そんなこと言えなかった。
「あなた……本当に阿良々木くんなの?」
「な……何言ってるんだよ羽川……僕は僕だぞ?」
「ふうん……じゃあ……」
 と、少し考え込んで――何かを思い出したかのように――羽川は一つ質問を投げかけてきた。
「私、阿良々木くんに告白したんだけれど。返事、まだなの?」
「え?」
 …………。
 ………………。
 ……………………。
 …………………………え――――――!?
 いや、知らない知らない知らない。