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ボクの扉

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 月日は流れて。

「ダウト」
「げっ」
 カードを置こうとした手がピタリと止まる。
 白くて細い指がのびてきて、往生際悪くカードを伏せたままの指からカードを引き抜き、裏返す。めくられて置かれたカードは、出した者の言葉を裏切って違う数字。
「やっぱり」
 ウォルターはがっくりと肩を落として、恨めし気にアンディを見る。
「……さっきからなんでわかんだよ、アンディ……」
「ウォルター、顔に出過ぎ」
 見事見破ったというのに、少しも得意げではなく、むしろウォルターに呆れたといった様子で、アンディは苦い顔つきをしている。
「そうやって嘘を吐く度に試すみたいにボクの顔見るのやめてよ。ダウトって言いたくなくなる」
 アンディは手に持ったカードに『ハァ……』とため息を吹きかける。
 ウォルターはムッとして、ずずいっと顔を近付けた。
「じゃあもっと見てやる。ずっと見ててやる」
 不機嫌にボソッと低い声で言うと、アンディが嫌そうに目を細め、わずかに身を退いて、『ええ……』と顔を引きつらせる。
「嫌がらせ? 嫌がらせなの、これ? もういいよ。やめようよ。……ウォルターが相手じゃつまんないし」
「なんだと? コラ」
 さらに顔を近付けると、ぷいっとそっぽを向く。
 癇に障ったと目を吊り上げて怒ったフリをしていたウォルターは……いくらなんでもそこで本気で怒るほど大人げなくはない……それでもカードを放したり立ち上がったりするでもなくそこにいるアンディに、ふっと目を和ませて小さく微笑した。
(コイツ、なんだかんだ言って……)
 やさしいところがあるというか……いや、違うか。
(甘いな……)
 一番適切なのは多分それだ。
 甘えられているどころか、甘えさせてもらっているような、今の状況。
「……何ニマニマしてんの」
 いつのまにか笑みが大きくなっていたらしい。
 向かいのアンディが得体の知れない不気味なものでも見るような目でウォルターを見ている。
「気持ち悪い」
「ヒド!!」
 ぐさっと刺さった。あんまりだ。
 嘆くウォルターに構わず、アンディは手に扇のように広げたカードの中から一枚を抜き取り、床に積まれたカードの山の上に静かに置く。数字を言いながら。無表情に。
「ダウト」
 ウォルターはボソッと言った。
 本当に嘘だと思ったのではなく、さっきの仕返しで。
 アンディが黙って裏のカードを表に返す。
 そこにあったのは言った通りの数字で。
 『ああちくしょう』とウォルターは身もだえして、ビシッとアンディに指を突き付ける。
「アンディ!! おまえちょっとはウソの時とホントの時と表情変えろ! つまんないのはこっちだ!!」
 そのポーカーフェイスをなんとかしろ、と怒鳴る。
「そういうゲームでしょ」
 のけぞって指から逃れたアンディがあっさりと返す。
 ウォルターはもう何度目かの負けを数えているカードを床に叩きつけ、積まれたカードの山を乗り越え、アンディに近付くとその頬をつまんだ。そして軽く引っ張る。
「わ・ら・えぇぇえーっ!」
 さっとその手にアンディの手がのびて、がっしとつかみ、引きはがそうとする。それが無理なのを悟ると、アンディの手はウォルターの髪をつかんだ。そして引っ張る。
 辺りにはカードが散らばっている。
「んぐぐぐぐぐっ……」
「……ッ、いてぇいてぇっ」
「は・な・せぇぇえっ……」
 アンディの膝がウォルターの腹に入る。ドカッと、勢いをつけて。
 たまらず手を放し、腹を抱えてうめくウォルター。
 パッと距離を取るアンディ。
 赤くなった頬を押さえている。
 ウォルターはそれをにらみつけた。
 悪いのは自分だ。でも、ここで引けるか。
「……もう怒った!!」
 もはやカードのことは頭から忘れさられていた。


 でも、まぁ、こんなことができるくらいには。



作品名:ボクの扉 作家名:野村弥広