空に描く
3.
飛行船の最奥部には、遊馬とアストラルが今までに取り戻したナンバーズの数字が金属の柱に浮かび上がっている。
外の世界は、昨日の天気予報が正しければ一日中雨のはずだった。さすがに雨の中では絵が描けないので、今日の美術の授業は別の内容になっていることだろう。
アストラルがここに閉じこもっているのは、それが理由ではないけれど。
――私がいた証を残したい。
それは、九十九家の屋根の上で、満天の星空を眺めながらアストラルが遊馬に語ったことだ。
あの夜から数日、アストラルは自分の持てる限りのデュエルの心得を遊馬に伝えてきた。初対面の時と比べると、遊馬は随分素直にアストラルの言葉に耳を傾けてくれるようになった。
表面上、遊馬の言動に異変はなかった。相変わらず授業中は睡眠フェイズに入ったり、仲間たちと学校生活を楽しく過ごしたりしていた。しかし、アストラルは今朝見てしまったのだ。
雨の匂い漂う明け方。アストラルは遊馬が寝静まっている間に屋根裏部屋にこっそり出現した。遊馬はハンモックの上で、身体を丸くして横たわっていた。片腕で顔を覆い隠してしまっていて、表情一つもうかがい知れない。
彼はもう一方の手で皇の鍵を胸にぎゅっと押し付けたまま眠っていた。中にいるであろう誰かを鍵ごと抱きしめるかのように。それを呆然と見ていたアストラルの前で遊馬がううんと身じろぎした。遊馬が完全に覚醒する寸前にアストラルは咄嗟に皇の鍵の中に引き返し、現在に至る。
度重なるナンバーズとの激戦。ナンバーズハンターの出現。それらは、二人に否応なしに事実を突き付けてきた。いつかは別れる日が来る。ナンバーズを全て集めたら。未だ明かされない使命を果たしたら。……ナンバーズやナンバーズハンターに敗北したら。別れの可能性は、ことあるごとに二人の後をついて回る。この世界の住人ではないアストラルにとって、自分の存在は頼りないものだった。
遊馬にとっては残酷な行為だ。アストラルは十分承知している。別れがどんな形になるにしても、その時は遊馬の心に大穴をまた一つ開けて去ることになる。
それでも、ただ手放してしまうにはアストラルがここで得た物は余りにも多く、また余りにも愛おし過ぎた。残しておきたくなったのだ。自分の大切な思い出を、――自分がここにいたという証を、遊馬の記憶の中に。
アストラルは、柱に記されたナンバーズの数字を、No.96から手に入れた順とは逆向きに目でたどる。
アストラルの記憶のピース、ナンバーズカード。元は白紙だったそれに、持ち主となった人間たちは思い思いに描いてきた。自身の行動原理、誰かに対する感情、心の闇をモンスターの姿に変えて。
〈ホープは……〉
赤く輝くNo.39の数字を白と金の瞳が捉える。
No.39、希望皇ホープ。他のナンバーズが散逸した後も、デュエルの知識と共にアストラルの手元に残った唯一の物。
希望の名を冠したそのカードは、いつだってアストラルと遊馬の希望の力になっている。